■ファーストエイド - 前編 2007.7.3 update

僕が移住した1998年頃はニュージーランド(以下NZ)はまだマイナーで、「オーストラリアに住んでるんだっけ?」なんていわれたものです。最近はちゃんと区別されるようになったばかりか、「NZはこの世の楽園」という認識も定着してきたようで、うれしいかぎりです。

でもこの世に楽園なんてありゃしません。NZはたしかにとても美しく、人も優しくおだやかで、すごく暮らしやすいとこです。もちろん問題も山積みです。医療面もその一つ。医療技術そのものは決してひけをとりませんし、むしろ日本よりもいいと思える点も多々あります。でも、医師が少ない、医療費が高い、設備の貧弱な診療所が多いなど、見劣りする点はきりがありません。救急病院も少ないので、救急車を呼んでから病院到着までの時間も、日本と比べると桁違い。

でも欠点があれば、それを補うシステムが発達するのは世の常。NZの場合、ファーストエイド(応急処置、以下FA)がおどろくほど進んでいます。日本との違いはあまりにも多くて、何からどうお話すれば迷いますが、まずは一般的なコースの教材をご紹介しましょう。右上の画像はセント・ジョンという組織が最近導入した教材。空気で膨らませるCPR(心肺蘇生法、いわゆる心臓マッサージ&人工呼吸)練習用ダミー人形とCPR解説DVD付き。もちろん受講後は持ち帰れます。これには僕も驚きました。

教材も立派ですが、もっとスゴイのは教育システムそのもの。日本の普通救命救急講習(半日)はCPR(およびAED-自動体外式除細動器-)に終始、上級講習(全日)でもやっぱりCPR中心なのが普通。救急車のスピードに自信があるので、心肺さえ動いてれば他の処置は救急車到着後で充分、心肺停止だけは一般人のCPRに頼らざるをえない、ってな理由かなぁと思ってますが、どうでしょう? 逆にNZは救急車のスピードをあてにできませんから、あらゆる傷病にFAが大きなウェイトをしめます。よって普通講習(二日)だとCPRはせいぜい一時間程度で、それ以外の一般的疾病の処置をみっちりやります。

重視されてるのは、シナリオ訓練。基礎を一通り習ったあと、受講者が代わりばんこにファーストエイダー(以下FAer)役と怪我(病)人役になって応用問題を練習するわけです。たとえば「帰宅すると妻が台所で倒れていた」なんてのはよくあるシナリオ。もし感電だったらFAerが二次災害にあう危険があるとこがミソ、よって「よく出る問題」です。交通事故の場合もFAerが二次事故にあいやすいので、同様によくとりあげられます。こういうのが上級ではなく、普通講習に組み込まれてます。僕が実際に交通事故現場でFAした際も、いあわせた人たちがすぐに交通整理を始め、シナリオ訓練の成果を実感したことがあります。

僕のもう一つの仕事はシーカヤック・ガイド。僕らが職場で受講するアウトドアFAだと、シナリオ訓練が本番さながらのサーチ&レスキューになります。たとえば「荒波に洗われる岩の上でカヤック発見、気を失ったカヤッカーが下敷き」とか。歩くだけでも厄介な滑りやすい岩場で、遭難者は脊髄や頭部に怪我をしていて、でも出血がひどいし潮が満ちてきてるので、迅速な搬出が必要、などと意地の悪い状況が設定してあります。

設定の事前説明はありません。FAer自身が捜索して遭難者を発見し、状況を観察して自力で診断、判断、処置、行動を決定します。一歩間違えれば本当に大けがになる場所での訓練ですから、遭難者役もFAer役も全員脂汗冷や汗まみれでグッタリ。でもこれだって上級講習ではなく、普通講習のバリエーションにすぎません。日本とはいささかレヴェルが違いますね。

まだまだご紹介したいことは山盛りあるのですが、紙面がつきました。続きは次号にて。

画像上段右上:セント・ジョンの教材、NZ$25(NZ$1=90円前後-2007年6月現在-)。
画像上段右下:教科書類の他に、CPR練習用ダミー人形と教則DVD付き。立派。
画像上段左:僕の職場のFA講習、屋外でのシナリオ訓練。出発直前の打ち合わせ中の救助隊役。ただし遭難者がどこにいるか、どういう怪我をしているか、などの詳細情報はまったく与えられない。「この付近でカヤッカーが行方不明」というリアルな情報および持ち物や指揮系統のチェックだけ。
画像下段右:シナリオ訓練も佳境に。潮が急に満ちてきている岩場で遭難者発見。脊椎損傷の疑い濃厚。救助隊員同士で搬出方法を相談中。
画像下段左:シナリオ訓練終了後。怪我人役は、こうした特殊メイクをほどこす。アウトドアFAだけではなく、普通一般講習でも血糊たっぷりリアルメイクでシナリオ訓練をやる。キウィ(NZ人)は悲鳴やうめき声も派手なので、リアルなことこのうえなし。通りがかった人がホントだと勘違いすることもしばしば。

【短信】シーカヤック・ガイドの仕事を大幅に減らして、あいかわらず自宅建築現場につめています。大工さんの手伝いになってるのか、ジャマしてるだけだかよく分かりませんが、とりあえずフレームは組み上がりました。自分の手で家を建てるってのは、とてつもなく楽しいです。(6/17)


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