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窓の外を流す売り子の手押し車には、トルコの内陸部から持ってきたと思われる、厚手の毛糸の靴下が積まれています。「毛糸のくつしたぁー」と叫びながら通り過ぎる車たちは、日暮れを迎えると、「ボザァー」と声を張り上げる売り子に取って代わられます。昔ながらの、天秤に桶をぶら下げて歩く「ボザ売り」は、今でも冬の夜の街角の風景のひとつです。
この「ボザ」は、麦を発酵させて作った、とろりとした飲み物で、冬場だけ販売されます。含まれるラクトース酸によって、消化を助け、冷えた体を温めるとされています。ビタミン豊富で特に授乳期の女性にいいということです。
イスタンブルでもっとも有名なボザ専門店「Vefa」の前の道では、冬になると入りきれなかったお客さんがあふれてボザを立ち飲みしています。トルコ建国の父アタテュルクがボザを飲んだと言うグラスが、ガラスケースに入って店内の高いところに飾られているところなど、いかにも老舗、と言う感じです。
このボザのほかに、人々に冬の到来を感じさせるのが「サーレップ」です。濃厚なミルク味の葛湯(くずゆ)、と言えば日本の方にも想像できるでしょうか。葛の代わりに、ユリ科の植物サーレップの根を使ってとろみをつけた熱くて甘い飲み物に、シナモンを掛けて飲むのです。このサーレップは流し売りではなく、主に喫茶店で供されます。メニューに「サーレップはじめました」の文字を見ると、人々は冬が来たな、と感じるのです。お酒を飲まない人々や子供たちは、これらの飲み物で体を温めていたそうです。
そして私が一番好きな冬の風物詩が、「焼き栗売り」です。夏場、キュウリや茹でとうもろこしを台車で流していた売り子たちが、今度は焼き栗を売り始めるのです。焼き栗売りは、流すことをせず、街角に小さな炉を置いて栗を焼きながらお客を待っています。炉の中には小さく割られた炭火が入っていて、その上に置いた鉄板で栗を焼くのです。茶色い紙袋の中に熱々の焼き栗を入れてもらって、その熱で手を温めながら歩くと、海から吹いてくる冷たい風も気持ちよく思えるのです。
同じ炉の上で、網状のものを振り続けている人もいます。これは、主に映画館の前にいる「ポップコーン売り」です。鉄製の網で作った、取手がついた籠状のものにとうもろこしを入れて、火にかざして振るのです。日本から来た年配の方が、これに良く似た形で米を炒って爆発させたものを、日本でも売っていたと教えてくれました。もちろんトルコでも、すでに機械のポップコーンマシンが主流ですが、映画館に入る前に、この手製のポップコーンを買うのを楽しみとしている年配の方は多いようです。
日本では、世界のどこの食べ物でも、どの季節にも手にすることができるようになりました。トルコでもその傾向はあり、冬場でも真っ赤なトマトがスーパーに並びます。日本から来た私にとっては、それでも濃厚で非常においしく感じるのですが、トルコの人たちは皆「昔のトマトは太陽のにおいがして、ずっとおいしかった」といって、季節はずれの食べ物にはあまり手を出しません。値段も、旬のころに比べるととても高いのです。
私がここに来てから約8年のあいだに、青空市場が閉鎖され、鯖サンドウィッチ船が撤去され、お買い物もアパートの窓から吊り下げた籠に注文品を入れてもらう方法から、ネットや電話で注文・自宅配送するようになり、マーケットに季節を問わずさまざまな種類の野菜が並び、アボカドやパイナップルなどの果物が輸入されるようになりました。
イスタンブルは、日々めまぐるしく変化しています。忙しい毎日の生活の中で、気付く機会のない四季の移り変わりを思い出させてくれるこの売り子たちには、いつまでも頑張って欲しいものです。
画像上:ボザの老舗"VEFA"の店先
画像下:町を流すシミット(ドーナツ型のゴマ付きパン)売りの少年
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