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ポルトガルに住み始めたころは日本食の基本的な材料を手に入れるのが大変でした。新鮮な魚はメルカドで買えるけど、醤油とワサビが必要です。ワサビは粉ワサビを日本から持ってきますが、一年分の醤油を日本から担いでくるわけにいきません。
あちこち探し回った結果、そのころまだ出始めだった健康食品店でなぜか「TAMARI」という名前で、薬ビンのようなものに入ったたまり醤油を発見して、それを買って刺身専用に使っていました。それは卓上ビン程度の小さなもので、しかもいつもあるわけではないので、見かけた時は数本をまとめ買いしたものです。その後リスボンの中華食品店の存在を知りました。日本の醤油も並んでいるのですが、値段が高いので毎日使うにはちょっと贅沢だし…と悩みつつ使っていましたが、少し塩辛くて、もひとつ満足できない味なのです。
あれこれ試しているうちに、新入荷の醤油が目に付きました。台湾産の醤油ですが、中国醤油とはまったく味が異なり、コクと旨味がたっぷりの、まさに本醸造の醤油でした。子供のころから慣れ親しんだ味に出会った思いで、それ以来ずっと台湾産の醤油を愛用しています。値段も日本醤油の半額なので、心置きなくたっぷり使えます。
醤油の次に必要なのは味噌ですね。これも最初はインスタントの生味噌汁を日本から持ってきましたが、どうしても物足りなくてとうとうポルトガルで味噌造りに挑戦しました。日本で味噌を作る場合は麹屋で出来上がった麹を買って、大豆と混ぜ合わせたら簡単にできます。でも麹そのものが数キログラムありますから、とても日本からポルトガルまで持って来るのは不可能です。麹屋に相談したら、「麹菌を持って行って、まず麹から手作りしたら…」と教えてくれました。麹菌は10グラムほどなので持ち運びは簡単です。でも麹菌から麹を作るのが大変な作業。それから毎年、悪戦苦闘した結果、なんとか美味しい味噌ができるようになりました。
納豆も日本で買った納豆菌を使って手作りしています。これは味噌造りより簡単で、柔らかく煮込んだ熱々の大豆に納豆菌をまぶし、保温箱に入れて一日置くと出来上がりです。自家製納豆と大根おろしを小鉢に入れてシャカシャカと混ぜ、熱々ご飯といっしょに頂く…。これにコンニャクのキンピラと、アゲかトーフの入った味噌汁、そしてぬか漬け。
コンニャクは福島県の農協から取り寄せたコンニャクの粉から作ります。1袋でだいたい6個の田舎コンニャクができるので、水と一緒にタッパーに入れて冷蔵庫に保存しておくといつでも使えます。日本で市販しているコンニャクと全く同じなので、煮しめやキンピラなどに大活躍です。
ぬか漬けを作るぬか床は、我が家ではぬかではなくパンなのです。日本では「ぬか漬けの素」という便利なものが売っていますが、こちらでは「ぬか」そのものが手に入りません。そこで昔スウェーデンやニューヨークに住んでいた時に作っていた方法、ほぐしたパンにビールを混ぜてぬか床の硬さになるまで湿らせて塩を少し加え、その中にニンジンやキャベツを漬け込むと、ぬか漬けが出来上がりました。ビールを入れたのは最初だけで、あとはぬか床が水っぽくなってきたらパンを適当に加えて、塩はたまに少し入れます。
毎年2ヶ月ほど帰国しますが、容器ごと冷蔵庫に入れておけばそのままの状態で保存できます。この方法で一度もカビが生えることなく、もう10数年も使い続けています。我が家のぬか床には乳酸菌とパンの酵母菌が共存して、カビ菌をやっつけているのだろうと思います。
アゲやトーフ、大根などはリスボンの中華食品店に買いに行きます。この頃は日本食の材料がどんどん増えて、便利になりました。刺身の時にすぐに使える練りワサビや干し椎茸、海苔、昆布、味噌など必要な物は何でも売っています。でもほとんどが中国で作られた中国製の日本食材です。使用説明書は中国語、英語、フランス語などで表記してありますが、どの製品も日本語は載っていないのです。
最近は冷凍食品も豊富で、薩摩揚げにそっくりな練り物もいろいろ並ぶようになりました。今まではおでんを作っても、練り物がないので物足りなかったのですが、今年は数種類の練り物と大根、トーフ、卵、コンニャク、厚揚げなど賑やかで、味もぐんとコクが出て美味しくなりました。中華食品店はMモニッツという広場の周りに数軒あり、その他にアジア、アフリカ系の卸問屋がたくさん入ったビルが新旧ふたつ建っていて、そのあたりはリスボンでもちょっと異質な雰囲気が漂っている場所です。
旧ビルに一歩足を踏み込むと、周りは中国語、インド、アフリカの言葉が飛び交い、衣料品を買い付けにきたジプシー達が大きな荷物を担いで磨り減った階段を行き交い、完全にエスニックワールドです。そんな人ごみを掻き分けて3階にある中華食品に行き、たまにはビルの奥深い所にあるアラブの店に行って珍しい香辛料を買ってみたりと、ちょっとした異国情緒を楽しんでいました。
でも最近はリスボン郊外にある駐車場完備の中華食品店に行くことも多いです。そこは中華、タイやベトナム、インド、アラブ、アフリカなどの食品や香辛料など業務用の徳用大袋が売っているし、日本食の材料も品数が揃っているので、数ヶ月に一度ぐらい出かけます。ポルトガルに住み始めた頃は日本食の材料をそろえるのは大変だったのですが、最近はほとんどの食材がリスボンで買えるので、全然不便を感じません。そん なこんなでお正月料理のレシピを片手に、おせち料理に挑戦した次第です。
画像右上:このビルに一歩入ると中国、インド、アフリカなどの製品と各国語が飛び交っている
画像左上:Mモリッツ広場界隈にはエスニックな店が立ち並び、その上にはリスボンの象徴サンジョルジョ城がそびえる。
画像右中:この界隈に数軒ある中華食品店では豆腐や大根はもちろん、日本の食材がほとんど揃う。
画像左中:広場界隈の通りにも中国、インド、中東、アフリカなどの問屋が並ぶ
画像右下:ポルトガルの中華食品店などで手に入る日本食材と自家製コンニャクと納豆
画像左下:ポルトガルで手に入る材料で作ったおせち料理
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