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一般にカンボジア人はベトナムに対して反感を抱いています。その理由は、領土問題やフランス植民地時代(1863〜1953)にフランス人がベトナム人を使って間接的にカンボジアを統治したこと、商売や金銭をめぐるトラブル、現在も続く国境侵犯問題などが指摘されています。また、あるカンボジア人は、カンボジア南東部のスウ゛ァイリエン州やプレイウ゛ェーン州に入植するベトナム人の言動がカンボジア人の感情を刺激していると説明します。
彼女の友達に父がベトナム人、母がカンボジア人という女性(以下、Kとする)がいるのですが、Kは大学時代、父親がベトナム人であることが原因でカンボジア人の友達がほとんどできなかったそうです。少数派かもしれませんが、なかには「なぜ嫌いなのかと聞かれても、はっきりとした理由はわからない」という声も聞きます。特定の理由もなく在日朝鮮人や中国人を差別する一部の日本人を想起させる声です。
理由はさておき、通常、カンボジア語でベトナムのことを「ヴィエトナーム」と言うのですが、ベトナム人を嫌うカンボジア人は「ユオン」という蔑称を用います。例えば「あいつはユオンの子だ」「ユオンはクマエ(クメール)の領土を食い物にするんだ」「ユオンの女」といった風に使われます。
さて、前に住んでいた家がモトドップ(バイクタクシー)のたまり場のすぐ前であったため、顔を会わせる度にくだらない話(ほとんど下ネタだ)をするモトドップの知り合いが何人かいます。カンボジア語の会話集や旅行ガイドブックなどを見ると、「どこへ行くの?」、「ごはん食べた?」は挨拶の代わりに使われる表現だとありますが、彼らは僕と目を合わせるとニヤニヤしながら、けっこうお下品な挨拶を嬉しそうに投げつけてきます。
こういうのをいちいち真に受けてはいられません。「今日は疲れているから行かないよ」といった風に適当にかわすに限ります。彼らだって単なる冗談で言っているに過ぎず、客待ちをしている暇な間、ちょっとした暇つぶしの相手が欲しいだけなのです。
数ヶ月前、久しぶりに彼らのたまり場に顔を出したときのことです。モトドップのMがニヤニヤしながら近寄ってきて口を開きました。「ユオンのおやつもう食べたか?」と。この場合の「おやつ」は隠語です。いいタイミングだと思い、前から突っ込んでみたかったひとつの問いをぶつけてみました。「『ユオンの女は色が白くてきれいだ』『ユオンの女はいいぞ』ってよく言うけど、あんたたちカンボジア人はベトナムが嫌いだろ? それなのにベトナムの女はいいっていうのかい?」するとMは嬉しそうに答えました。
「おー、確かにカンボジア人はベトナム人が嫌いだ。でも日本人だって中国やコリアが嫌いなはずなのに、団体旅行者が中国で買春事件をおこしたのを新聞で読んだぞ」と。確かに何年か前、この事件が報道されました。「事件」の日本人団体が中国に対してどんな感情を抱いていたのかは知りませんが、日本人の中には中国人やコリアが嫌いだという人がいることも事実です。
Mが言いたいのは、集団としてのカンボジア人が抱く反ベトナム感情と、ベトナム人の異性に抱く感情というのはまったく別問題だということのようです。男と女の個人的な関係は、国と国とが抱える政治的・歴史的・経済的な問題を越えるということでしょうか。まあ、理解できる話です。
食べ物を通して見ると、反ベトナム感情のもうひとつの側面が見てきます。カンボジア人の好む食べ物にソムロームチューユオン(「ユオンの酸っぱいスープ」の意)がありますが、これはベトナムの「カンチュアカーロック」と呼ばれる酸味のあるスープが元祖です。ベトナム人を嫌い、「ユオン」と蔑称するくせに、その「ユオン」が食べている食べ物を好む。食べ物にも前述の問題を越える力があるようです。
もちろん、カンボジア人のなかにもベトナム人に対して友好的な人はいます。友人のNにはベトナム人の友だちがいて、そのベトナム人女性からベトナム語を教わっています。Nの家はベトナム人が多く暮らす地域にあり、小さい頃から日常的にベトナム人と接してきたからでしょうか。Nはベトナム語を話すことはほとんどできませんが、ベトナム人が話していることを理解できるため、ベトナム語の勉強は楽しいと言います。
画像上:ベトナム料理のカンチュアカーロックが元祖と考えられる「ソムロームチューユオン」
画像中:ベトナム人が経営するコーヒーショップ。パラソルのベトナム語表記に注目
画像下:首都プノンペンにあるベトナム人のための協会。看板にあるカンボジア語の表記を直訳すると「カンボジア王国にあるベトナム協会(または社会)」となる
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