■偽物にご用心 2005.4.4 update

先日、舞台の公演が終わったあと、仲間でのみに行こうという話がまとまりかけた時でした。仲間の一人が、「死にたくないから、居酒屋じゃなくてワインバーにしよう」と言い出したのです。みんなで笑ったのですが、これはここのところのトルコでの、偽ラク騒ぎに引っ掛けた冗談です。トルコの国民酒といわれる蒸留酒ラクは、メイハネといわれる居酒屋や、シーフードレストランなどで供されます。自宅でももちろん飲みますが、たくさんのつまみを前にして友人と酌み交わすラクの味は格別なものです。

このラクの中でも、一番ポピュラーなMey社製の「イェニラク」の偽物を飲んだ人たちが次々に亡くなるという事件が3月はじめから起きました。このイェニラクは、専売公社時代から続く古い銘柄で、専売公社がMey社に買い上げられた後、ラク市場に他社が参入してからも、常に売り上げのトップを誇っていたものです。

どれも居酒屋やレストランで飲んだとのことで、亡くなった人たちが口にしたラクには大量のメチルアルコールが含まれていたそうです。これまでも、アルコールを足して量を増して利益を上げる偽ラクは取締りの対象でしたが、今回、1週間のうちにトルコ各地で19人もの人が亡くなったのを受け、警察は大々的にこの偽ラクシンジケートを検挙するために動き出しました。同時に、Mey社は市場にあるすべてのイェニラクを回収すると発表しました。そして、新たな偽ラク事件を防ぐために、これまでの銀のふたに代わって金色の新しいふたを作り、このふたの上の番号とビン自体に刻まれた番号が一致しないラクは買わないようにと呼びかけました。

偽ラク工場に次々に警察が入り、機械や書類が回収され、工場の経営者も逮捕されました。テレビで見た専門家のコメントによると、匂い、色ともに本物と偽者の区別をするのは非常に難しく、ビンは使用済みのビンを回収して再利用していたそうです。国民総ロシアンルーレット状態だったこの何週間か、お酒好きの人はみな戦々恐々としていたようです。偽物天国といわれるトルコですが、今回の事件は命がかかっていただけに警察の動きも早かったそうです。3月10日以降、マーケットには新しい金のふたのイェニラクが並び、人々も安心して飲んでいます。

今、テレビで人気の告発番組にたびたび食べ物の工場が登場するのですが、日本人の私からすれば恐ろしいばかりです。黒オリーブを漬け込む時間と手間費用を節約するために、人体に有害な染料を使っているところや、ひき肉のかさを増すために動物の骨の粉砕したものを混ぜていたりする映像は、怖くて見ていられません。インタビューでも、このような工場の経営者は「お金がかかってしょうがないから、こうすれば元手がかからず儲けが上がる」というばかりです。

そういえば、イェニラクのスポークスマンも、酒税が高すぎるために料金が上がり、そのために安い偽ラクを買う人が出てくるとコメントしていました。確かに安ければ嬉しいですが、安かろう悪かろうでは意味がないと思うのです。口に入るものならなおさらです。トルコでは消費者のほうが自分を守るために知識武装をしなければいけません。そして、悲しいですが、中くらい以上の値段のものが買える程度のお金も持っていなければ、このような危険から身を守ることは難しいようです。

では、命がかかっていなかったらほうっておけばよいのか、といえばそうではないのですが、ほかの海賊版についてはなかなか完璧な取り締まりは難しいようです。コピーライトに対する考え方が非常に曖昧で、法整備がまだしっかりしていないのです。もちろんEU加盟に向けて、法は少しずつ出来ていますが、実行されていないというのが現状でしょうか。

映画も洋画邦画を問わず、公開の翌日には海賊版が町に並び、新刊の本も一週間もたたないうちに半額以下の値段で売りに出されます。この海賊版天国に立ち向かうため、利益を度外視してある作家が1.5リラで書き下ろしの本を出版しましたが(普通、小説本は10リラ〜)、2週間後には1リラで海賊版が出回りました。音楽CDに関しても、アーティストが海賊版を買わないようにファンに呼びかけたり、値段を下げるなどの努力をしていますが、内容が同じで表紙も同じ、安いならみな海賊版を買ってしまいます。

このようなコピーライトに対する考えの曖昧さは、実は製作者側にもあります。そのためトルコのテレビ業界は、とてもへんてこな状態になっているのです。それについては次回にお話しすることにします。

画像:ラクの中でも一番ポピュラーな、Mey社製「イェニラク」


<<もどる