■不動産バブルとその終焉 2008.4.22 update

スペインの町は、大聖堂を中心とする旧市街があり、それをとりまくようにして新市街が広がっています。新市街の終わりは、はっきりしていて、そこからは次の町まで道路だけがあり、周囲は畑か松林、ただの荒れ地など、荒涼とした風景が続きます。そして次の町が終わると、またその次の町まで道路でつながり、その周囲は広大な空き地で、家もなければスーパーもありません。

その空き地や松林がどんどん整地され、家やピソ(集合住宅、いわばマンション)が雨後の竹の子のように建ち始めたのは2002年のユーロ導入後のことでした。今まで何もなかったところにピソが建ち、公園ができ、プールができ、大型スーパーができ、病院が新設されました。新たに学校ができたところもあります。潤沢なEU補助金があったこと、低金利、移民流入政策に支えられた空前の建築ラッシュでした。

元々、「家は購入するもの」という考えが根強いスペインでは、賃貸はお金を捨てているようなものと思う風潮が強かったので、誰もが家を買い急ぎました。もちろん投機目的で購入した人も大勢います。なんといっても、ユーロ導入前は1,000万円くらいだった海辺の古い一軒家があれよあれよという間に2倍、3倍、場所によっては5倍もの値段をつけて売れていったのですから。ここ数年、新規住宅着工件数の伸びは、EU加盟国中最大でした。

1998年から2007年までの不動産価格の上昇率は平均10%。30%を記録した時期もありました。2000年から2005年まで、年間30万世帯が新築され、2006年には80万世帯が新築されています。不動産屋も増えました。小さな八百屋が店じまいしたなと思ったら、全国チェーンの不動産屋に変わることも多くありました。そのせいか、商店街が寄付金を出し合って道を飾っていたクリスマスシーズンも、電飾ひとつない道が増えました。ユーロ導入前は、50ペセタ(約48円)しなかったバケットパン一本が60センティモ(約96円)と2倍になり、肉も魚も、仕事帰りのビール一杯も2倍、3倍に値上がりし、現在、ひどいインフレ感があります。

そして、10年前にはほとんど見なかった、いわゆるサラリーマン金融の店が目立ち初め、テレビのCMでは「電話一本でその日のうちに50万円があなたのところへ!」と甘い台詞が流れています。それもそのはず。不動産を所有するスペイン人で、可処分所得に占める住宅ローン返済額の平均的な割合は5割近いというのです。夫婦共働きで、一人分の収入は全部ローンに消えていく・・・。想像しただけでも、わたしなんかは怖い。

「不動産は値下がりしない」という神話を信じている人が多いのと、この10年の値上がりを見て、「今、買っておかないと損」という強迫観念が無理なローンを組ませるのでしょう。40年から50年という長期住宅ローンを組む人が多いそうです。スペインの銀行の貸出債権は5割以上が不動産関連と言われ、その合計額は3,000億ユーロにも上ります。しかも、この10年で数倍にもなった不動産価格と比較して、個人所得はそれほど伸びていません。

そして、頼みの不動産神話も国内不動産市場のバブル懸念と2007年のアメリカ・サブプライム問題がきっかけとなり、崩れ始めました。スペインの不動産業界の冷え込みは著しく、不動産ディベロッパーは大量の売れ残り物件を抱えているそうです。わたしが住む村にも建築途中で工事が中断している物件がいくつかあります。税収入が減ったせいか、立派な視聴覚センターも、みんなが待ちに待っていた温水プールの建築も途中で止まっています。

安いコストを売りにして誘致した外国企業が、さらに安い南東欧諸国に移り始めたことも影響し、経済成長率は落ち、失業率も急上昇しています。今のところ、不動産価格の下落はゆるやかなので、投機目的で不動産を購入する人は依然存在し、国民がひどい不安感に襲われていることはないように思えるのですが、経済危機は着実に進行しています。願わくば、この矛先が全国民の1割を超える移民に向きませんように。

画像上:「売ります」の看板を掲げた中心地のピソ(集合住宅、いわばマンション)。この手の広告をたくさん見かけます。
画像中:バリャドリッドのサッカースタジアム。3年前までは、周囲になにもありませんでしたが、今ではひとつの地区が成り立つほどにピソが建っています。
画像下:こちらは建築中のピソ。去年くらいまでは、あっという間にできあがっていましたが、最近は売れ行きが芳しくないせいか工事のスピードもあきらかに落ちています。


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