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この町に住み始めたころ、路地を歩いていると小さな食堂の店先に「HA CHOCO FRITO」の張り紙が目に付きました。「チョコ?」とは何だろう? フリットは揚げ物のことです。すぐに頭に浮かんだのは「アイスクリームの天ぷら」です。チョコアイスの天ぷら? でも、どう見てもこの店には不似合いなメニューです。それから気を付けていると、その張り紙はあっちの店でもこっちの店でも目に付きました。アディガ(一杯飲み屋)だったり、セルベジャリア(ビアホール)の店先であったり。セルベジャリアのメニューはレストランとほとんど変りはなく、しかもたいていの場合値段が安い、大衆食堂といったところでしょうか。
ある日、セルベジャリアの張り紙を見て思い切って注文しました。「チョコフリットを」と言うと、ウェイターは少し首を傾げてから、「ああ、ショコフリットね、オーケー」とうなずきました。「チョコではなく、ショコ」と読むのだったのです。
どんなものが出てくるかと少し不安でしたが、運ばれてきた料理はアツアツ揚げたてのイカの唐揚げでした。お皿に山盛りのショコフリットはカラッとパリパリ、一口食べるとジュワーッとイカの甘味が広がりました。ショコとは紋甲イカのことでした。身は厚く3センチほどもあります。それでいてとても柔らかいのです。「う、うまい!」それ以来、すっかりショコフリットのファンになりました。
自分でも作ってみようと思って普通のサイズのショコを使って唐揚げをしましたが、お店のようにカラリとはできません。それに普通サイズのショコではジュワーッとした感触は味わえないのです。お店で出すようなぶ厚いのはそうとう大型のショコだろうと思います。メルカド(市場)の魚屋には大きなショコを並べている店があります。見たところ長さが50センチ以上もあり、重さも10キロはあるかもしれません。店で出てくるショコフリットはたぶんこれくらいの大きなものを料理しているのでしょう。
自分たちでこんな大きなショコを買ってもとても食べきれないし、第一さばくのがひと仕事です。それにイカの唐揚げなどを家ですると大変です。突然パシーッとはねて、あたりが油だらけ、下手をするとやけどをしてしまいます。やはりショコフリットは外食するのが一番です。
セトゥーバルには漁港がふたつありますが、そのうちのひとつコメルシオ港には対岸のトロイア半島とを結ぶフェリー乗り場があります。フェリーは年中無休、24時間営業で車と乗客を運んでいます。夏は、普通の乗客に加えて、トロイアのビーチに行く海水浴客がフェリーに乗るために詰め掛けて大にぎわい。港の前の道路沿いにはそうした客を相手にレストランが軒を並べています。ほとんどの店が海老や蟹の茹でたものや魚の炭火焼などを出しています。レストランといっても元々はセルベジャリアや軽食を出すバルなど、昔からある大衆食堂です。
その中で食事時になると行列のできる店が2軒あって、どちらもショコフリット目当ての客がやってきます。特に土曜、日曜などは席が空くのをかなり待つほどです。美味しくてしかも安いので、電話で注文して取りにくる人も多いです。私たちがよく行く店は「埠頭56」、もう一軒の店は「ショコフリットの王様」という名前で、どちらもよく流行っていますが、「王様」の方がやや多いのは、ネーミングのおかげでしょうか。
ところで不思議なことに、普通のレストランのメニューではショコフリットは見かけませんし、ショコフリットに限らず、揚げ物、フライなどの料理もほとんどありません。たぶん、もともとはバルやアデェガなどでビーニョ(ワイン)やセルベージャ(ビール)のつまみに出していたのではないかと思います。首都リスボンの大衆食堂では太刀魚の天ぷら風がありますが、ショコフリットは見たことがありません。反対に、セトゥーバルでは「太刀魚の天ぷら風」は一度も見かけません。リスボンとセトゥーバルは車で40分ほどで行き来できる近さなのに、どうしてかな〜と首を傾げてしまいます。
近頃ますます「ショコフリット」と掲げた店が増えて「セトゥーバル名物ショコフリット」になる勢いで、今では近郊の町でもメニューに加える店が現れ、前を通ると店の壁に「HA CHOCO FRITO」(イカの唐揚げあります)の張り紙を見かけます。
画像右上:ショコが描かれた看板と三枚のナンバープレートに焼き付けたユニークな看板
画像左上:この店もショコフリットを最近始めた
画像右中:メルカド(市場)のショコ専門店。値段は、普通のショコも巨大ショコも1キロが5ユーロ。
画像左中:黒板に手書の看板。読みは「ア・ショコフリット」、Hは発音しません。
画像右下:私たちがよく行く店「CAIS(埠頭)56」のショコフリット
画像左下:これで二人前。とても食べ切れないほどのボリュームがうれしい。
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