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以前、路上であるカンボジア人男性からベトナム移民の話を聞きました。その男性を仮にTさんとします。そのとき、Tさんからカンボジアの医療事情についてのちょっとした話を聞いたので、今回はそれについて書いてみようと思います。
Tさんは以前あるホテルで働いていましたが、事情により無職となりました。現在は首都プノンペンの南東部に建つ兄の家で義理の伯母と一緒に暮らしています。ホテルで働いていたとき、日本語を勉強していたことがありましたが、仕事がなくなった今、日本語の学習にあてる費用がなくなり、学校で勉強を継続することができなくなりました。「今は仕事がないから、お金がなくってね。2年くらい日本語を勉強したんだけど、今ではすっかり忘れてしまったよ」
カンボジアでは、無職の人のことをからかって「チョントアックヒョル(「風を蹴る人」の意)」と言うことがあります。知人のカンボジア人によると、この「風を蹴る人」というのは「仕事がなく、毎日風を蹴るくらいしかやることがない」という意味で、日本語の「プー太郎」に近い表現のようです。
「無職」で思い出しましたが、以前、あるカンボジア人と食事をしたとき、こんな話を聞きました。カンボジアでは、仕事がなくて外に遊びにも行かず、いつも家にいる男性を指して「女みたいな男だ」と言うことがあります。カンボジアの伝統的な社会では、男性は外で仕事をし、外へ遊びに行くのに対し、女性は家にいて家事に従事し、家のこと(農村部では農作業などを含む)を切り盛りする一方、お金を使って外で遊ぶことはほとんどしないからだそうです。つまりほとんど外に出かけず、いつも家にいるような男性は、女性のように見えるというのです。といっても、現在では社会状況が変わってきているため、この限りではありません。
話がややそれました。Tさんは、カンボジアとベトナムの経済状況についてざっと説明をしたあと、次のように言いました。「お金とパスポートを持っている人は、重い病気を患ったとき、ベトナムの病院へ行って治療するんだ」と。プノンペンには中国系の医院が増えてきていますが、重病に対応できる設備や医師の整った病院はまだ多くなく、所得の割に医療費も高めだといわれています(教員や警察官などの地方公務員で月収25米ドル程度、屋台を営む人で40米ドル前後、縫製工場の女性労働者で45米ドル程度から、外国のNGO勤務で100米ドル程度から)。そのため、ちょっと体調を崩したり、軽い風邪をひいたとき、薬局へ行って症状を告げ、薬を買ってそれで治す人が多いのです。
Tさんによると、東の隣国ベトナムにはカンボジアと比べて優秀な医師や設備の整った病院が多く、医療費も安いとのこと。プノンペンからならば、国道1号線をまっすぐ6時間程度走ればベトナム南部の都市ホーチミンに着きます。別のカンボジア人によると、西の隣国タイにも設備や医師の整った病院は多いのですが、ベトナムと比べると医療費が高いそうです。
体を壊しても病院に行かず、薬局で済ませてしまうカンボジア人を見て疑問に思い、尋ねたことがあります。するとこんな答えが返ってきました。「医者に行くとお金がたくさんかかるのよ。だからみんな薬局で薬を買って治すの」。購入する薬の種類にもよりますが、軽い風邪の症状なら1米ドルちょっとで3日分の薬を買えるため、医者にかかるのと比べて経済的な負担が少なくて済みます。
薬は韓国、インド、タイ、シンガポール、マレーシアなどの諸外国からの輸入品が販売されているため、たいがいのものは入手可能です。経済的な負担だけで健康のことを考えるべきではないし、医学の知識のない人間が自覚症状だけで判断するのは危険ですが、この国の現状を考えた時、先立つ物がない人たちが薬局に頼るのは現実的なのでしょう。プノンペンの町ににょきにょきと姿を現す薬局の数がそのことを端的に物語っているような気がします。
画像上:プノンペンのオリンピック市場付近に建ち並ぶ薬局
画像中:中国人の経営する医院(プノンペン・シハヌーク通り沿い)
画像下:地域ごとにヘルスセンターが建っている(プノンペン・プサーダウムスコウ)
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