■ポルトガルの闘牛 2005.9.19 update

ポルトガルの夏は闘牛と共にやって来るといったら少し大袈裟でしょうか。毎年5月半ばごろから10月半ばごろまで、あちらこちらの町で開かれます。ほとんどの町には専用の闘牛場があり、大きな町では月に数回、闘牛が開催されます。出場する闘牛士やフォルカドスや牡牛の写真入りポスターが街中の壁にベタベタと張られ、直前になると宣伝カーが「今晩の闘牛は牛6頭、闘牛士は〜、フォルカドスは〜」などと大音響で叫びながら街中を走り回ります。

闘牛は夜10時から始まり、夜中の1時ごろまで続きます。出場する牛は6から7頭、闘牛士は4人から5人。そして、今まで男だけの仕事だった闘牛士の世界にも最近は女性の闘牛士が次々にデビュー。彼女たちは若くて美人ぞろい、そのうえ激しい闘志の持主だろうと思います。なにしろ600キロもある牡牛と真正面から向き合って、何本もの槍を打ち込むのですから大変な精神力と体力がいることでしょう。でも、女性が巨大な牛を相手に戦う姿はちょっと痛々しい感じ…がします。

ところで、ポルトガルの闘牛はもともと貴族の農園での遊びから始まったものではないかと思います。たてがみや尻尾をリボンで美しく飾り立てられた、サラブレッドのようにしなやかで華奢な馬。貴族の衣装を身にまとった闘牛士がその馬にまたがり、筋肉隆々の牡牛と対決して背中に次々と槍を突き刺します。闘牛士がいかに華麗に馬を乗りこなすかがひとつの見所で、闘牛士はまず馬術の達人であることが条件です。地上で牡牛と対決して、いかに美しく牡牛を殺すかを見せるスペインの闘牛士とはこのあたりが全然違います。

さて、馬上の闘牛士が牡牛をある程度征服したら、次に登場するのが素手で闘いを挑む8人のフォルカドス。闘牛士が貴族だとしたらフォルカドスは農民たちというところです。槍を何本も背中に突き立てられて呆然としている牡牛に対して8人が縦一列になり、先頭の男が牡牛に向かって挑戦状を大声で読み上げます。

何度も挑発された牛は猛然と先頭の男を目がけて突進すると、男は正面から牛の顔に覆い被さり、他の男たちも手助けして彼が振り落とされないようにいっせいに牛に取り付きます。手負いの牡牛の突進力は強烈で、タイミングが悪いと跳ね飛ばされたり、周りの囲い板に押し付けられて頭突きをされたりしてとても危険です。先頭の男が振り落とされたら、もう一度再挑戦。それでも失敗したらまた挑戦して、自分の名誉にかけて戦います。

うまく牛を押さえ込んだら、その中の一人が牡牛の尻尾をつかんでぐるぐる回り、牛が観念したらフォルカドスの勝ち。そこに馬に乗った牧童が二人、6頭の雌牛を引き連れて入ってきます。雌牛たちはのどかな鈴の音を響かせながら戦い敗れた牡牛を取り囲み、静かに場外へ連れ出します。ここで牡牛がまだ気力満々だったらちょっとひと騒動、雌牛に八つ当たりして大暴れ。でもたいていの場合、牡牛は急におとなしくなって雌牛たちについて行くのです。戦い終わって舞台から去って行く牡牛の後ろ姿にはなんだかホッとした哀愁が漂っています。

…ここまでは闘牛場で行われる正式な闘牛の話でしたが、それとは別に、街中の通りに牡牛を放つ闘牛祭りがいくつかの町で催されます。そうした町は昔から有名な闘牛士やフォルカドスが出ている所で、町を上げて熱狂的な闘牛ファンで盛り上がっています。そのうちのひとつがアルコシェッテという町で、毎年8月の第2週に「闘牛祭」があります。

祭の間は一部の通りを閉鎖して頑丈な木の柵で囲い、道には砂をぶ厚く敷きつめてあります。闘牛場の前から街中を抜けて川岸まで通じる一本の道を全部砂で埋めてしまうのだから、そうとうな砂の量です。各家の入口は頑丈な板塀が立てられているので、牡牛が頭突きをしてもだいじょうぶ。牡牛に追いかけられた時に逃げ込む場所もかねています。

祭の期間中は何回も牛を放つのですが、私たちは朝10時からのを観に出かけました。教会の前の大通りが今日の舞台で、もうすでに大勢の観客が両脇に陣取って声高に喋り興奮気味。柵の中には血の気の多い男たちが牡牛の放たれるのを今か今かと待ちかまえています。

やがて花火のドンという音がして、闘牛場の方から馬に乗った牧童が二人、雌牛たちを引き連れてやって来ました。儀式の露払いというところです。彼らが引き返すといよいよ始まり。観客の中から「我こそは!」という男たちがぞろぞろと柵の中に入ってきます。解き放たれた牡牛はまるで弾丸のように勢い良く走ってきて、待ちかまえていた男たちは蜘蛛の子を散らすように逃げ、高い柵の上に飛び上がったり、街路樹の枝にとっさによじ登ったり、すばやく逃げ場を確保。牡牛は勢い余って柵にあたり、尖った角でガンガンとゆすっています。

いったん逃げた男たちの大部分は柵に片手をかけていつでも柵外に飛び出る姿勢をとっていますが、何人かはまた牛に近づいて挑発します。そして怒った牛がきびすを返して直前に来るまで持ちこたえて、ギリギリのタイミングでヒラリとかわしたり、家の入口に作られた防護壁の後ろにすばやく隠れたり、中には逃げ場を失って人の家の窓に頭から飛び込んだり…。窓にはその家の人たちが並んで外を見ているので、外から飛び込む隙間はないはずなのに…。飛び込んだ男はどこかでしたたかに頭を打っているに違いないのですが、すぐにまた柵内に姿を表わすのです。よほどの訓練を積んでいるのですね。

ずぶの素人である彼らは何も持たず、素手で牡牛に挑戦するのですから、プロのフォルカドスのように正面から牡牛を押さえ込むのはとても無理です。しかも闘牛場では牛の角はカヴァーがしてありますが、路上の牛の角はカヴァーなどはなく、鋭く尖ったままでとても危険です。だから、牡牛の身体をちょっとさわるだけでもかなりの勇気がいります。柵の外には救急車が最初から待機しています。血の気の多い若者たちはそれでも牡牛を挑発して、ギリギリまで我慢して度胸試しをするのです。自分もいつかフォルカドスか闘牛士になれる日を夢見て。

画像右上:廃墟の壁に張られた闘牛のポスター
画像左上:儀式の始めと終りに登場する牧童たち。6頭の雌牛たちが後ろから走ってくる。
画像右中:身を乗り出して観戦する人々。
画像左中:牡牛を挑発する若者。
画像右下:他所の家の窓だろうと何だろうと飛び込む。間一髪、牡牛の角は防護柵に突き刺さった。
画像左下:みんな必死で柵の上に飛び上る。


【短信】こちらは山火事が多発して、連日そのニュースでもちきりです。主に中部以北に発生しているので、私たちのあたりは普通に生活しているのですが、山火事で村ごと猛火に焼き尽くされた人たちは何もかもいっきに失って、ほんとに気の毒です。夏の間は雨がほとんど降らないので、山の木や下草がカラカラに乾いて燃えやすい状態ですが、自然発火だけではなく、タバコの投げ捨て、そして放火もあるそうです。(8/25)


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