■貧しさのボーダーライン 2006.6.20 update

夏の旅行シーズンが近づくと、日本の方からトルコ旅行に関する質問をよく受けるようになります。そこで私が感じるのは、日本の一般的な人たちの持っているトルコに対するイメージと、現実のトルコのギャップがかなり大きいということです。政教分離国であり、宗教施設内以外は服装なども自由であるということは、意外な驚きを持って迎えられます。

さらに「物価が安い」と言うイメージもあるようです。しかしイスタンブルでの生活者の実感としては、収入の低さに対して物価は高く、特にイスタンブルに暮らすということは経済的にかなりの負担を強いられます。ここ数年の物価の急騰により、人々の暮らしは厳しくなるばかり、近年の引ったくりや強盗事件の急増もこの影響が強いと言われています。

先日、トルコの統計局の調査を基にした、全トルコ労働組合による「貧困のボーダー」の数値が発表されました。平均モデルとしての、世帯主、専業主婦、6歳以下の子供一人、6〜15歳の子供一人と言う4人家族の、一月の最低食料費は、551.09リラ(2006年6月10日現在で約5万円)ということでした。これは一日に摂取すべき最低カロリーの世界基準を元に計算されたもので、摂取カロリーがこれ以下になると「飢え」の領域に入るとされています。

この数字は、「飢えのボーダーライン」と言うことですが、さらに人間らしい生活を営むための最低ラインと言うものも発表されていました。最低限の生活を営むための支出の総合です。これは、先ほどの食料費に、家賃、光熱費、医療費、通信費、教育、保険などを足したものです。遊興費がゼロ、スポーツが0.33リラなことをみても、かなり切り詰めた生活です。このライン以下の生活は「貧困生活」であると言うことだそうです。この「貧しさのボーダーライン」は、上記家族構成の場合、1,679.04リラ(2006年6月10日現在で約14万1,510円)だそうです。つまりこれだけの収入が世帯にない場合、その世帯の生活は「貧しい生活」となってしまうわけです。発表によると、夏になり、野菜や果物の値段が下がったために最低食料費は下がりましたが、家賃の高騰と被服費の値上げがこの数字をたたき出したと言うことです。

では、毎月コンスタントに1,679リラを稼ぐことの出来る家庭はどれだけあるのでしょう。労働社会省の発表した最低賃金は、手取りで16歳以下322.43リラ(約2.7万円)、16歳以上で380.46リラ(約3.2万円)です。もちろんこれは最低賃金なわけですが、単純に考えても市民の暮らしはそうそうらくではないということです。もし、専業主婦以外のすべての世帯の構成員が働いたとしても、全員が最低賃金しか収入がない場合、それは1,024リラにしかならないのです。私個人の実感としては、手取りで毎月1,679リラを稼ぐことの出来ている人は、かなりいいお給料をもらっている人というものです。そうなると、都会での共働き夫婦の増加や、一人っ子を選択する夫婦が増えていることなどにも納得がいきます。

家族のつながりを大事にする、父親と、専業主婦の母親、たくさんの子供たち、場合によっては舅と姑という「トルコの家族」モデルは、都会ではとうに遠いものになってしまっているようです。その「トルコの家族」モデルが遠くなるにつれ、トルコの社会が乱れると嘆く人もたくさんいます。しかし、このような経済条件の下では、上記の構成の家族を世帯主一人が養うと言うのはとても困難です。もちろん日本から来た旅行者にとっては、トルコはのんびりしていて果物などが安く、過ごしやすいところかもしれません。しかし、家賃などは安くなく、イスタンブルでは日本の地方都市なみです。このような状況が変わらない限り、トルコも都会では核家族化が進み、人々が懐かしげに口にする「トルコの家族」はさらに遠いものとなっていくのでしょう。


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