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私の住んでいる町から車で3時間ほど東へ走ると、もうスペインとの国境。国境に近い町や村では人々の喋る言葉もどことなくスペイン風に聞こえます。もともとこの辺りは国境のない時代が長く続いて、スペインのアンダルシア地方とポルトガルのアレンテージョ地方は一つ(行政区)だった時代もあるほどです。
料理にも同じ様な物が見られます。スペインとの国境まで30キロという町セルパに行った時のことです。セルパは内陸の町なので、冬は寒く、夏は猛暑という寒暖の差が激しい所です。家の屋根には冬の寒さを防ぐために大きな煙突があり、家々のぶ厚い壁は夏の強い日差しを跳ね返すためにまっ白に塗られています。私たちが行ったその日も強い日差しに照り付けられて、頭がボーッとなりかけました。
こんな時は何か冷たい食べ物が欲しくなります。路地を曲ると小さなレストランがあり、入口に張ってあるメニューを見ると、「ガスパショ」が目につきました。「ガスパショ」はスペイン語で「ガスパチョ」と発音します。スペインのセヴィリアには夏の名物料理「ガスパチョ」があります。簡単に言えば、冷たいスープ。数種類の野菜に香辛料やダシ汁を加えミキサーにかけたものです。私たちも以前7月のセヴィリアに行った時、毎日40℃を越える酷暑の中で町を観光したのですが、その時この冷たいガスパチョを食べてスーッと生き返る思いがしました。それはキュウリ味のドレッシング風のスープでした。
その「ガスパチョ」をポルトガルのセルパで発見! リスボンやセトゥーバルでは見かけないメニューです。昼食はその店に決定しました。扉を開けるとバル(バー)になっていて、カウンターの椅子には店の主人が暇そうに腰かけていましたが、私たちの姿を見て、のっそりと立ち上がりました。まだ12時になったばかりなので、私たちの他は誰もいません。「ガスパショができますか?」と尋ねると、カウンターの奥の部屋に案内されました。料理にも同じ様な物が見られます。
食卓が六つしかない小さなサラ(食堂)です。天井に目をやると、中心から四方八方に細木が張ってあり、そこには無数のキーホルダーがぶら下がっていて、その数の多さに驚きました。この店の主人のコレクションなのでしょうが、何から何まで手当たりしだいに買い集めたような感じで、中には吹きだしそうなものまであります。
天井の真ん中からさがっている電球の笠は、小麦粉をふるうのに使われていたザルを廃物利用したものです。その他にもいろいろな物が壁のあちこちに飾ってあり、それを見ているだけで退屈しません。うさぎの絵が描かれた時計には店の名前「Toca de Coelho」と書いてあります。「兎の穴」という意味で、店を見回すとなんとなく合点したくなる雰囲気です。
ところでメニューを改めて見ると、「ガスパショ・コン・カラパウフリット」となっています。ガスパショに小アジの唐揚げが付いているのです。店の主人はテーブルにセットしてある皿をスープ皿に取り替えました。そしてまずパンとオリーヴの実と羊のチーズが運ばれてきました。パンはどっしりと焼き上げた田舎風のパン。もちもちとねばりがあって美味しいので、次々と口にしてしまいます。
きりっとよく冷えた白ワインと、つまみは刻んだニンニクを一緒に混ぜ込んだ塩漬けオリーヴ。羊のチーズは匂いが独特なので、私はちょっと苦手です。ポルトガルのチーズは羊の乳を原料にしたものがほとんどです。ポルトガル人に言わせると、匂いがきついほど美味しいそうで、露天市などのチーズ屋では買物客がいちいち匂いをかいで選んで買っています。中には10歳ぐらいの子供が一人前に匂いをかいで真剣に品定めしている姿を見かけて、おもわず笑ってしまったこともありました。
しばらく経つと料理ができあがり、店主はひとかかえもあるどんぶり鉢をデンとテーブルに置きました。中にはキュウリやトマトなどザクザク刻んだ野菜とサイコロ状にカットしたどっしりパンもいっしょに入っています。次に運ばれてきた小アジのフリットは揚げたての熱々です。取り皿にまず熱々のカラパウフリットを数尾置いて、その上に冷たいガスパショをかけて食べるのだそうです。ガスパショのことを店の主人に聞くと、味付けはニンニクとオレガノやローリエなどの香辛料と酢、塩胡椒、少量の水、オリーヴ油で和えるのだと教えてくれました。
その後訪れた町、手作りの絨毯で有名なアライオロスでも、オリーヴ油の産地モウラでもガスパショが郷土料理のメニューとしてありました。どちらも夏の暑さが厳しいアレンテージョ地方にある町です。セヴィリアのガスパチョとは見た目がかなり違いますが、これをミキサーにかければドレッシング風になるから、基本的には同じです。ポルトガルのガスパショは野菜やパンを刻んだままの状態です。これを小アジのフリットにかけると、何だか懐かしい料理ではありませんか? これは日本の家庭でもよく作る「アジの南蛮漬け」そのものです! しかも「南蛮」と言えばポルトガルを指す言葉です。この「ガスパショ・コン・カラパウフリット」は、日本の「アジの南蛮漬け」のルーツかも…?
画像右上:大きな煙突と白く塗られたセルパの家
画像左上:天井にびっしりと飾ってあるキーホルダー。まだまだ下げる所があります。天井の真ん中からさがっている電球の笠は、ザルを廃物利用したもの。
画像右下:冷たいガスパショと熱々のカラパウフリット(二人前)
画像左下:ガスパショには刻んだパンも入っている。パンを除けばまるで「アジの南蛮漬け」
【短信】ポルトガルはこのところ爽やかな毎日が続いています。それでも日中の陽射しは強く、ビーチはたくさんの人でごった返しています。夜は9時ごろまで明るいので、あちこちで開かれている祭の出店や移動遊園地が活気付くのは暗くなってからで、夜中遅くまで続きます。(8/3)
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