ラオス

■1位賞金は600万キープ ボートレース(ビエンチャン編) 2007.12.4 update

《1位賞金6000,000キープ》
去る10月27日(土)、メコン河にて首都ビエンチャン主催のブン・スワンフア(ボートレース)が行なわれた。毎年恒例の行事で450年の伝統をもつといわれる。オークパンサー(僧侶たちの3ヶ月間の修行が明ける日)の翌日に開催される。雨天決行。メコン河沿いにあるワット・チャン(寺院)に大会本部が置かれ、この寺の前がゴール地点になる。

今年の競技には計27チームが出場。女子は7艘、男子は20艘(伝統船の部11艘、スポーツ船の部9艘)で、今年の最速チームを競った。男子伝統船の部の優勝はハーットキアン村(コマツチーム)だった。船をあしらった銀製のトロフィーを村に持ち帰り、来年の大会まで預かる。3年連続で優勝すると返還しなくてよいとか。副賞には銀製の優勝カップ(1kg)と600万キープ(約63,000円)が贈られた。

一方、女子の部と男子スポーツ船の部の優勝はターパ村だった。銀製の優勝カップ(1kg)と600万キープが贈られた。ターパ村は数年前までビアラオ(Beerlao)ビールの支援があった。今年、ウモン村(いすゞチーム)は3位入賞、ほかにもトヨタ、ホンダ、ヤマハチームの参戦があったようだ。3部門のそれぞれの決勝戦の直前には、5、6艘の船による一斉レースが行なわれ人目を引いた。

《ボートレース番外編》
本戦以外にフアファイ(火の船)とフアスーン(仮装集団の船)のコンテストがある。フアファイはボートレースの前夜に行なわれる。ろうそくで船を飾り立ててその美しさを競う。今年はワットチャン1号チームが優勝し賞金400万キープを手にした。フアスーンはボートレースと同じ日に行なわれる。仮装した人が歌い踊りながら、美しさ奇抜さ面白さを競う。女装したり観客に悪い冗談をいったりして非日常を演出する。ラオスでは年に2回、ロケット祭り(5月頃)とボートレース(10月頃)の日に無礼講が許される仮装集団が現われる。今年は役人チーム・メコンが優勝し賞金300万キープを手にした。

近くの通りでは、4郡12校から計234人の生徒が検問所をつくり、男女別に通行人の持ち物検査を実施した。メコン河沿いには1週間ほど前から衣料品、食料品、生活雑貨、おもちゃなどを売る屋台が立ち並び、コンサートのステージや的屋やミニ遊園地も例年通りのにぎわいをみせて祭りを演出した。ボートレースに船を出さなかった村の村人たちはこっちで楽しめる。

メコン河あるいはその支流から離れた立地の村では、船の維持管理と運搬のための費用の捻出が難しくまた練習するにも人員が確保できないために、実はボートすら持っていない。ボートレースはラオスの祭りというよりも、むしろメコン河とその支流に隣接した村人たちの祭りといえる。

2004年に死者16人を出すという不幸な事故があった。友好橋に近い民族文化公園付近で開催されたボートレースでティンピア村の女性のボートが強風にあおられて転覆。助けに飛び込んだ男性1名を含む16人が死亡した。以後、ティンピア村の女性はボートレースに参加していない。

今年一番のスポンサー企業はビアラオ(Beerlao)ビールで、大会側に3億5,100万キープ(約370万円)の資金協力があった。

《ルール》
全国的に行なわれるボートレースだが、地域ごとに独自のルールで行なわれている。どこででも見られる共通ルールは、(1)川の上流から下流にこぐ、(2)コースは直線、(3)男女別に行なう。

ビエンチャンでは出場チームを4ブロックに分けてブロックごとに総当たり戦を行なう。勝ち点で1位と2位になったチームが決勝トーナメントに進む。97年まで小型船によるレースも行なわれたが、祭儀の縮小と簡略化という時代の流れからか、現在、小型船のレースはなく大型のボートでのみ競技が行なわれている。漕ぎ手の人数は女子が40〜50人、男子が45〜55人とされ、伝統船とスポーツ船とを分けて競技する。距離はおよそ1kmの直線コース。

村主催によるもの、郡主催によるもの、県主催によるものとがあり、ビエンチャン県内でいくつものボートレースが随時小規模に開催されている。首都ビエンチャン大会への出場権をかけた予選と位置づける大会もあるようだが、基本的にはそれぞれの大会が独自に開催され完結している。ビエンチャン大会以降でもタートルアン祭り近くまで開催される。主催者から招待状がなくとも、申し込めば他県の船でも個人でも外国人(旅行者を除く)でも出場できる。建て前では村による対抗戦だが、近年では豪腕の漕ぎ手を別の村から雇い入れる例もある。

伝統船はケーンの木(通称ラワン)の丸太をくりぬいて作り、船の強度を高めるため竹を用いる。スポーツ船は同じケーン材だが組み木して作ったもので、強度を高めるために竹以外の素材を使用してもよい。いずれも全長約25m。見た目にはほとんど区別がつかないが、スポーツ船のほうは船体がややスリムで軽量。船の先端の突起物は取り外しが可能で、その形状はスポーツ船ではユニコーンの角のような形をしているのに対して、伝統船は先端部が左右に分かれたカブトムシの角のような形をしていることが多い。突起物の先端には旗をつける。伝統船とスポーツ船とで競えばスポーツ船の方が有利である。女子の部では両方のタイプの船が同時に競技をしたこともあったが、今年は伝統船のみでスポーツ船は見られなかった。

