|
2006年7月31日、TRT(トルコラジオテレビジョン協会)1で予定されていた、映画「戦場のピアニスト」(*)のテレビ放送が、当日になって中止されました。
トルコで最初に作られた放送局であり、トルコ全土に放送をしているTRTは、日本のNHKのようなもの、といったらわかりやすいでしょうか。TRT1のほかに、ニュース中心のTRT2、東南トルコの発展を目的とした政府プロジェクトGAP(南東アナトリアプロジェクト)と連動したTRTGAP、教育放送のTRT4、海外のトルコ移民に向けたTRTインターナショナルなど、民法各社とは一線を引いた放送で、トルコのテレビ放送の中核をなしています。
そのTRTのメインチャンネルであるTRT1で、映画「戦場のピアニスト」の放送が予定されていました。しかし、政府に近いことで知られるYeniSafak紙が、放送直前にTRT局を批判する記事を発表しました。「TRTのバッドタイミング」と題されたその文章には、「実際にあった話を元にしたこの映画が、イスラエルがレバノンに攻撃をしている今日に放送されるということはずいぶんと意味のあるものである。映画は、何年も昔に自らが体験した痛々しい事柄や差別を、現在レバノン、そしてパレスチナのムスリムにしているユダヤ人たちが、大戦中に体験した悲劇を一人のピアニストの視点から説明している」とありました。
そして放送当日、映画「戦場のピアニスト」は、突然別の映画に差し替えられていたのです。第二次世界大戦におけるユダヤ人虐殺をテーマにしたこの映画の放送中止をうけて、IHD(人権協会)は文書でTRTを批判、TRTの「戦場のピアニスト」放送とトルコに暮らすユダヤ人たちへの謝罪を求めました。このIHD文書発表の前、つまり放送中止翌日から、各新聞ではコラムニストたちがTRT批判を展開しています。
TRTのこの動きを「検閲」と批判する意見、被害者がいかに加害者になりうるものかを知るためにも放送すべきという意見、民間人が亡くなっているときのこの判断は正しいとする意見。さまざまな意見が展開される中、TRTからこの問題に関する正式な回答がありました。TRT役員のアリ・ギュネイ氏は、「すべての放送機関がそうであるように、TRTも時に放送計画を変更することがある。全世界で評価を受けた、オスカーを獲得した映画が放送されることほど自然なことはない。しかし、ここ最近の、中東で起きている悲しい事象は、われわれにとって放送計画をもう一度見直させることとなった。同時に、市民の見せた問題意識を、トルコの公共の利益のための放送局として無視することはできない」と記者たちに語りました。
最終的に、この映画「戦場のピアニスト」は放送されるのか、このままこのTRTの最終回答を受けて、問題は収束してしまうのか。しかし、ユダヤ教徒とムスリム、キリスト教徒がともに暮らすトルコでは、この放送中止問題は長い間議論の的となりそうです。
(*)戦場のピアニスト(原題:The Pianist)は2002年の映画である。フランス・ドイツ・ポーランド・イギリスの合作。ナチスのポーランド侵攻以後、ワルシャワの廃虚の中を生き抜いたユダヤ系ポーランド人のピアニスト、ヴワディスワフ・シュピルマンの体験記を元にしている。カンヌ映画祭では最高賞であるパルムドールを受賞した。また、アメリカのアカデミー賞でも7部門にノミネートされ、うち監督賞、脚本賞、主演男優賞の3部門で受賞。他にも各国で多くの賞を受賞している。監督はロマン・ポランスキー。アメリカに入国すると逮捕されるため、アカデミー賞の受賞式には出席しなかった。 主演は、エイドリアン・ブロディ。彼はこの作品でアカデミー主演男優賞を受賞した。出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
|