■雨季限定の商売「釣竿作り」 2007.1.16 update

首都プノンペンからトンレサープ川に架かるカンボジア日本友好橋を渡り、シェムリアップへ向かう道をしばらく進むと、ハンモックを備えたレストランの建ち並ぶバケンと呼ばれる地域に出ます。バケンに建つレストランの大半は、カンボジアの田舎でよく見られる高床住居を大きくしたような造りで、雨季(一般に5月下旬から10月下旬)の増水により床下が湖になります。

この自然の営みによって、レストランの床下に天然の「釣り堀」が生まれるのです。食事を楽しんだ後、くつろぎがてらこの「釣り堀」で釣りを楽しむのがプノンペンの若者達の間で人気です。釣り竿は、カンボジア日本友好橋付近やバケンのそばに位置するプレークリアプの路上に建つ露店で売られています。この「釣り竿屋」は雨季限定の商売なのです。

プレークリアプにあるヴァリン寺院前の路上脇で釣り竿作り・販売をしているナリーさん(47歳)は、カンボジア南東部のプレイヴェーン州出身です。プレークリアプ生まれの夫パウさん(39歳)と一緒に、畑仕事の傍ら釣り竿作りをします。この夫妻の場合、9月中旬以降のボンプチュムペン(カンボジアの盂蘭盆/うらぼんえ)の頃から釣り竿作りを始め、水祭り(11月上旬)が終わる頃まで作るそうです。

夫妻の子どもは7人で女の子ばかり。「この子なんて小さい頃からやってるから、一人で全部(釣り竿を)作ることができるのよ」と、ナリーさん。子どもたちは公立学校のほかに英語の語学塾にも通いながら、空いている時間を使って両親の仕事を手伝っています。ただし、あまりたくさん手伝わせると疲れて勉強の妨げになってしまうので、その点には気を配っていると聞きます。「いい親だろう!」。パウさんがにやけながら冗談めかして言います。

英語能力が直接給料の高い仕事に結びつくと考える人が多く、プノンペンには語学塾が雨後のタケノコのように次々と姿を現しています。パウ・ナリー夫妻も1ヶ月5米ドル(1日の学習時間は1時間程度)の授業料を払い、娘たちに英語を習わせているのです。外国人(筆者)が来たのでナリーさんは娘さんに英語で話してみろとせっつきましたが、娘さんは恥ずかしがって話そうとしません。カンボジア人、なかでも若い女性には照れ屋が多く、会話が成立するようになるまで時間がかかることは珍しくありません。初対面でこちらが外国人となるとなおさらです。ナリーさんが表情を曇らせて言いました。「あんた、バカじゃないの、勉強してるのにぜんぜん話せなくって!」

釣り竿は1本1,000リエル(約30円)で売ります。釣り竿作りで得られる夫妻の収入は1日3,000〜4,000リエル程度、1週間でおよそ2万リエル(約600円)。1ヶ月5ドルの授業料はこの夫妻にとって重い出費です。

仕事を始めるのは午前6時過ぎ。まず、業者から1本5,000リエルで仕入れた竹をカンペップロトゥオッと呼ばれる刃物で縦に割り、20本くらいに分けて竿の原型を作ります。竹はカンボジア東部のコンポンチャーム州やクラチェ州から運ばれてきます。次に竿の原型の表面や角を削って形を整えます。見た目を美しくし、かつ使用者が竹の角で手を切らないようにするためです。成形が終わったら、プレークリアプ市場から買ってきたベトナム製の釣り針と釣り糸を竿に結びつけ、釣り糸に浮きを通せばできあがり。完成したら穴つきレンガを入れたバケツに挿し、道の脇に置いて小さな袋に入れたエサと一緒に売ります。

エサは市場で1キロ1万2,000リエルで仕入れてくる小さな昆虫のほかに、近所で採取してきたミミズも使います。浮きは使用済みのビーチサンダルを使って作ります。ビーチサンダルの汚れた部分をハサミで薄く切り落とし、さらにハサミで長さ2センチくらいの直方体に切って浮きにするのです。作業は仕入れた竹を削り終わるまで続けます。1日に作る釣り竿の数は少ないときで20〜30本、多いときで30〜40本程度。ずっと座って作業をするため、腰が痛くなるそうです。

同じくヴァリン寺院前の路上脇で釣り竿作りをしているクムヘーンさん(49歳)は、甥や姪と一緒に仕事をしています。生まれも育ちもプレークリアプで、釣り竿作り歴は10年以上。夫は大工で4人の子どもがおり、みな学校(公立学校と語学塾)に通っています。ただし、パウさん夫妻とは違い、クムへーンさんの子どもは釣り竿作りができないそうです。

制作工程はパウ・ナリー夫妻と基本的に同じですが、クムヘーンさんは短い竹の棒とスポンジで作った簡易なつくりの筆を使って色を付けた竿も売ります。竹はコンポンチャーム州産のものを1本3,500リエルで仕入れ、それを25本くらいに切り分けて使います。「この竹を切り分ける作業が一番難しいのよ」とクムヘーンさんが言います。1日に作る竿数は50本程度。エサの小エビは1キロ6,000リエルで市場から仕入れて小さいビニルに詰め、3袋500リエルで売ります。

乾季の仕事は茹でトウモロコシ売りで、7月中旬ごろから水祭り(11月上旬)が終わる頃まで釣り竿作りをするそうです。釣り竿作りによる日収は、バケンに遊びにくる人の数に左右されるため一定していません。「土日はバケンに遊びにくる人が多いのでたくさん売れるけど、平日はあまり来ないからそんなに売れないわね。10年間そんな感じよ」。ここ数年は1ヶ月の収入が10万リエル(約3,000円)程度だと聞きますが、その大半は食費などに消えてしまうため、生活は楽ではないようです。

画像上:竹を削る作業をするパウさん
画像中左:お客さんにでき上がった釣り竿を売るクムヘーンさん
画像中右:竹を削る刃物を研ぐパウさん
画像下:エサとして売られているミミズ


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