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カンボジアの首都プノンペンは、アンコール遺跡群のお膝元の町シェムリアップと比べるといわゆる観光名所というものは少なく、旅行ガイドブックで紹介されるプノンペンの一般的な「見どころ」は、複数の市場(トゥオルトンプーン市場、オリンピック市場など)と寺院、王宮とその付属建築、国立博物館、ツールスレン博物館、キリングフィールドくらいしかないためか、ゆっくりと腰を落ち着けてこの町を歩く観光客は少ないようです。
また、かつての不幸の歴史も関係し、「犯罪が多発する危険な都市」、「キリングフィールド」(*)、「ツールスレン虐殺博物館」(**)という暗いイメージが根強いようで、プノンペンという町の魅力が明るく語られることはほとんどありません。日本へ伝わる情報の少なさ・偏りもその一因でしょうか。
タイの首都バンコクから陸路でカンボジアへ入国し、シェムリアップを回ってベトナム南部のホーチミン市へ抜ける(またはその逆のルート)多くのバック パッカーにとっても、プノンペンは交通機関を乗り継ぐための「中継地」でしかなく、プノンペンを積極的に観光しようとする人はあまり見かけません。プノンペンのゲストハウスにバックパッカーが滞在する日数が短いこともそのことをよく示していると思います。
では、プノンペンは観光客にとって退屈な町なのでしょうか。否! 訪問者の興味にもよりますが、ガイドブックで紹介されている「見どころ」を回るだけでは知り得ない、プノンペンのもうひとつの楽しみ方もあります。今回は建築やカンボジアの近現代史に興味のある方のために、プノンペンに残る植民地時代の建築を歩く旅をご紹介したいと思います。
現在の首都プノンペンの歴史は19世紀後半にさかのぼります。現在のコンポンスプー州にあるウドンからプノンペンに都が遷され、当時カンボジアを保護領 としていたフランスによってプノンペンが首都として開発されることになったのです。最初に着手された地域は、現在の行政区画でいうドーンペン区(プノンペン北東部、オールドマーケット、カンダールマーケット、ウナロム寺院、王宮、国立博物館などが建つ地域)で、西欧式の都市計画に基づいて開発が進みました。この地域はフランス人を中心とするヨーロッパ人の居住区と定められたため、現在でもコロニアル建築の香りが漂う建築物が多く残る地域のひとつとなっています。ワットプノンの西側に建つ国立図書館やラッフルズホテル(1929年創業)、南東に建つ中央郵便局や上海航空のオフィスなどは、当時建てられた建築物で、増改築や修繕を重ねて現在も使われています。
オールドマーケットの北側を東西に走る遊歩道を歩くと、当時の建築と現代の人々の暮らしが混ざり合った光景を目にすることもできます。植民地時代の建築物の上に21世紀のカンボジアの暮らしが上塗りされた景色は、歴史を学ぶ意味を私たちに問いかけているかのようです。
ここからノロドム通りを南に下ってみましょう。ノロドム通りは官公庁関係の建物が建ち並ぶ大通りですが、それら官公庁の建物も多くが植民地時代に建設されたものです。ノロドム通りからカンダール市場のほうへ向かって進むと、一般住宅として利用されている多数のコロニアル建築を見学することができます(あくまでも外からですが)。この地域の住宅は、多くがカンボジア語でプテアロヴェーンと呼ばれる集合住宅の形態をとっています。プテアロヴェーンとは複数の長屋を積み上げたような構造をした建築で、1階部分は商店として利用されることが多いため、英語ではショップハウスと呼ばれます。
現在、ドーンペン区で見られるプテアロヴェーンは、多くは4、5階建てのものですが、19世紀前半に建てられたプノンペンのプテアロヴェーンは、2、3階建てだったと考えられています。住宅と住宅の間で垣間見られる人々の暮らしぶりも、この「建築ツアー」に彩りを与えてくれることでしょう。
みなさんも、「もうひとつのプノンペン」を知る旅に出てみませんか? 旅立つ前にプノンペンの歴史を学んでおきたいという方は、プノンペンの歴史に関する本を「プノンペン建築ツアー」のガイドブックとして使ってみてください。プノンペン市内の書店(ノロドム通り沿いのMonument Booksなど)で販売されています。きっと有能なガイドになってくれることでしょう。
参考資料:広島工業大学環境学部地域環境学科脇田研究室「プノンペンの昔と現在そして未来への希望」展, 2006年
註(*):ポル・ポト政権下、大量虐殺が行われた刑場跡の俗称。
註(**):ポル・ポト政権下には「S21号刑務所」と呼ばれ、激しい拷問と処刑が行われた。
画像上右:Hotel Internationalと記された建物。かつてホテルとして使われていたのだろうか(撮影地:カンダール市場付近)。
画像上左:植民地時代の建築の典型的な特徴を残す建物(撮影地:王宮そば)。
画像中:1階が商店、2階以上が住宅として使われているプテアロヴェーン(撮影地:カンダール市場の北西)。
画像下:現在、一般住宅として使われている建物の2階部分(撮影地:カンダール市場近く)。 |