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長引く降雪の季節もそろそろ終盤に向かい、心待ちにされていた春の兆しが少しずつ顔を覗かせてきました。今年で26回目を迎える「春の祭典」が3月17日からスタート。主都ブダペストを中心に、各主要都市で4月2日までクラシック・コンサートやオペラを中心とした様々な企画が催されます。地元民だけでなく外国人観光客も楽しめるよう、英語の表記があるポスター、各外国語で説明が書かれたパンフレットが用意されています。情報センターでは英語だけでなく、それぞれの言葉で対応できる案内係を準備しています。
ヨーロッパは、各国がお互いに領土の奪い合いを目的とした侵略や支配を繰り返してきました。またそれぞれの国は発展のため、外部から文化や芸術を取り入れ知識を交換しあいました。現在でも国境を境に様々な人種の流出入が途絶えることがありません。そのためどの国でも人々が外国語を使い分けることに慣れています。
ハンガリーは国境を7ヵ国と接し、他のヨーロッパ諸国と同様に古くから様々な外国語に触れてきました。他のヨーロッパ諸国と比較すると、残念ながら外国語が喋れる人の割合が低いと統計で示されていますが、それでも日常でその使いこなす様は日本の比ではありません。19世紀にオーストリアと帝国を二分した時分は、ブダペストを始めとして多くのドイツ系がハンガリーの地方にまで入植しました。ドイツ語での村の名前を看板に併記しているところもあります。子供は小さい頃から外国人や外国が身近にある環境と接して成長していきます。
時代や政治情勢にあわせてどの外国語が主流になるかは常に変化します。西欧社会で生き残るためにキリスト教を国教と定めた時や、文化意識を高めるためにルネッサンス文化を導入した中世ではラテン語で文が残されましたし、前述したハプスブルグ二重帝国時代にはドイツ語が重要な位置を占めました。旧ソ連の支配下にあった共産時代では、第二外国語といえばロシア語でした。お年寄りの世代は学校で厳しく勉強させられました。しかし国民は旧ソ連の支配を好ましく思っていなかったので、今でもロシア語を流暢に操ることができる人はその能力を隠しています。体制が崩壊してからは、英語が最重要な外国語となり、一時期は英語の語学学校が乱立しました。
観光業が国家の大きな収入源として成り立っていますので、外国人旅行客が行きかう町の中心地の本屋や雑貨屋では多くの店員は外国語を使いこなします。肉屋のお兄さんや集金のおじさん、修理工や郵便局の配達人まで、困らない程度であれば英語で対応できることも。英語で行われる歴史や数学の授業を選択肢に加える中学校や高校もあります。
最近ではラテン語圏の言葉が流行りとなりました。毎年春が近づくとイタリアやスペインからの学生の団体旅行者が増えますが、レストランやお土産物屋では店員がイタリア語でお客さんの呼び込みをします。以前イタリア人から道を聞かれた際、イタリア語を話す若いハンガリー人女性が横から助け舟をだしてくれました。若者にとってイタリアに出稼ぎに行く機会が多く設けられているという背景もあります。勿論全員が語学に達者なわけではありません。祝日の催し物の警備員がドイツ語で質問され、言葉ができない!とばかりに開き直ってハンガリー語で返答していました。
逆に、ハンガリー人は外国人がハンガリー語を話すことに非常に敬意を表します。ハンガリー語は文法や語順が英語より日本語に類似し、難解な言語であるという自負が彼らにはあります。世界でも珍しいマイナーなハンガリー語を、外国人が苦労して勉強することに感激するようです。発音がぎこちなくても文法が正確でなくても、辛抱強く耳を傾けます。外国人が一生懸命ハンガリー語を話す姿勢を好ましく受け取り、ハンガリー語で会話を続けて、英語を話せることを最後まで打ち明けない人もいます。但し、「ここはハンガリーなのだからハンガリー語で話せ」と突き放す意固地な人もいます。
最後に日本語の普及率について。出先中、日本語で声を掛けられることが多々あります。遠い極東の国についてはハンガリーではさほど知られていないだろうと思いきや、話し掛けられるその日本語の流暢さと理解力に驚愕することも。一番驚いたのが、「私は医者の卵です」と病院で話し掛けられたことでした。彼らの多くが、日本文化への興味が日本語を学ぶ引き金となったようです。
言葉の発達の仕方はその国の地形や歴史と強く結びつきますが、外国語を話す土壌も日本とは大きく異なります。机の上で教科書を広げて黒板を目の前に勉強するだけでなく、日常で外国語に触れる環境が揃っています。ハンガリー人は母国語と外国語を気恥ずかしさや気負いなく、瞬時に切り替え使い切るのです。
画像上:春の祭典
画像下:ハンガリー語(上)とドイツ語(下)併記の村
【短信】3月中旬まで雪がちらつき、ぐずついた冬の季節が続いておりましたが、最近漸く春の兆しが見え、小鳥のさえずりが聞えるようになりました。(3/22)
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