女子の部で外国人の女性を加えたチームが、今年スポーツ船を使用したいと申し出て却下された。不公平だという他の村の女子チームからの強い反対を受けて大会本部が判断した。伝統船を使うことが基本との考え方がありスポーツ船での出場には許可がいるようだ。地方の競技ではいまだに伝統船とスポーツ船とを区別しないことから、伝統船離れが進む。

《仏教に関係ありやなしや》
オークパンサーの日にはターックバーット(托鉢)とビエンティアン(僧侶と在家者とがろうそくを持って境内を3周する)が行なわれ、寺院や街のいたるところで花火をする。ボートレースは日程的にこれに続く行事になるが、仏教とは無縁である。ほかにもライ・フアファイ(灯ろう流し)、バンファイ・パニャナーク(ナーガ神の火の玉見物)、各家庭でのフアファイコーック(年に一度、模造船を作りろうそくを灯す)風習に僧侶はかかわらない。丸太をくりぬいたボートには仏陀ではなく木の精霊が宿ると考えられている。

ラオスのボートレースは、中国から伝播したとする説や、カンボジアから伝播したとする説、またかつての王室行事から起こったとする説などがあるが、いまだに定説はない。いずれにしても水稲文化と融合しており、稲作の終わる刈り入れの時期になると水と豊穣の神パニャナークを水田からメコン河に帰すのだという。パニャナークは本来メコン河を棲み家とするが田植えの時期になると引っ越して水田に住んでもらっている。

ボートの側面には何も描かれないことが多いが、ホンカム(鳥、火の神)かパニャナーク(龍、水の神)の絵が描かれることがある。ボートレースが終わると船は寺の境内に安置されることが多いが、これは寺院が村人たちの共有地として用いられているためで、仏教とは無縁。保管場所は小学校でも、村役場でもよい。

船に描かれたパニャナークには手や翼があるが、寺院の門や屋根に見られる「ナーク(仏陀を守護するナーガ神)」、「パニャナーク(ナーガ神の王)」にはそれが見られない。これは龍か大蛇かの違いである。ラオス人はどちらもパニャナークと呼び区別しないが、パニャナーク(龍)のルーツは中国であり、「パニャナーク(大蛇)」のルーツは「インド」である。ただし一般的に宗教は地元の信仰を一部取り込みつつ、あるいは権力と結びついて拡大する傾向があり、仏教も例外ではない。融合の度合いの程度については地域差、個人差を加味する必要がある。船体に火の神が描かれるのは洪水を防ぐためか。

《ラオスのボートレースいろいろ》 -参考 -
ボートレースは9月から12月までメコン河流域の各地で行なわれる。シェンクワンやサムヌアなど川のない地域でも湖や沼地を利用して行なわれるケースがある。5月に行なう地域が一部あるようだが、まずボートレースを開催するには十分な川の水位が確保されなければならない。レースが雨季の終わりに開催されるゆえんである。また狩猟採集、焼畑農耕の山岳少数民族は精霊信仰だがボートレースの習慣はない。これはレースに適した川がないからである。

ラオスのボートレースで大きい大会としては首都ビエンチャン主催(今年27チームが出場、1位賞金600万キープ)、チャンパーサック県主催(同約50チーム、800万キープ)、サワンナケート県主催(同51チーム、800万キープ)、ルアンパバーン主催(同13チーム、今年は9月11日に開催)などがある。近年、チャンパーサック大会、サワンナケート大会、ビエンチャン大会は同じ日に行なわれている。

かつてビエンチャン大会では男女で日程を分けてレースを開催したが、ここ数年は男女とも同じ日に行なわれている。ルアンパバーン大会に女子の部がないのは出場チームの減少によるものではなく、そもそも女性はレースに参加してはいけないとされているからである。生娘がパニャナークの棲み家を訪れて献花したり、白衣(幸運を象徴)の女性チームと黒衣(邪悪なものを象徴)の女性チームとが儀礼的にレースをして、きまって白チームが勝ってボートレースが開幕するなど、ルアンパバーン大会は他の地域とくらべて異色である。ビエンチャンでは1950年代に女性のレースがすでにあったことが報告されている。

チャンパーサック大会とサワンナケート大会の男子の部では大型船(伝統船/スポーツ船)、中型船、小型船、競技船の4部門で行なわれている。

画像上右上:レースに臨む村人たち(画像提供;西本昇平=ラオス国立大学=)
画像上左上:競技風景。向こう岸はタイ
画像上右下:フアファイ(火の船)
画像上左下:フアスーン(仮装集団の船)
画像中右上:ゴール付近で観戦する人たち
画像中左上:スタート地点方面で観戦する人たち
画像中右下:船体に描かれた「ホンカム(鳥、火の神)」
画像中左下:船体に描かれた「パニャナーク(龍、水の神)」
画像下右上:寺院の「パニャナーク」には翼や手足がない
画像下左上:3位入賞したウモン村の船。来年の出番を待つ
画像下右下:ウモン寺の境内の片隅に建てられた船の小屋

【謝辞】本稿は、早稲田大学の橋本彩さんにうかがった話を元に、寒川恒夫氏の講演記録(「ボートレースのシンボリズム」2006年11月29日ビエンチャン)と地元紙や雑誌を参照してまとめました。橋本さんには帰国前の忙しい時期にもかかわらず、取材を快く受けていただきました。ありがとうございました。


<<もどる