■いにしえの固焼き煎餅、ボラッシャ・デ・ピエダデ量り売り 2007.7.17 update

セトゥーバルの夏祭「サンチャゴ祭り」に出かけた時のこと。夕方7時になってもまだ太陽はガンガン照りつけて、露店などは準備中の所が多く、人通りもまばらだった。でも一軒だけ人だかりがしている露店があり、10人ほどが並んで待っている。何だろうと思って近づくと、カウンターの上には秤(はかり)があり、そこでお客の注文に応じてクッキーを量り売りしていた。

クッキーのことをポルトガルではボラッシャという。見るからに素朴な感じで、一枚、一枚、形がゆがんでいる。厚さは5ミリほどだが、かなり硬そうな感じ。焼きかげんもばらばらで、白っぽい色からほとんど焦げる寸前のものまでバラエティーに富んでいる。ほとんどの人が1キロ単位で買っている。カウンターの中には大きな籠が数個置いてあり、どの籠にもボラッシャが山盛り。それがどんどん売れて減ってゆく。

その時、若い男が別の新しい籠を担いで運んできた。その中にもボラッシャが山のように積まれている。どこかで焼いて、次々と運んでいる様子。見るからに素朴なお菓子だが、並んでまで買うほど人気があるのだから、きっと美味しいのだろう。私も試しに500グラム買うことにした。カウンターの上には「ボラッシャ・デ・ピエダデ」と読める大きな看板が吊ってある。このクッキーの名前らしい。

ピエダデというとすぐに小さな村が思い浮かぶ。セトゥーバルからバスに乗って1時間ほど離れた所の港町セジンブラに行く途中にある小さな村、それがピエダデという名前だ。バスは国道から急に狭いわき道に入り込み、古い井戸のある広場で止まって村人を降ろしたり乗せたりしたあと右に曲がるのだが、その道の左側の家数軒が道にせり出しているので、道はバスの幅ぎりぎり。私はここを通るたびにひやひやとしながら乗っていた。家の壁がバスの窓をこすりそうなほど狭い。たまに対向車があると、相手は心得たもので道の終わり、少し広くなった所でじっとバスが通り抜けるのを待っている。バスがよたよたと通り抜けたその先にはワインの造り酒屋があり、秋になるとどこからともなくワインの香りが漂ってきたものだ。ピエダデはそんな雰囲気の村である。

このボラッシャも素朴すぎるからひょっとしてと思い、そのピエダデ村で作っているのか…と尋ねたら、「違う、セトゥーバルだよ。ピエダデは店の名前で、200年前から続いているよ」と言う。あのピエダデ村とは関係がないのか…と少しがっかりした。しかしそのボラッシャはほんとに素朴。そして硬くて歯が立たない。無理をすると歯がもげそう! でも口に含んでしばらくするとまわりが柔らかくなって、ほのかな甘味と塩味、そしてフェンネル(和名:ウイキョウ)の香りがじわっと広がる。以前、伊賀の忍者が非常食として持ち歩いていたという煎餅を知人から貰ったことがあるが、これがものすごく硬い煎餅。煎餅というより固焼きクッキー、でも素朴な旨味があった。ボラッシャと何か通じるものがある。

ある日、セトゥーバルのフィリッペ城の下に広がる旧市街を歩いていた。城壁のなかにある地区で、周りの家々はどれも数百年以上も経っていそうな古い町並みだ。その狭い路地の一角に小さなお菓子屋が目に付いた。入り口のテントには「ボラッシャ・デ・ピエダデ」という名前があった。サンチャゴ祭りに出ている露店と同じ名前。こんな所に店があったのだ。辞書を引くと「ピエダデ」というのは「信心」という意味がある。ここから少し坂道を登ったところはサン・フランシスコ・ザビエルという名の付いた地区があり、私は以前からどうして歴史上有名なスペイン人宣教師の名前がついているのかと不思議に思っていたのだが、最近、公園にザビエルの銅像が建ち、セトゥーバルに1537年から滞在したと書いてあったので驚いた。

ザビエルがどのくらいの期間そのあたりの教会にいたのかは分らないが、実際に滞在したので、後にフランシスコ・ザビエル地区と呼ばれるようになったのだろう。その後、インドのゴアに行き、1549年鹿児島に着き、長崎や大分の後、堺から京都に行って天皇に拝謁したいと願ったがかなわなかったという。

ここからいっきに私の空想の世界に入るのだが、ボラッシャ・デ・ピエダデは「信心」という意味からして、もともとフランシスコ・ザビエル地区にあった教会か修道院で作られていたのではないかと思う。ザビエルの時代にセトゥーバルの固焼きボラッシャを宣教師たちが長い船旅の嗜好品、非常食として船に積み込み、それが日本まで持ち込まれて、やがて滋賀や近江あたりに広がって、伊賀忍者の非常食固焼き煎餅のルーツになったのかもしれない…などと考えてしまう。突飛な話かもしれないが、ぜんぜんありえない話でもない…と思うのだが。

画像上右:サンチャゴ祭りの「ボラッシャ・デ・ピエダデ」の露店
画像上左:お客の注文に応じて、次々とボラッシャ(クッキー)を量り売り
画像中:フェンネル(ウイキョウ)の入ったボラッシャ・デ・ピエダデ
画像下左:旧市街にある「ボラッシャ・デ・ピエダデ」の店
画像下右:セトゥーバルの公園に立つフランシスコ・ザビエルの銅像


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