■ヒルステーション▲インドの避暑地は別世界 2004.8.16 update

インド最大の観光名所と言えばタージ・マハル。連日世界中から観光客が訪れていますが、やはり一番多いのはインド人観光客。ほんの数年前までは、インド各地の遺跡は本当に閑散としていたのですが、いつの間にかインド人が大挙して自国の遺跡観光をするようになり、タージ・マハルのように有名な遺跡はインド人の団体で溢れかえるようになってしまいました。伝統的に、インド人にとって「旅」とは、宗教的聖地を巡る巡礼でした。現在でも有名な聖地は多くの参拝客を集めています。しかし、外国人観光客のようなスタイルの国内旅行をするインド人も近年急速に増加してきました。

インド人の旅行トップ3を挙げるとすれば、上記の巡礼地巡りと遺跡巡りがランクインするのは確実ですが、もうひとつ重要な旅行の形態があります。それは避暑です。インド各地には有名な避暑地(ヒルステーション)が点在しています。そのほとんどは、英領インド時代にインドの夏の暑さを我慢できなかったイギリス人が、夏の間だけ滞在するための避暑地を開発したことに由来していますが、イギリス人が去った後も各地の避暑地は夏の間インド人避暑客で賑わっています。

有名な避暑地を挙げていくと、まずいろいろな意味で有名なのがジャンムー&カシミール州のシュリーナガル。印パ問題の重要な争点となっているカシミール地方の中心的都市で、「地上の楽園」と称されるインド随一の美しい避暑地でありながら、イスラーム教過激派組織によるテロ事件が頻発しており、「天国と地獄が出会う場所」とも言われています。シュリーナガルの中心にあるダル湖に浮かぶホテル、ハウスボートが有名です。最近印パ関係が改善に向かったため、カシミールの治安も一応の安定を見せ、今年はシュリーナガルに多くの避暑客が詰め掛けたそうです。

他の有名な避暑地は、ヒマーチャル・プラデーシュ州のクッルー、マナーリー、シムラー、ウッタラーンチャル州のムスーリー、ナイニータール、西ベンガル州のダージリン、ラージャスターン州のマウント・アーブー、マハーラーシュトラ州のマーテーラーン、マハーバーレーシュワル、タミル・ナードゥ州のウータカマンドなどなどです。当然のことながら、全ての避暑地は夏でも涼しい山間部の高地にあります。

これらの避暑地がピークを迎えるのは、インドが最も暑くなる4月から6月です。ハイシーズンの間、ホテルの宿泊料はオフシーズンの数倍に跳ね上がります。この間に避暑地へ行こうと思ったら、予約をしていかないとホテルの空き部屋を探すのに苦労するでしょう。避暑地に詰め掛けるインド人の多くは、都市部の中・上流層。外国人旅行者や駐在員なども暑さから逃れて来ています。金持ちインド人の中には避暑地に別荘を持っている人もけっこういるようで、暑さが引くまで避暑地にのんびりと滞在している長期滞在型の避暑客が目立ちます。また、ハイシーズン中の避暑地のマーケットの盛り上がりは、日本の避暑地の比ではありません。

多くの避暑地は英領時代に開発されたので、他のインドの都市とは違った独特の雰囲気を持っていることが少なくありません。ヨーロッパ風の建築物が林立していたり、大きな教会が町の中心になっていたりする避暑地もあれば、チベット人たちが多く移住したためにチベット色の強くなっている町もあります。シムラー、ダージリン、マーテーラーンでは、トイトレインが運行しており、麓から小型の列車に乗ってのんびりと景色を楽しみながら行くことができます。特にダージリンのトイトレインは、世界でも珍しい蒸気機関車で、ユネスコ世界遺産にも登録されています。

インドの全ての避暑地を巡ったわけではないので断言はできませんが、しかしおそらくインドの避暑地の中で最もユニークなのが、マハーラーシュトラ州のマーテーラーンだと思います。上記の通り、トイトレインが運行されているのも特徴のひとつですが、何よりマーテーラーンをユニークな避暑地にしているのが、手付かずのジャングルと徹底的な車両排除です。

実はマーテーラーンはジャングルの中にあります。テーブル状の台地の上の、鬱蒼とした森林の中に点々とホテルや商店が並んでいます。舗装された道路はありません。マーテーラーンに来る者は、町の中心部から2.5km離れた駐車場に車を停めてそこから30分かけて歩くか、トイトレインで来るしかありません。町の交通機関は馬かロバか人力車のみ。自転車すら許されていません。最も便利で快適な移動方法は徒歩ということになるでしょう。マーケット周辺はそれなりに混雑していますが、少し外れれば熊でも出そうな静かな森林となります。こんな独特な雰囲気の町はインドには他にありません。

近年インド各地の避暑地は許容量以上の避暑客が詰め掛けていることもあり、次第にのんびりとくつろぐことが困難になって来ていると聞きます。ホテル、レストラン、商店の乱立は環境破壊につながり、夜までドンチャン騒ぎが続くマーケットは、皮肉なことに都会よりもやかましくなってしまっています。昔の静けさを懐かしみ、現在の喧騒を嘆く年配の人も少なくありません。しかし、避暑地が繁盛するのは、インド人が豊かになってきていることの証拠です。

普通の旅行者がこれらの避暑地を訪れることはまずないでしょう。しかし、一度でもシーズン中に避暑地に行ってみると、インド人の経済力の底力がどんなものか、実感することができます。

画像右上:地上の楽園、シュリーナガル
画像左上:シュリーナガル名物、ハウスボート
画像右中:シムラーの広場
画像左下:ダージリンのトイトレイン(蒸気機関車)
画像右下:マーテーラーンの市場

【短信】デリーはやっと雨が降り、涼しくなって来ました。インドでは雨季がくると夏が終わります。(8/5)


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