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トルコのお酒、といえばラク。ブドウから作られる蒸留酒であるこのお酒は、イタリアのぺルノーやフランスのアブサン、ギリシアのウゾーと同系統のお酒です。もとはアラックという中東のお酒で、水を加えると白濁するのが特徴です。日本人が日本酒を、単なる嗜好品としてだけでなく、文化の一つとして愛するように、トルコの人たちはラクを愛しています。ラクを題材とした愛の詩が詠まれ、ラクテーブルと呼ばれる宴席を舞台にした逸話も数多く残っています。
そんなラクが、ここの所ピンチです。私も書きましたが、数ヶ月前にラクの偽物が出回るという事件があり、その売り上げはがたりと落ちました。トルコのナイトシーンの変化につれて、アルコール消費がビールやワインに傾いてきたところにこの打撃を受けたラクの販売会社は、もっか建て直しに東西奔走中です。
トルコではイスラーム信仰の人が大半ですが、ワインの産地であり、ラクという国民酒があることからもわかるように、アルコールに対する考え方はおおらかです。共和国建国の父であるアタテュルクも、ラク愛飲者でした。そんなトルコの飲酒文化は、もとはラクを中心としたもので、メイハネといわれる前菜をふんだんに用意した居酒屋や、ビラハネという、簡単なナッツなどを供するビールの一杯立ち飲み屋のようなところで飲むか、家庭で集まって、ラクをあけるというものが一般的でした。
しかしここ近年、ワインのためのブドウ畑に目をつけたヨーロッパ企業が、トルコ国内のワイン業者と共同事業に乗り出したり、ワインバーが流行したことに伴って、まずワインが少しずつ売り上げを伸ばし始めました。各社競争も激しくなり、国産ワインが手ごろな価格で提供されるようになったのも大きく影響しているのではと思います。データを見ると、2000年に4千万リットルだったワインの年間消費量は、2004年には7千万リットルにまで跳ね上がっています(75%増)。
私個人としては、これまで男性の聖域だったビラハネの代わりに、女性も入れるワインバーがたくさん出来たことの影響は大きいと思います。女性同士でのみに行く、という感覚は、私が初めてトルコを訪れた97年にはまだあまり浸透していなかったと記憶しています。そして若者たちは、特にイスタンブルやイズミルなどの大都会では、クラブで盛り上がるとビールをよく飲みます。これも、トルコのビールメーカーがいくつかあり、各社それぞれの特色を打ち出し、宣伝も盛んです。ちなみにビールの年間消費量は2000年で6億6千万リットルだったのが2004年には8億千2百万リットル、35%の増加が見られました。
こうしたなかで、トルコの国民酒であるラクには、「おしゃれじゃない」「オヤジくさい」という、あまりありがたくないイメージがついて回るようになりました。テレビドラマなどでも、おしゃれなカップルはクリスタルのワイングラスを傾けながら愛を語り、元気な若者はビール片手にクラブで体を揺すっているのに対し、失恋した男性は道端のテーブルで男ばかりでラクを飲み干して、泣きながら演歌を歌うのです。ラク人気の凋落振りはデータにも明らかに表れていて、2000年に8千万リットルあった年間消費量は、2004年には4千7百万リットルにまで落ち込んでいます。
ラクの販売会社は、この窮状を救う救世主として、外国人を新たなターゲットに設定しました。ラクをトルコのお酒として、海外市場に広めようというのです。ラクの製造販売の最大手会社、Mey社は、「イタリア、フランスといえばワイン、ウイスキーといえばスコットランドというように、トルコのお酒といえばラクというイメージを固定し、ヨーロッパでの売り上げを二倍にしたい」といい、今年初めてドイツのスーパーマーケットで、ラクのスタンドを立てました。
そこではトルコ系移民や、トルコ人に容姿が似ているドイツ人の若い女性をアルバイトに雇って試飲販売をするなどのプロモーションが行われています。トルコのお酒でありながら外国人にターゲットを絞るというのはなかなか皮肉な状態ですが、観光収入の高い国でもあり、外国人にラクが浸透することの効果は確かに大きいはずです。
偽ラク事件が収束してから、国内でのラクの消費も元に戻りつつありますが、現在でも30代以上の消費が中心であるために、今後ラクに親しむ人の人口はさらに減ることが懸念されています。たくさんの種類を出してワインのように選択肢を増やしたり、先に述べたようなプロモーションをしたり、ラクの製造販売会社は国民酒の名に恥じない売り上げをと必死です。
もともとトルコの人たちに長く愛されてきたお酒ですから、一時日本で日本酒がブームになったように、トルコ国内でもラクのおしゃれな飲み方などが提供されれば希望はあると思います。ここのところ受難続きのラクですが、おかげで消費者にとってはさまざまなメーカーのラクを試すチャンスでもあります。もしもトルコにいらっしゃる方がいたら、是非いろんな種類のラクを飲んでみてください。慣れるとなかなかおいしく、味わい深いものです。
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