■町角の焼き栗屋さん 2005.11.21 update

ポルトガルの秋はいつの間にかやって来ます。つい数日前まではビーチに行きたいくらい暑い日が続いていたのに、夕方になると急にヒンヤリとした秋の気配が漂い始めます。秋といっても日本のように紅葉を愛でる楽しみはありません。まわりの木々はポプラがわずかに黄色くなるくらいで、その他はいつのまにか茶色になり落葉してしまうから、秋を味わう暇もありません。

真っ赤に色づく木はほとんど見かけませんが、ぶどう畑のぶどうの葉が赤く紅葉しているのをたまに見かけたときは嬉しくなります。ぶどう畑のほとんどは紅葉することもなく茶色く枯れてしまうのですが、ぶどうの種類によっては赤く紅葉するものがあるそうです。

紅葉が見られないとなると、秋を感じるのは、町角に焼き栗屋が姿を現した時です。だいたい10月の半ば過ぎごろでしょうか。焼き栗屋は小さな車を引いてやって来ます。その荷車には炭火を起こすカマドがあり、パチパチと燃えるカマドの上には底に小さな穴があいた壺を置きます。リスボンの焼き栗屋は素焼きの壺を使っていますが、私の住むセトゥーバルの焼き栗屋はブリキの壺で焼いています。

栗のひとつひとつに小刀で切り目を入れて壺の中に入れ、荒塩をパラパラとふり掛けて、しばらくすると壺の中からパチパチと栗のはぜる音が聞こえてきて、やがて栗の焼ける香ばしい匂いが漂ってきます。煙がもうもうとたちこめ、あたりいったいに流れていきます。煙は町角を曲って、次の角、そしてまた次の角まで漂って行きます。町をぶらついているとどこからともなく煙の匂いがします。その匂いをかぐと、もうたまらない。「ああ、秋だ〜」思わず知らず私の足は煙の発生元、焼き栗屋に吸い寄せられて行くのです。

1人前一ダース、つまり12個入り。あつあつの栗を古い電話帳のページをビリッと破ってクルクルと丸めた中に入れてくれます。渡されたあつあつの包みを両手で握ると、手の先からジワーッと温もりが身体に広がっていきます。公園のベンチに腰掛けて焼き栗の皮をむくと切り目からパカッとはがれて、黄色い栗がポコッと出てきます。渋皮もいっしょに簡単にむけます。

時々虫食いが混じっていて、そんなのはいくら切り目が入れてあってもなかなかむけません。むりやり皮をむいても中はまっ黒だったり、小さな虫が焼け死んでいたりします。このごろは12個のうち虫食いの栗が3〜4個も入っていたりして、しかもユーロになって値段も高くなったので、家で焼き栗をすることが多くなりました。

炭火を起こして焼き栗をしたら最高の味ですが、家のキッチンではそれは無理なのでしかたなくガス台で焼いています。ガス火の上にシャッパスという厚手の鉄板を置き、そこに切り目を入れた生の栗を並べます。そのまま焼いてもいいと思うのですが、我が家ではひと工夫して、並べた栗の上に素焼きの深鉢をかぶせます。そうすると熱が逃げないで深鉢の中にこもり、栗にまんべんなく火が通ってほっこりふかふかの香ばしい焼き栗が出来上がります。おもて4分、ひっくり返して裏4分、合計8分で出来上がり。

焼き栗の季節になると露天市の陶器屋の店先には、底に小さな穴がいくつもあいた焼き栗用の壺が並びます。素焼きの壺もブリキの壺も売っています。どちらも両端に取っ手が付いていて、それを両手で持って時々ガラガラとひっくり返すのです。何回か繰り返すうちにこんがりと焼き上がります。

そういえば日本では焼き栗はほとんど食べたことがありません。時々店先で天津甘栗を見かけたものですが、あまり美味しいとは思いませんでした。子供の頃、家では茹で栗をしていましたが、渋皮がむけにくくてとてもめんどうでした。それに比べるとポルトガルの焼き栗はとても食べやすいです。切り目を入れてあるので渋皮ごとパカッと簡単にむけます。しかも焼く時に一緒に入れる荒塩が隠し味になって栗そのものの甘味が味わえます。

町の焼き栗屋はまるで日本の焼きいも屋みたいです。でも移動はしないで、いつも同じ場所で商売をしています。秋から冬の間は焼き栗屋、そして夏になるとアイスキャンディ屋に変身します。その時は色とりどりの風船もいっしょに売っています。町角を曲ると、空中にプカプカ漂う風船が目印です。

-文中の画像-
画像上:セトゥーバルの町角の焼き栗屋。CASTANHAS QUENTES BOASの文字を裏返しに書いた看板がしゃれている。「あつあつのうまい焼き栗」という意味。
画像中:ひとつずつに小刀で切り目を入れる。
画像下:電話帳の一枚をくるりと丸めて12個の焼き栗を入れる。値段は1.5ユーロ。この焼き栗屋さんのは、虫食いは一個もなかった。それで評判が良いのか、このお客さんは三ダースも買っていた。

画像左:メルカドの果物屋もこの時期は栗が主役。値段ははしりだから少し高めで、1キロ3.8ユーロ。
画像中:我が家では素焼きの深鉢をかぶせてシャッパスの上で焼く
画像右:ポルトガルの焼き物に入れた焼き栗

【短信】10月31日の夜中から冬時間になりました。家中の時計の針を1時間戻します。でも夏時間と冬時間の頭の切り替えはいつまでたってもどうも馴染めません。(11/10)


<<もどる