■西側から見た旧共産圏の残り香 2007.8.7 update

連日40℃を越す猛暑の記録を更新中のブダペスト。特に最近の10日間は、ここ10年で最も暑い10日間だったのではないかという程です。以前に比べて随分と手軽に購入できるようになったクーラーが、今年は飛ぶように売れています。さてこんな灼熱地獄の真っ只中、ドイツ人の友人が10歳になった娘さんを連れてブダペストを9年ぶりに訪れました。

私自身長らくハンガリーに住んでいて、日常生活の不便を不便と感じなくなっていました。先進国では信じられないような出来事にも慣れてしまっていたよう。1982年、92年、98年と過去3回にわたってハンガリーを訪れたことのある西側の友人の目を通して、今回感じたことをご紹介したいと思います。

ブダペスト市内には多くの温泉があります。高級ホテルに併設されたリゾート感覚のもの、湯治を目的とした治療施設的なものに大別されています。殆どは数百年から100年以上前に作られた重厚な建築物。日本人がイメージしている温泉とは大きく違い、内部はアール・ヌーヴォー調で装飾され、温泉に浸かるというよりは貴族になった気分で水浴びを楽しめます。

ゆっくりとお湯に浸からなくても、観光場所として一見の価値あり。青いタイル張りの幽玄な建物内部を友人に紹介したかったので、ホテル内にある温泉施設でチケット1,000フォリント(約700円)を支払い見学することにしました。

以前、別の友人に見学してもらい十分に堪能してもらったので、きっと満足してくれるだろうと期待しました。ところが公開されている場所が狭まっており、ガラス張りの向こう側をチラッと見せるだけ。係員が説明するには、4年前に内部見学サービスを中止したとのこと。サービスを中止したのに以前と同様にチケットを販売し続けるサービス。西ドイツ出身の友人は、“共産主義時代の遺産”という温泉にどっぷりと浸かることになりました。

お口直しに、月に一回は足を運ぶレストランに彼らをご案内。改修工事があったためしばらく足が遠のいていたのですが、迎えてくれたウェイターさんはいつものように物腰柔らかく、とてもスマート。しかし何だかざわついた様子を感じたので店内を見回すと、2階にロフトを建設中。友人の顔が少々曇りました。

案内された席は建設最中のロフトの真下。テーブルに整えられたグラスや食器が砂埃を被っていました。壁塗料の臭いも漂ってきました。いつもの美味しい食事が運ばれてお腹がいっぱいになれば、友人の機嫌も良くなるだろうとビールでごまかしていたのですが、期待は見事に大はずれ。料理の質が以前より落ちていて、会話はばったりと途切れてしまいました。

レストランの模様替えが終わらないままに営業を続ける経営方針。伝統料理をサービスする店でありながら、コックのシフトが代わっただけで味が変わるほど安定しないクオリティ・コントロール(ハンガリーの伝統料理・家庭料理を出す店は、その日の出来不出来の差があることは割と一般的)。典型的な悪い事例ですが、長い間住み続けていて感覚が麻痺してしまったようです。西側標準からは大きく外れている「元」共産国の標準を、友人の眉間の皺が気づかせてくれました。

翌日は屋外プールも併設するレジャー・湯治型温泉に彼らを送り出したのですが、この道中でもひと悶着。市内交通のバス、路面電車では車内で切符を購入できないのであらかじめ用意して車内で入鋏します。無賃乗車を取り締まるための検札が不定期に乗り込んできます。ガイドブックにはアジア人は目立つからチェックを受ける対象になりやすいと紹介されていますが、そんなことはありません。外国人観光客は皆標的の的。

友人達は乗車してから揺れる車内の座席にちょっと座った瞬間に検札にあい、入鋏する暇なく罰金を言い渡されました。検札官の、公正とは言いがたい検札方法の悪い噂はしばらく途絶えていたのですが、まだしっかりと顕在していました。友人は、しぶしぶ5,000フォリント(約3,500円)を支払いました。

安定した公平なサービス・質から逸脱した共産主義的な“歓待”を受け、友人と彼の娘さんはかなり面食らっていましたが、自国と比べて格段に安いビールを灼熱ブダペストで次から次へと飲み干し、国会議事堂や王宮など、ドナウに佇む豪奢な建造物に感嘆の声を上げ、船でウィーンへとブダペストを後にしました。生活や社会の端々に漂う旧共産国の残り香に彼らは顔をしかめることもありましたが、まだまだお得感を感じる物価と街の景観は、暫く西側観光客を魅了し続けそうです。

画像上右:見学チケットを購入して見られる温泉内部
画像上左:共産時代の象徴の大衆車トラバント(Trabant)
画像中右:入鋏器(地下鉄用)

【短信】日本でもニュースになっているようですが、中・東欧圏は先週まで40℃を超える猛暑が続いていました。それでも漸く今週は寒冷前線の通過によってぐっと気温が下がり、とても過ごしやすい初夏の陽気となりました。(7/26)


<<もどる