|
ローカルバスを乗り継いで、レゲンゴス・デ・モンサラシュの町に着いたのは夜7時を過ぎていました。冬の一日は短く、あたりはもう真っ暗。しかもバスの終点はとても寂しそうな所で、そこが町のどのあたりなのか見当がつきません。初めての町に暗くなってから着いたので、とても不安です。運転手に町の中心を尋ねて、その道を歩いて行き、角を曲った時に、小さな灯りがポッとひとつ見えたので少し安心しました。そしてその灯りの奥から歌声が聞こえてきたのです。朗々と響き渡る力強い男性合唱。田舎町の暗がりの中での意外な出来事で、ひどく印象に残りました。
趣味の人達が集まって合唱の練習をやっているのだろうか、それにしては独特な歌い方だと思っていたのですが…。それから何年か経ったある日、TVのドキュメント番組を見ていたら、あの時耳にしたのと同じ歌声が流れてきたのです。20人ほどのおじさん達が腹の底から発声する合唱、伴奏はいっさい無いアカペラです。時々高い声のソロが入り、また低い力強い合唱に戻る。場所も私たちがあの夜聞いたのと同じ町、レゲンゴスでした。
番組はそのほか、別のいくつかのグループも紹介していました。アレンテージョのレゲンゴスを中心にした周辺の町や村に合唱隊があるというので、それぞれに取材。ある場面では、居酒屋でテーブルを囲んだ数人が映りました。その中の一人が歌い始めると、誰ともなくそれに被せるように引継ぎ、自分流にアレンジして歌いだす。それに他の数人がハモって大きな流れの合唱になり、それからまた誰かがソロを引き継ぐ。とても素朴だが、味わい深い。まるでブルースの掛け合いを聞いているようです。2時間ほどのドキュメントを見終わって、すっかり興奮してしまいました。
これは絶対に彼らのCDが欲しい!とあちこちのレコード屋を探し回ったのですが、見つからない。ある時、露天市のレコード屋でそれらしきカセットテープを見つけて買いましたが、それは伴奏の入った、どちらかというと素朴な民謡で、祭りのフォークダンスの時に歌う甲高いフォルクロアだったのでがっかり。
それ以後も目指すCDはどこを探してもないので諦めていたのですが、ひょっとしたらレゲンゴスの町のレコード屋では売っているかもしれないと思いついて、久しぶりに行ってみました。でもレコード屋らしき店は見あたりません。せっかく3時間もかけて来たのにこのまま家に帰るのはもったいない。最後の手段で、町の観光局に行って「あちこち探したけどどこにも売ってない、どこに行ったら買えるでしょうか?」と相談しました。すると係の人はどこかに電話をかけたあと、奥に引っ込んで、しばらくして戻ってきた時、手にはCDが握られていました。わざわざ倉庫に行って探してくれたのです。
そのCDは何かの記念に作ったものらしく非売品なのを、特別に無料で頂きました。感激! おかげでやっと念願のCDを手にすることになりました。一曲ずつ歌詞カードも付いています。レゲンゴスの郊外、スペインとの国境にあるモンサラシュ村。小高い丘の頂上にあり、遠い昔、周りから攻めてくる敵を発見するために衛兵が見張りをしていた砦の村。そのモンサラシュ村と周辺の景色、そのあたりに代々住む人々、それらを愛してやまない気持を切々と歌った内容です。
CDで聞いていると、どうしても彼らの生の歌声を聞いてみたくなりました。そんな時、それは去年の1月6日でしたが、クリスマス最後の日の催しとしてレゲンゴスの町でコンサートがあったことをニュースで知りました。でも後の祭り。彼らのコンサートがそのあとどこであるのかという情報も分からないし、しかたなくそれから密かに一年間待って、いよいよ今年、泊りがけで出かけました。その前に観光局に電話して、確かにその日に間違いなくコンサートがあるということと、開始時間が夜の9時30分だということをしっかり確かめてから…。
ポルトガルに住んでいて困ることは、何かの催し物などに行きたいと思っても、開始時間が夜の9時、または9時半だということ。たとえばサッカーは夜9時から、闘牛などは夜の10時からしか始まらない。早寝早起きの私たちにはとても不便な習慣です。でも今回は一年間待ったコンサートだし、泊りがけだから、どんなに遅くなってもだいじょうぶ。会場は中心の広場に面した公会堂で、ホテルも道を挟んだ向かいです。部屋を決めたあと、モンサラシュ村にも行きましたが、すごい濃霧。モンサラシュもレゲンゴスも昼間からまっ白な濃霧にすっぽり覆われて、幻想的な雰囲気が漂っていました。
レゲンゴスに戻ったのは夕方。チケットが売り切れたら困るので、前もって買いたいと思って公会堂の入口を何度も覗きましたが、ドアはぴったり閉まって、いつまでたっても人の気配がありません。しかたなく諦めてレストランでゆっくりと夕食を取り、会場に行くと、入口のロビーはいつの間にかたくさんの人。その中にはソフト帽を被り、腹帯を締める正装をしたおじさん達が数人いました。その中の一人にチケットはどこで売っているのかと尋ねたら、「無料ですよ」とのこと。
コンサートはバックスクリーンにモンサラシュ村やレゲンゴス周辺の風景がスライドで映され、詩の朗読と交互におじさん合唱隊がアカペラで歌いました。それは力強く、堂々として素晴らしい。やはりわざわざ遠くから生の舞台を見に来て良かったと思いました。しかもおじさん達の顔は一人一人とても個性的で興味深い。家でCDを聞くだけでは分からないことです。デジカメでパチパチ。でも舞台の照明が暗いのとフラッシュをたけないので、写りが良くないのがとても残念! 次は昼間に何処かでやってくれたらいいのにな〜とひそかに願っています。
画像右上:濃霧が一時的に晴れた、レゲンゴス・デ・モンサラシュの中心広場。
画像左上:山頂の砦の村モンサラシュは昼間も濃霧に包まれていた。合唱隊の唄はこの村を中心に歌っている。
画像中:砦の村モンサラシュでのスライドをバックに、コンサートが始まった。
画像左下:総勢23人のおじさん合唱隊。メンバーは年配の人ばかり、若い人はほとんど見かけない。
画像右下:やっと手に入れた念願のCD。
【短信】こちらはだいぶ春らしくなってきました。道端には黄色い花がびっしりと咲き乱れ、アーモンドの花も七部咲きです。遠くから見ると、まるで桜の花のように思えます。(2/8) |