■銃社会トルコの苦悩(1) 2005.9.19 update

兵役に向かう若者を、送り出す季節になりました。大通りに面している私の家の窓の外では、銃声がこだましています。親しい友人が集まって兵役に行く青年を車に乗せて街を流すのですが、その際にサンルーフや窓を開け、大きな声で軍歌を歌ったり、拳銃を空に向けて撃つその音で出征を祝うのです。軍歌と銃声が聞こえてくると、私はすぐに窓から離れることにしています。

トルコ全土で、毎年約700人の罪のない人が、本人とはまるで関係のない発砲による流れ弾で命を落としているといいます。空に向けて銃を放つことは禁止されていますが、それでも、友人が出征するといえば撃ち、応援しているサッカーチームが優勝したといえば撃ち、結婚式で撃ち…、と、機会があれば発砲している人がたくさんいます。

窓際で寝ていた赤ちゃんに流れ弾が当たって亡くなるという悲しい事件もありました。もちろん、誰が発砲したものかわからないので、家族は泣き寝入りです。また数年前には、バカンスに来ていたイギリス人の家族が押す乳母車の中で寝ていた二歳半の子供に、喧嘩による発砲の流れ弾が当たって亡くなるという痛ましい事故もありました。この事故で亡くなった赤ちゃんの父親は、トルコ国籍を持つ夫人と一緒に、個人の銃所持を規制する運動をトルコで展開しています。

ある統計によると、トルコで個人が所持している銃の数は、トルコ軍が持つ銃の数の約二倍とされています。人々が、これほどまでに銃を持つことの背景には、ひとつにはトルコの遊牧の伝統から残る、「馬、女、銃」を財産と数えるというものがあります。犯罪心理学者アイハン・アクジャン氏によれば、現代の都会では最初の二つが「車、恋人」にかわったにもかかわらず、銃はそのまま、男の財産として考えられている部分があるということです。確かに、居間に銃を飾ったり、来客に銃を見せたりする人に会ったことが私もあります。銃がいつでも手の届くところにある、という状態は、日本人の私からするととても恐ろしいものですが、彼らにとっては、銃は男の印しるしです。

一度、銃を所持している人に、「銃は人を殺す道具だよ」といったところ、「銃でなく、所持者の脳が人を殺すのだ、銃に罪はない」という答えが返ってきました。つまり、自分は自制心があるから大丈夫、というエクスキューズをしているわけですが、本当にそうなのでしょうか。何かに非常に怒ったとき、自制心を失ったときに手元に銃があったら、人は引き金をひいてしまうものではないのでしょうか。

実際に、タクシーの運転手を些細な言い争いから撃ってしまった乗客や、ファーストフード店で別れ話の最中に逆上した男性が、子供や親子連れの多い店内で、話し相手を射殺した事件もありました。夫婦喧嘩で逆上した女性が、発作的に引き出しを開けて銃で自殺したという話を聞きました。手入れをしているときに暴発して自分の息子を死なせてしまった人もいます。そのほかにも、ニュースになっていない事件もたくさんあるに違いありません。

また、銃を持っていたら、私にそれを見せた人のように、他人に自慢したくなるでしょう。祝い事のときに、つい空に向かって撃ってしまわないでしょうか。そしてその弾は、誰かの心臓を射抜くかもしれないのです。私からは怒りの沸点がとても低いように見えるトルコの人たちが、ほぼ自由に銃を持てるという状況を考えると、背筋が寒くなる気がするのです。

この、ほぼ自由に銃がもてる、ということですが、もちろん法律での規制はあります。しかし、これが規制といえるものかどうなのかということが、最近のトルコでの議論の的になっています。

まず銃を購入する際に、すべての国立病院、または私立の心療内科院のレポートの提出が義務付けられています。しかし、前述のアイハン氏によれば、この診療はごく簡単なもののようです。なぜ銃の所持許可証を欲しいかを質問するのみで、共通のテストのようなものも一切行われていないということです。そして、トルコでは横行している賄賂、脅しがここでも頻繁に行われていて、このレポートの取得はごく簡単なようです。

このレポート提出があってないようなものであることの上に、一定の職業についている人たちには、ほぼ無条件に銃所持許可証が発行されます。退役軍人や、引退した警察官、検事などがそれに当たります。

現在の銃火器法は、1953年に制定され、その後、1986年に改正されたものが元になっています。86年の法改正によって、銃の所持がごく簡単になったことが、ここ最近の銃による犯罪や事故がうなぎのぼりに増えている原因だといわれています。そこで世論は、この銃火器法を改正しようという方向に向いてきています。毎日のように、銃による事故で命を落とす人の記事が新聞に躍る中、政府がどのような対策を採ろうとしているかは、次回に続けて書きたいと思います。

画像:ブルーモスク


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