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カンボジアの鉄道は、北線(プノンペン=ポイペト間の385キロ。ただし現在シソポン=ポイペト間の48キロには軌道がなく不通)と南線(プノンペン=シハヌークビル間の263キロ)の二路線があります。このうち、北線はフランス植民地時代の1929年に着工し、32年6月にプノンペン=ポーサット間が開業、42年に全線が開通しました。南線の建設は1960年に始まり、69年に全線が開通しています。
その後、1970年代から続いた内戦により、国内の鉄道施設・設備の多くが破壊されてしまいました。応急復旧やアジア開発銀行(ADB)による橋梁・軌道などの復旧工事が行なわれましたが、線路や車両の状態はまだまだ悪く、「世界最悪の鉄道ネットワークのひとつ」と評するメディア(BBC News, Cambodians ride 'bamboo railway' , 4 July 2006) もあるほどです。
建設当時の運行速度は平均時速70キロほどだったそうですが、線路の状態が悪く、車両も老朽化していることから現在では時速20〜30キロ程度での走行です。プノンペン駅の事務員によると、2007年1月からアジア開発銀行により再び鉄道の修復が行なわれるとのことですが、まだ始まっていません(2007年2月現在)。
各国の援助により、カンボジアの主要国道の整備が進み、複数のバス会社が地方間を結ぶバスを走らせるようになりました。例えば首都プノンペンからアンコール遺跡群のお膝元の町シェムリアップまでは、片道3.5ドル程度(所要約6時間)、カンボジア第二の都市バッタンバンまでは片道3.75ドル程度(所要約5時間)、南部のビーチリゾートとして知られるシハヌークビルまでは片道3.75リエル程度(所要約4時間)で行くことができます。
一方、鉄道を利用するとプノンペンからバッタンバンまではなんと20〜22時間もかかるのです(現在、プノンペン〜シハヌークビル間の旅客輸送はなく、貨物のみとなっています)。それでも運行し続ける鉄道とは、いったいどんな鉄道なのでしょう。実際に乗ってみることにしました。
現在、北線の旅客輸送は2日に1往復のみで、プノンペン=バッタンバン間の274キロを往復します。プノンペンを出るのは、スケジュール通りに動けば毎週土曜日の午前6時20分ですが、あいにく土曜日の朝は都合が悪いため、プノンペンから乗るのを諦め、バッタンバンから乗車することにしました。
バッタンバン発は毎週日曜日の午前6時20分なので、この時間までにバッタンバンに着いていなければなりません。そこで、土曜日の朝の用事を済ませた後、バス乗り場に向かい、鉄道に乗るためにバスに乗ってバッタンバンへ行くことにしました。午後2時発のバスに乗り、バッタンバンに着いたのは夜7時過ぎ。バッタンバン駅の位置を確認し、駅から近いところの宿を確保してから夕食を済ませ、次の日の鉄道乗車に備えて体を休めました。
翌朝、5時過ぎに起き、宿の近くの食堂で豚肉のせご飯とコーヒーの朝食をとってから歩いて駅に向かいます。駅舎内は薄暗く、一ヵ所だけ蛍光灯のともされているところがあります。切符売り場です。駅員に「プノンペンまで」と告げると、「外国人か、それともカンボジア人か?」と尋ねられました。カンボジアの鉄道にははっきりとした外国人料金が設定されているからです。カンボジア人の場合、走行距離が0〜100キロまでは1キロあたり45リエル、200キロまでは43リエル、300キロまでは40リエルとなっていますが、外国人の場合は1キロあたり一律80リエルの料金が課されます(1ドル=約4,000リエル)。およそ倍の料金ですが、別にサービスが倍になるわけではありませんし、座席の質が倍になるわけでもありません。違うのは料金だけです。
切符を買い、ホームへ入るとプノンペン駅へ向かう鉄道が待っています。ですが、発車まで5分もないというのに、肝心の機関車がまだ接続されていません。また、車掌たちものんびりと朝食をとっています。やはり時間通りには動かないようです。結局出発したのは1時間10分遅れの7時30分でした。
客車をのぞくと、話に聞いていた通り老朽化がひどく、床は床板が壊れて穴のあいているところがあり、客席のなかには鉄道の走行にあわせてぐらぐら揺れるものもあります。冷房はおろか、扇風機すらありませんが、窓が開け放たれているため、カンボジアの気候に慣れていれば不快感を感じることはありません。国道から離れたところも走るため、バスの窓からは眺められない光景を楽しむこともできます。
一応「トイレ」と呼べそうな空間がありますが、床に穴の空いた便器らしきものがあるだけで、それ以外のものは何もなく、穴をのぞくと線路が見えます。つまり、垂れ流しです。小便の際は別に困ることはないのですが、水すら流れないので大便のときはやっかいです。カンボジアの鉄道に乗ってみようと考えている方は、「大」のときのために紙を用意しておくといいでしょう。さらに付け加えるのなら、長時間乗車する場合は、懐中電灯とハンモックも大変役に立ちます。理由は以下に続く文章を読んでいただければ、おのずとおわかりいただけるでしょう。
速度は鉄道とは思えないほどゆっくりです。国道5号線と平行して走るところでは、ゆっくり漕いでいる自転車としばらく並走することもありました。国道を走るバスや自動車は、次々と鉄道を抜かしていきます。こんなスピードですから、ポーサット駅に着いたのは午後4時過ぎ。バスなら2時間くらいの距離のところを、鉄道は8時間半以上もかけて走っているのです。
日中は物売りを冷やかしたり、乗客を観察したり、車窓の風景を眺めたりできるので退屈はしませんでしたが、夜は別です。車内には灯りはなく、線路が敷かれているのは住宅がまばらか、もしくはまったく存在しない地域のため、夜は真っ暗で何も見えなります。読書も物書きも写真を撮ることもできません。話し相手でもいれば別ですが、日中話し相手になってくれていた車掌たちは、車内にハンモックを吊るして仮眠をとったり、懐中電灯を照らして切符の確認、不審者のチェックなどをしたりと忙しくしているため、一人で物思いにふけるくらいしかやることがないのです。
加えて、「夜は泥棒がでることがあるから、自分の荷物は自分できちんと管理しなさい」と車掌から注意されたため、眠ることすらできなくなりました。せめて体を横にして休めたいと思ったのですが、幅の狭い木製のボックスシートでは、僕の身長の場合、体をくの字に曲げてぎりぎり収まるといった感じです。精神的・肉体的になかなかきつい公共交通機関です。信用できる同乗者がいれば、交代で仮眠をとることができるので、乗車を考えている方は、複数人で乗るといいでしょう。
バッタンバンを午前7時50分に出た列車が、プノンペン駅に到着したのは翌日の午前4時20分。274キロを20時間半で移動するという「なが〜い」旅でした。
画像上右:バッタンバン駅
画像上左:客車を牽引する機関車
画像中:壊れたままになっている座席や床板
画像下左:乗客に干し魚を売る女性
画像下右:駅のところだけ複線になっている |