|
コスタリカ最大の観光地を一ヶ所あげるとしたら、ほとんどの人がモンテベルデの名前をあげるだろう。早くから、エコツアーという観光形態に着目していたこの地は、今や世界中から観光客を呼び寄せる、コスタリカで最も重要な観光地のひとつである。
首都サンホセから車で4時間、グアナカステ県との県境、標高約1,500mまで登りつめたところが、モンテベルデだ。ここはコスタリカのなかでも特異な歴史を持っている。朝鮮戦争の兵役を拒否した、11家族のクエーカー教徒たちが1951年、理想郷を求めた移住した場所が、モンテベルデなのだ。彼等は牧畜で生計を立てる傍ら、買い取った山林の一部は開発せずにそのまま残すことにした。後に、熱帯雲霧林という希少な森林形態に注目した生物学者たちによって、保全されていた山林が、モンテベルデ自然保護区となる。
その後、自然保護および観光の両分野からこの地域一体は世界的に注目されるようになり、現在では3つの異なる組織によって約4万haという広大な自然保護地域となった。東京ドーム8,600個分の面積に匹敵する。また、彼等クエーカーたちが始めたチーズ製造は、今やコスタリカを代表するブランドの一つとして広く売られている。
モンテベルデは現在、コスタリカで最も有名な観光地であるが、以上のような歴史的経緯から、私立の自然保護区となっている。Monteverde Cloud Forest Biological Reserve(モンテベルデ雲霧林保護区)、Santa Elena Cloud Forest Reserve(サンタエレナ自然保護区)、Children's Everlasting Forest(子供たちの永遠の森)、これら3つのNGO、財団が管理する保護地域を総称して、モンテベルデ自然保護区と呼んでいる。
熱帯雲霧林とは、海抜1,400mから1,800m前後に位置し、1年中多湿な森を呼ぶ。緯度、標高、湿度の条件が上手く重なることが条件のため、世界でも非常に貴重な森林形態だ。雲霧林の中は非常に涼しく、常に霧や霧雨に覆われている。木々には、空気中の水分を吸収して育つ着生植物(ラン、アナナス、コケ類)がびっしりと貼り付いているのが特徴だ。一本の木に、千種類にも及ぶ植物が着生していた、という記録もある。
コスタリカ全体でも数少ない雲霧林帯だが、驚くほどの生物多様性があり、300種類以上のラン、200種類以上のアナナスなどの着生植物が確認されている。植物全体では、2500種類以上が確認されており、特に乾季の3月、4月は、色鮮やかな花が咲き乱れ、訪れる人を魅了してやまない。また、多湿な気候のため、爬虫類、両生類も豊富で、150以上が確認されており、モンテベルデ固有種も存在する。
しかし何と言っても、モンテベルデ最大の魅力は鳥たちにあるだろう。バードウォッチャーの聖地とも言われ、400種類以上の鳥を観察する事が出来る。コスタリカ全土で935種類が確認されており、その約半数がモンテベルデ地区で観察できるのだ。「火の鳥」のモデルにもなったケツアールや、「森の宝石」ハチドリ等を筆頭に、美しく、そして不思議な鳥たちを当たり前のように見る事が出来るのだ。
観光地として大きな発展を遂げたモンテベルデは自然以外にも大きな売りがある。訪れる観光客を飽きさせないだけの豊富なアトラクションだ。キャノピーツアーと呼ばれる空中ケーブルはスリル満点。森の中に吊り橋をかけたスカイウォークからは、普段下から眺めている木を樹上の高さで見る事が出来る。どちらも遊園地のような楽しさと、自然観察のおもしろさを我々に提供してくれる。
さらにモンテベルデに生息する生物やラン等の花を見せてくれる施設も充実しており、ガイドが親切丁寧に案内しながら説明してくれるため、だれでもコスタリカの動植物を身近に感じる事ができるようになっているのだ。
コスタリカはスペイン語圏。そのため個人旅行での最も大きな不安は言葉にあるだろう。しかしモンテベルデに関しては日常的に英語が通じる。看板やレストランのメニューも英語表記があり、町の人々も英語を解する人が多い。スペイン語圏に於いては「英語が通じる」ということが観光客への大きなアピールともなっている。
1980年代後半まではモンテベルデもここまでの発展はしていなかった。モンテベルデ周辺地域は個人経営規模の零細農家が点在しており、自給自足のような生活の人々がほとんどであった。80年代後半からの牛肉価格の下落とリンクするように、コスタリカの観光政策が浸透し、エコツアーというものがブームとなってくる。それを契機に、ある者はガイドへ、ある者はホテル業へと農業従事者が観光業へと転換を図ったのだ。
現在では、地元住民の大半が何らかの形で旅行業界と関わりを持っている。彼等の話を聞くと、収入は以前と比較し、遥かに多くなったように窺える。自然があって初めて収入につながるため、自然保護のことを日常的に考えるようになったと言う。モンテベルデが一大観光地となりながらも、豊かな自然を保っている事が出来る背景には、地域全体を巻き込んだエコツアーへの取り組みがあったからであろう。
画像上:雲霧林を流れる川
画像下:「森の宝石」ハチドリ
|