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午前9時30分頃、首都プノンペンのとある住宅地に大きなかけ声が響き渡ります。「モホープ、モホープ(「食材、料理」などの意味)!」。その声にあわせるように、昼食の献立を決めた近所の女性たちが道路に出てきます。木製の人力リヤカーに食材を載せて売る食材売りの声です。
売られる食材は日によって変わりますが、野菜、各種香辛料、魚、肉と一通りそろっています。売り子さんに聞くと、プノンペンのダウムコー市場で仕入れ、リヤカーを引きながらプノンペン南部のトゥオルトンプーンまで売り歩くそうです。食材は一部の例外を除きすべて計り売りのため、リヤカーにはまな板と包丁、量りが備わっています。
客の多くは主婦。自宅のすぐ前まで売りに来てくれるため、市場まで行く時間を節約したい忙しい主婦には重宝されているようです。食材を求めて女性たちが姿を現すと、売り子は歩みを止めて商売を始めます。女性たちは世間話や昼食の話をしながら食材を吟味し、値切り交渉に入ります。売り手が「売るプロ」なら、女性たちは「買うプロ」です。必ずしも希望通り値切れるわけではありませんが、女性たちの値切り攻勢に売り手がたじろぐこともあります。
トマトを買いに来た女性が数個の傷んだトマトを見ながら「あまりいいのがないわね」と漏らしたのを聞き、売り手が口を開きました。「そのトマト、全部カンボジア産なんだから、いいトマトですよ」。するとその女性がすかさず応じます。「そんなにいいトマトだって言うなら、(売らずに)取っておいてあんたの奥さんに食わせればいいじゃない!」。困った顔をした売り子を見て、周りの女性たちがくすくす笑っていました。
リヤカーに積んで売り歩くため、食材のなかには風や日光にさらされてやや萎びたり水分を失ったりしてしまうものもあります。買い手はそういったマイナス点を鋭く見抜いて値切るのです。逆に売り手は食材の質をいかに保ちながら売るかがポイントとなるようです。買いに来ていた女性が教えてくれました。「値段はね、質に寄って変わるのよ。同じ野菜でもいい物には高い値段がつくけれど、そうでないものは(値切って)安く買えるの」
仕事始めは午前3時からで、午前10時まで売るそうです。売り子さんは冗談も欠かしません。ハエのたかった食材を見て、「心配しないで。(農薬などの)薬はいっさい使っていませんから。もし使ってたら、ハエは健康を害するのを恐れて集(たか)って来ないはずですよ」
買い物を終えたお客さんがそれぞれの家に帰ると、売り子さんはリヤカーを引きながら再び歩み始めました。「さて、また旅に出るとするか(*)」
註(*):カンボジア人特有のちょっとした言い回し。実際に「旅」というほどの距離を歩くわけではありません。
画像上:01.jpg:リヤカーに備えられた量り
画像中:買いに来た女性
画像下:市場で見られる一般的な野菜売り場
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