■風前の灯? 日常生活での刺繍 2008.2.5 update

お土産物屋が軒を連ねる通りを毎日行き来しているため目が慣れてしまい、普段はディスプレイに綺麗に飾られている地方の伝統的工芸品の前などつい素通りしてしまいます。それでも、初めてブダペストを訪れる友人や親戚と一緒にお土産物屋を訪れると、改めてさまざまな工芸品に目を奪われます。特に手の込んだ刺繍製品は軽くて見栄えが良く、サイズによって手頃な価格から数十万円のものまでの広い商品の選択幅は、お土産を選ぶ楽しみを増やしてくれます。

ガイドブックなどで主に紹介されている刺繍は、カロチャというブダペスト南部のドナウ川沿いの町でつくられるものが有名です。赤や紫を基調とした艶やかな色使いで花柄などをモチーフにして縫われています。

以前は普段着からテーブルクロス、ベッドカバーなどあらゆるものに使われていましたが、現在では民族舞踊やお祭りなどのイベントにカラフルな刺繍ごしらえの民族衣装をまとった「出演者」として目にするくらいしかできなくなってしまいました。またそのイベントで刺繍をまとっている人達の殆どは中年以上の女性で構成され、刺繍の衣装を普段の生活の場で身にまとっていた最後の世代のようです。

カロチャの刺繍でいえば、赤を基調にしたものは独身女性、紫は既婚者の印でした。ですから本来は色々な年齢層の女性がその伝統に従った刺繍を使わなければならないのです。

観光・イベント色が強くなってしまったカロチャの刺繍が日常生活で使われなくなってしまいましたが、もう少し落ち着いた柄の刺繍は細々ながら今でも地方で受け継がれています。例えば白を基調にしたテーブルクロスの縁の部分だけに刺繍を施したり、黒の頬かむり(スカーフ)の一部分にアクセントとして使われたりしています。

もともとは各々の家庭でつくられ、生活の場で使われてきた刺繍ですので、街のお土産物屋のショーウィンドウを飾る目を引く柄だけではありません。代々引き継がれてきた刺繍は地方別に大まかに分けても30種類以上もあります。

その中でカロチャ刺繍のようにブランド化しているのがメゾーコゥヴェシュドの街を中心としたマチョーの刺繍、現ルーマニア国内のハンガリー人村を中心としたカロタセグの刺繍が有名で、都会の日常の風景からは既に消え去ってしまった古き良き想い出に多くのハンガリー人が郷愁感に駆られます。ですから縁日などでは観光客が惹かれる鮮やかな色の刺繍を好んで購入するのとは対照的に、都会のハンガリー人は少し大人しめのデザインの刺繍を買い求めているようです。

そして日本の着物や浴衣のデザインや柄が現代風にアレンジされ、リニューアルして若者に新しいファッションとして受け入れられたように、ハンガリーでも刺繍伝統の灯火が絶えないような革新的な試みが刺繍業界に起きることを祈っております。

画像上右:イベントでしか見られなくなった若者の刺繍衣装
画像上左:お店のカロチャ刺繍
画像中右:カロタセグ刺繍の頬っかむりを被る女性
画像中左:マチョーの刺繍をまとう女性
画像下右:縁日でカロチャ刺繍を着る女性
画像下左:蚤の市で売られるカロタセグの刺繍

【短信】日本は本格的な冬が訪れたようですが、ハンガリーは全国的にここのところ冬らしさを感じず、1月20日は同日の記録としては観測史上最高の暖かさとなり、ある地方の町では17℃を記録しました。一昨年の今頃はドナウ川が完全氷結するのではないかといわれたくらい連日冷え込んだことが嘘のようです。(1/22)


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