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今年は少し遅く、イスタンブルにも5月になってようやっと春がやってきました。トルコの人たちは屋外で過ごすのが大好きです。お天気が良い休日には、家族で公園にピクニックに行ったり、お庭でバーベキューをして過ごすことが多いようです。平日でも仕事の帰りに、オープンエアのカフェやレストランでくつろぐ人たちをよく見かけます。今週の週末はお天気も最高で、海沿いのレストランにブランチに行った私の肩は、その夜擦れて眠れないほどに日焼けしてしまいました。まだ冷たい海の水に足の先をつけたまま食べるトルコ式の朝ごはんは、この季節の一番の楽しみです。ご飯の後は、甘いトルココーヒーをデザート代わりにいただきました。
トルコの人たちはお茶が好きで、「チャイ」と呼ばれる濃い目に煮出した紅茶を一日に何杯も飲みます。チャイが日常の飲み物なら、コーヒーはちょっと気張ったときの嗜好品。コンロに常に沸いているチャイと違って、コーヒーは一杯ずつ、砂糖の量も飲む人の好みに合わせて小さな手鍋で淹れられます。淹れ方は、小鍋に挽いたコーヒーの粉と冷水、好みの量の砂糖をいれ、ごく弱火でゆっくりと時間をかけて暖めます。正しく淹れられたコーヒーは、小さなデミタスカップに注がれると細かい泡が立ちます。カップの底に沈んだコーヒー滓(かす)が口に入らないように、上澄みを啜るように飲みます。口の中の滓を洗い流すために水が一緒に供されますが、ロクムと呼ばれるトルコのお菓子や、甘い果物のリキュールが添えられることも多いようです。
このように淹れるのにも飲むのにも手間のかかるトルココーヒーは、主にレストランでのお食事後や、お客様があったときのもてなしに出されます。またトルココーヒーが人々の間で最も重要な役割を果たすのが、求婚の場面です。求婚する男性が、女性の家に家族とともに訪れると、求婚される女性自らの手で入れられたトルココーヒーが両家にサービスされます。これはその女性が家庭的で、料理上手(トルココーヒーを細かい泡の立つ状態で美味しく入れるのは大変難しいとされています)であることを示すもので、これを両家飲み干すと、男性側の代表である新郎の親がおもむろに、娘さんをいただきたいという内容の口上を述べるのが慣わしとなっています。
人々の暮らしのそこここに根ざしているトルココーヒーですが、特に女性が夢中になるのが、飲んだあとにカップとソーサーにこびりついた飲み滓の形で未来を占ってもらう「コーヒー占い」です。イスラームを信仰する人が多いこの国では、神様のみが知る運命を「占う」ということに眉をひそめる人もいますが、女性はどこの国も一緒、そんなこと気にしていません。当たると言われている人がその場にいることが発覚すると、こぞってコーヒーを注文します。イスタンブル第一の繁華街、イスティクラル通りの裏路地には、コーヒー占い師の常駐するカフェが集中している場所もあります。旅行者のために英語で占ってくれるサービスのあるお店まで登場しました。私も近所で評判のおばさんから占い師を生業としている人まで、何度か占ってもらったことがありますが、なかなか具体的な指摘もしてくるので面白いものです。
トルコに旅行に来た人は、チャイがトルコの飲み物として記憶に残るようですが、実はチャイはこの国に後から入ってきた嗜好品で、コーヒーのほうが歴史はずっと長いそうです。1550年代に、シリアからやってきた二人の貿易商がコーヒーを持ち込んで、喫茶店を開いたのがはじまりといわれています。今から約450年前に、オスマントルコ帝国のイエメン大使が、コーヒーを持ち帰り、40人の職人の手によって淹れられたコーヒーが宮廷のサロンでスルタンに供された、という記録も残っています。その後は市井の人々にとってちょっと気の張ったおもてなしとして、トルココーヒーはひろまって行ったようです。
お盆の上にたくさんの透明な紅茶グラスを載せて、街を走り回る少年からチャイを買うのもトルコ旅行のひとつの楽しみですが、一度トルココーヒーも試してみることをお勧めします。コーヒーを飲むことを、淹れることからはじまってさまざまな手順と制約を楽しみながら行うということは、食後のお茶を楽しむ習慣のある私たち日本人にとって思いがけないほどにほっとするものです。そして占いのできる人がその場にいるようでしたら、楽しみの一つとしてみてもらうのもいいかもしれません。いいことを一つ言ってもらうだけで、旅がまたもうすこし楽しくなるかもしれないのですから。
私も現在、占いの人に言われた「素敵な異性」の出現を楽しみに毎日を過ごしています。
画像上:ガラタ橋で釣りを楽しむ人たち。ガラタ橋は、イスタンブルの新旧市街をつなぐ大動脈です。
画像中:トルコの人たちはチャイを一日に何杯も飲みます。
画像下:チャイが日常の飲み物なら、このトルココーヒーはちょっと気張ったときの嗜好品です。
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