■家族間の距離のとりかた 2005.12.5 update

街中がクリスマスの準備に忙しくなる時期がやってきました。日暮れの時間が更に早くなり、道行く人々のコートも厚手のものに変ってきました。それでも観光客達は夕暮れ時のドナウ川の景色を楽しもうと、コートの襟を立てながら狭い間隔で備え付けられているベンチで一休み。ブダペストっ子も書類を片手に仕事の合間の疲れを癒すため、また待ち合わせなどで、ベンチに腰をおろしています。そんな地元民の中に数多くの高齢者が混じっています。

暖かい日には、家から持参したパンにサラミやチーズを挟んで軽いお弁当の用意。鳩や雀にお裾分けしながらお昼を済ませるお婆さん。犬の散歩と称して日がな一日、井戸端会議がつきないお爺さん達。忙しい若者のペースとは裏腹に、老人達がゆっくりと時間を過ごしています。また公園に備え付けられているテーブルでチェスを指しながら政治談議に花を咲かせています。

ハンガリーの出生率は下がる反面、高齢化問題が注目されています。例えばオフィスや商店街が集る中心地のブダペスト市5番地区では老人居住率が非常に高く、一人暮らしのお年寄りが多数います。街の中心地の不動産は高値ですが、共産主義が崩壊したばかりで法が余り整備されていなかった当時、国からタダ同然の価格で安く買い取ることができました。その世代の子供達が独立して家を出る時代となり、年老いて独りで住んでいるので街中での老人が目立つのです。

普段は日光浴や犬の散歩を兼ねた外出でゆったりと過ごしますが、週末になると独立して郊外に一戸建てを構えた子供達や孫が訪ねてきます。また、失業率の高い地方からブダペストに移り住む若者達が田舎の両親の元に毎週末のように帰省します。家族が団欒の時間を取れるよう努力しています。

しかし、ヨーロッパにある個人の自立という精神が根付いているためか、家族間で生活を依存するのではありません。「付かず離れず」、ある程度の距離を持つことによってお互いの快適さを保とうとする姿勢が伺えます。

ご主人に先立たれ双子の孫を持つ近所の78歳になる老婦人。「誕生日や祝日にはご馳走を用意して息子や孫と集うの。常に誰かが待っていてくれる、誰かを待つということが生きる力を与えてくれるのよ。でも常に一緒にいると息苦しくなってしまうから、時々会う方がいいのよ。その方が一瞬一瞬を大事にできるし」

近々二人目の孫が誕生する離婚歴のある友人は、妊娠中の嫁に代り孫の世話のため足繁く息子の元に通います。同居は希望せず独り暮らしを貫き、自分自身の楽しい生活リズムを崩さないよう、カルチャーセンターに通ったり観劇したりと活動的です。自立心が旺盛で、息子夫婦に迷惑をかけまいと、近年急増してきた私営老人ホームのパンフレットを眺めては算盤を弾いています。

勿論、家族内の老人と若い世代全員が円満な訳ではありません。同じ集合住宅内に住むあるお婆さんは、最近階段で足を滑らせ運悪く頭を打ち、救急車で運ばれました。かわいがっていたダックスフントが一歳半で急死し、ペットロスで激痩せするほど落ち込んでいた矢先のことでした。また犬を飼わないのか聞きましたが、「自分が死に目を見てあげられるかどうかわからないし、あんな思いは二度としたくない。もう人生生きている意味がなくなった」と、毎日寂しそうにしていました。一命はとり止めたものの、言語障害が残るほどの後遺症が。てっきり家族はいないのかと思っていましたが、現在息子が世話をしに時々訪れています。元々息子とはうまくいかずに独り暮らしをしていたようです。

5番地区に住む100歳以上のお年寄りは約70人。地元紙に紹介されたエルヌーネー・マリアお婆ちゃんは103歳。現在、老人ホームに住んでいます。定期的に見舞いに来てくれていた娘は20年前に癌でなくなりました。その後長男も亡くなりましたが、今は次男が郊外から毎日面会に来てくれるとのこと、7人の孫、5人の曾孫、ひとりの玄孫に恵まれました。「警部補の主人と仲良く平和に暮らしていたわ。これが長生きの秘訣じゃないかしら。今も老人ホームの生活には満足よ。視力が落ちてしまったから頻繁にしていた手作業に携わることはもうないけれど、テレビを見たり音楽を聞いたりして過ごしているの。料理がいつも美味しく出来上がらないように、人生って上手くはいかないものよ」とインタビューで語っています。誕生日に自分を祝うようなことはもうしないようにと家族にお願いしていますが、みんなで祝うことに意味があると、未だにマリアお婆ちゃんの周りに集ってきます。

クリスマスは日本のお正月にあたる「ハレ」の行事。家族が一堂に会します。普段はお互いに頼らず自立しあった親子が、日常の生活を忘れて語り合う大事な日なのです。

画像上:催し物のダンスに参加するお婆さん
画像中:マンションタイプの老人ホーム
画像下:広場のベンチで昼食をとる老人

【短信】ブダペストは今週月曜日(11/21)に初めて雪が降り、街は薄っすらと雪化粧されました。大通りのクリスマス用イルミネーション、中心地の広場にはクリスマスツリーが既に用意され、明日からは街のいたるところで出店がオープンします。


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