■自然の宝庫、ティサ川 2004.7.5 update

近年世界中で指摘されている異常気象が、今夏のハンガリーをも襲っています。例年であれば、肌を刺すような直射日光の誘惑に我慢できずに、リゾート地として栄えるバラトン湖に車を飛ばし始める季節。湖畔での日光浴の準備に、サラミやビールを大量に買い込んで車に積みこみます。ところが今年は重い雲が立ち込め、雷雨が連日のようにやってきます。

隣国のオーストリア人にも行楽地として人気のあるバラトン湖と同様に、夏の保養地としてハンガリー人に親しまれているティサ川があります。ルーマニアとウクライナを源流とするティサ川は、ハンガリー大平原を南に向かって蛇行しています。夏にはセーリングや水上スキー、ボートで賑わい、豊富な川魚が釣りファンを喜ばせます。しかし何よりも水鳥や草花の宝庫である湿地帯として知られ、大河が流れる大平原の一部、ホルトバージ国立公園はユネスコ遺産にも登録されています。ボートを川面に滑らせると、蓮の花が水面を彩り、蒲の穂の擦れ、生まれたばかりのホオジロガモが、魚をついばむ様子を観察することができます。

田舎のゆっくりとした時間に身を任せていると、ティサと生活を共にしている地元民の日常の話を楽しく聞けます。「夏は小さい魚が水面にあがってくるので、釣り糸をたらしておけばどんどん釣れる。もちろん家に持ち帰ってさばいて食べるよ。パン粉を付けてムニエルにするのが一般的さ」とは、風通しの良いテラスで、ビールと魚のフライを運んできてくれた地元出身のウェイター。いかにも自分の休日が待ちきれない様子。昔ほど魚を食べなくなったとは言われても、ブダペストではクリスマスに七面鳥を食べるのだが、ここではまだ魚料理が伝統的に振舞われています。そうです、ティサ地方の魚消費量はヨーロッパで随一、ティサの人々は日常的に魚料理に親しんでいます。

ハンガリーの名物料理の一つ「ハラースレー」と言えば、男の料理の代表例。鯉や鯰にパプリカを大量に加えて大鍋で煮込みます。ハンガリー各地ではそれぞれの「おらが村」のレシピがありますが、ティサの民にとってはやはり「ティサ風ハラースレー」がご自慢。「ここのは数種類の魚とともに肝も一緒に煮て、こくととろみをつけるのさ」、「1キロ級のカワカマスの味が最高」、「川の真ん中辺りで優雅に泳いでいるのは鯉。鯰は夏場には川底で涼み、水温が下がる10月から11月のシーズンになると水面付近まであがってくる」といった話が聞かれます。ちなみに、釣りには許可証が必要で、常に携帯していないと、突然やってくる水上警察の抜き打ち検査にあって罰金を支払うことになります。数年前にはオーストリア人数人が魚を200キロも乱獲し、小さな村で大騒ぎになったとか。

水深10−20mある川も、冬になると凍ります。「去年はさほど寒くなかったので氷の厚さは5cm程度と薄かった。お客さんがいない時には、氷のない水面を見つけて泳ぐ白鳥を日がな一日眺めていたよ」とは、前述の仕事熱心なウェイター。

平原のイメージが広がるハンガリー北西部に横たわるティサ地方。自然の営みによって育まれた湿地帯で、蛙をついばみに川沿いに降り立つコウノトリをファインダー越しに覗くと、心の夏休みを楽しむハンガリー人の気持ちが少しわかったような気がします。


画像上:空を舞うホオジロガモ
画像中:川岸を歩くコウノトリ
画像下:カワカマスの丸揚げ(610グラム)

【短信】文中にも書きましたが、今年はハンガリーに限らず、ヨーロッパ全般に“冷たい”春と呼ばれ、それを引きずってか、なかなか初夏を感じることができません。 (6/26)


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