■アレンテージョの民芸陶器 2005.10.17 update

祭り時期になると遊園地やいろいろな露店に混じって民芸陶器の露店が並びます。このごろは祭の会場が郊外に移ってしまったのですが、それまでは町のど真ん中にある大通り公園で3週間ほども開かれていました。その間、露店の商人たちは店の奥にテント張りの住居スペースを作って、食事をしたりシャワーを浴びたり、テレビまで揃えて一家総出で商売をしながら長期のキャンプ生活をしていたものです。

売っている陶器は店によって少しずつ違うのですが、どれも素朴な暖かい温もりを感じるものばかりです。私たちは祭りが始まると毎日の様に出かけてはブラブラと歩いて出店を冷やかしながら、小さな物を買ったりしていました。毎年、見ているうちに産地の特徴がだんだん解ってきました。特に気に入ったのが、アレンテージョ地方の民芸陶器です。大皿に描かれた花模様は花には違いないのですが、摩訶不思議に図案化されて、しかものびのびとした線です。

その他にもたとえば、石に腰かけて休憩している羊飼いと犬が描かれた水差しとか、オリーヴ入れの器には夕日を浴びる黒豚とか、コルク樫から剥ぎ取ったコルクを肩に担いで家に帰る農夫とか、マタンサ(豚の解体作業)図とか、日本人の目から見てびっくりするような題材をまるでスケッチをするように、陶器に描いているのです。

そうした陶器はどこで作っているのか、窯元に行ってみたいと思っていました。それが偶然見つかったのです。それはポルトガルに住み始めた最初のころで、スペインとの国境の近く、山頂にある砦の村モンサラシュに行った時のことです。

そのころ私たちはローカルバスを乗り継いで旅をしていたので、翌朝、バスを待っていた時、同じ民宿に泊まっていたポルトガル人で新婚旅行中のカップルに声をかけられて、彼らの車に乗せてもらって次の村まで行くことになりました。その時彼らはすぐ近くの村にちょっと寄り道をして陶器を買いたいとのことで、寄ったのがサン・ペドロという民芸陶器の村だったのです。

軒先に絵皿や壺などを飾った数軒の古い家。そのうちの一軒の土間に入ると、二人の女性が小皿に絵付けをしている最中でした。それは露店で見かけて「いいな?」と思っていた青い絵皿と同じ絵付けだったのです。私たちは小躍りして喜んだものです。彼らは家族へのおみやげに大皿を買い、私たちは彼らに結婚祝いに大皿を買ってプレゼント。もちろん自分たちのためにも大皿を一枚買ってリュックに入れて担いで帰りました。その後も何回も訪れましたが、粗末な古家はいつの間にか大きくて立派な家になり、今では道の両脇には10数軒の窯元が建ち並んでいます。

サン・ペドロ村から車で1時間ほど走ったところにあるルドンドも私の好きな民芸陶器の町です。旧市街の広場にある大時計台をくぐると磨り減った石畳の道が一本あり、道沿いに窯元が一軒あります。入口に絵皿を掛けた看板が出ていなかったら、その家が窯元だというのが判らないほどひっそりとしています。ぽっかり開いた入り口から恐る恐る中に入ると、薄暗い土間の奥で主人が一人でロクロを回していて、さらに奥に進むと明るく広い土間には焼きあがった製品が所狭しと並べてあります。

その店を出てすぐに古い石の門があり、これをくぐると町の外に出てしまいます。この門は旧市街を囲む城壁の一部で、「ポルタ・ダ・ラベッサ」(ラベッサ門)という名前です。ルドンドは美味しいワインの産地で、町を代表するワインにこの門の名前が付けられ、ビンのラベルにはこの門が描かれています。

このラベッサ門をくぐって外に出た所に別の窯元がもう一軒あります。ここは入口も窓も全部開け放っているので、道路からでも中の様子が見えます。女性たちが数人でお喋りをしながら絵付けをしたり、奥ではロクロを回して大きな皿や壺を作っています。出来上がった製品がいたるところに置いてあるので、「どうぞ中に入って?」と女性たちがせっかく呼びかけてくれるのですが、うっかり触ると落としてしまいそうで、いつも外から覗き込むことになります。

ルドンドの絵付けはサン・ペドロのよりももっと素朴で、焼きもあまいのですが、そんな中から勢いのある思いがけない味わいの陶器を発見できるのが楽しみです。絵付けをするのはほとんどが女性です。もともとは農閑期に家族で作っていたものでしょうから、その家の男たちがロクロを引き、乾いた製品にお婆さんやその家のおかみさんや娘たちが家事の合間に絵付けをしていたのでしょう。同じような柄に見えても作者の性格や個性が絵付けに現われて、大胆にのびのびと描いたものや、几帳面な描き方など様々です。そして陶器の底に金釘で引っかいたようなサインにもそれが現われているようです。

このごろ陶器市ではこうした手作りの製品がだんだん少なくなり、大量生産のガラクタ陶器が並べられているので、かなりがっかりしています。時々、産地の窯元を訪ね歩いて掘り出し物を見つける旅をしなくては…。

-文中の画像-
画像右上:二百年の歴史があるサン・ペドロの窯元
画像左上:最初に買った青い大皿(サン・ペドロ産)
画像右中:ルドンドの窯元入口
画像左中:オリーヴの実の収穫が描かれたオリーヴ入れ(ルドンド産)
画像右下:野原で休憩している羊飼いと牧羊犬(ルドンド産)
画像左下:果実柄大皿(ルドンド産)

画像左:歴史の染み付いた古い窯跡が展示場になっている(サン・ペドロ)
画像中:絵付けをする女性たち(サン・ペドロ)
画像右:オリーヴ入れを製作中(サン・ペドロ)

【短信】こちらは毎日晴天続きで、日中は泳ぎに行きたいほどの暑さです。例年なら9月に入ると雨が降り始め、今ごろは草が青々と繁っているはずですが、先日、アレンテージョのサン・ペドロまで行ったところ、野原や牧場は一面に枯れ野原でした。農家にとっては深刻な事態です。早く雨が降るとよいのですが。(10/5)


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