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今年の3月の英国は異常気象でした。とにかくよく晴れました。3月31日迄好天気が続き四月に入り一寸愚図つき、やっと普段の天気に戻ったと思ったらとんでもない、温度は低めですがまだ素晴らしい天気が続いております。旦那は「きっとこれが今年の夏なんだ、もう後は冬だよ」なんて冗談とも本気ともつかない事を言ってますが、天気に関しては何があってもおかしくない国なのでさもあらんという気がしなくもありません。
今回表題の『たどぽーる』は、現在建築中のセントポールに次ぐ英国第二の規模の寺院の名前ではありません。蛙の子供、そう『お玉じゃくし』の英語名(Tadopole)です。3月になると旦那はそわそわし始めます。池の水を換えたり、気温を気にしてます。ある日私が台所仕事をしていてひょっと窓から眺めますと、庭へ続く石段の所に黄色っぽい物が目に入りました。それは少しずつ動いてます。よく目をこらして見ると蛙の夫婦でした。奥さんが旦那さんをお背中に乗せてゆったりと動いており、見る間に草むらに入って行きました。「トーちゃん、来たわよ」。ウチの旦那はほっとした笑みを浮かべます。
翌々日、池を覗くとなんと三組の蛙の夫婦が底に踞ってました。そして翌日の朝には既に卵が少し産みつけられてました。朝食を取りながらふとパティオを見ると、一組が階段を昇れなくてウロウロしてます。旦那が池に入れてやろうと外に出ると更にもう一組がいて、都合五組が結局池に収まりました。その日は一日中お産で、風もないのに池の水面はずっと動いてました。邪魔をしないように気をつけて覗いてみると、面白い事に一匹の奥さんに二匹の旦那さんがしがみついてる三角関係もあり蛙の世界も複雑だなと思わせます。次の朝にはお産は完全に終わり、一匹の見張りの旦那さんを残して全員居なくなってました。
折角の大役を担ってる見張りの顔をつぶしては悪いと、3日後に彼が去ってしまうのを待って今年も半分の卵をバケツ三杯に移しました。これからが大仕事です、といっても私は何もしません。これがウチの旦那の春の楽しみだからです。
3年前私が所用で日本へ単身帰っていた今頃の季節の或る日、ウチの旦那は会社を早くに退社し我家への坂道をトボトボ歩いておりました。千載一遇のチャンスなのに悪い遊びもせず、いい天気なので仕事をサボって庭仕事をしようという魂胆です。途中で黄色い物が歩道の隅に落ちてるのを見かけ近寄って見ると蛙の夫婦でした。何の迷いもなく拾い上げ家へ持って帰りました。ネクタイを締めスーツを着て片手に鞄、そして片手に蛙を持った姿は自分でも可笑しかったそうです。あの時は近所の人と出会わなくてよかったと、今だに言っております。
そのまま池に入れたら次の日に卵を産みました。その年は池で蛙が卵から育っていくのを眺めて楽しみましたが、去年からは旦那は時間があるので家の中で育てると言い出しました。言い出したら聞かない御仁ですので諦めてその事を友達に話しましたら、「ウチの旦那はずーっとやってるわよ。子供の教育の為だと言って始めたんだけど、子供が大きくなってからもずっとやってるの。蛙になると家中大変なのよ。男の人って面白いわね」と。丁度居合わせた旦那を捉まえ、「蛙の卵には二通りあって紐のように数珠(じゅず)繋ぎのを英語名ではナントカで、団子状のをカントカ言うのよ」なんて言ってましたが、彼は英語よりも卵の形に興味を持ち、「そういえば確かに子供の頃近所の池で見たのは紐状だったなァ」なんて懐かしがっていました。因みに我家のは団子状です。
去年はその上に日本に出稼ぎに行ってる旦那のお友達がその話を聞き及び、わざわざ帰国の折に水槽を届けてくれました。余談ですがその時ご子息と一緒に二人しか乗れない車でみえたのですが、トランクも小さくて水槽はご子息が助手席で抱えてました。車の形がスマートだったので、「xxさん、あのブリキ色の車、中古で処分される時には私達にも声をかけてくださいね」と申し上げたら急に黙っておしまいになり、あとから旦那に話したところ、「どうもアレはイタリア製とかで小さな家が買える位のものらしい。彼は日本にも沢庵(たくあん)色の別の形のを持ってるらしいよ」と言ってました。『お玉』にしても沢庵色の車にしても、殿方の趣味には女性には理解のし難いものがありますね。
水槽一杯の『お玉』はなかなかの見ものでした。但し、昨年は蛙になったとたんに数匹が死んでしまい、どうも呼吸の関係で丘に上がることが必要になんだろうと見当をつけ池に返しました。今年も同じ計画ですので家の中が蛙だらけになることはなさそうです。
バケツ他の卵は10日程で真ん丸だった黒い部分が“く”の字になります。そしてすぐに動き始めます。周りの“ぶよぶよ”から出始める頃を見計らい水槽に移します。暫くは『お玉』と卵の共存です。新鮮な酸素が必要なので水は毎日換えます。卵だけの時は楽ですが『お玉』と卵が共存してる頃は時間がかかります。最初の1週間は毎日3時間かけてました。段々に“ぶよぶよ”が少なくなり、1ヶ月程で完全に『お玉』だけになります。こうなると水の交換も楽になり30分内で終わります。水を捨てる時に『お玉』を網のボールで濾し取りますのでまだ小さい時は網から漏れる数も多く大変ですが、これも育つにつれて楽になります。水槽で観察して今年気付いたことは、『お玉』は小さい時に鰓と髭がある事です、そして成長するにつれてなくなります。
ギズモ(飼い猫)の硬い方の食料を分けてもらってこれを細かく砕き餌とします。去年はこれで沢山育ちましたので、銘柄こそ変わりましたが今年も同じです。餌を撒く時に旦那は“コツコツ”と水槽をノックして、「おーいエサだよーう」と声をかけます。去年も最後の頃はこれで『お玉』が水面に上がってくるようになりました。食欲は旺盛でルーペで覗き込むと大きな口を開いて塊に数匹が群がりパクついております。
さて池に残った半分ですが、天気はよかったものの気温は低い時もあり成長は家の中の連中より遅めですが、もう今は池の淵に黒々と群がっております。数日前は霜が降りそのせいか心なし数が減ったようにも見えるのが心配ですが。
画像上:お産の終わった組と真っ最中の組。横の黒いのは三角関係の組
画像中:お玉の髭 生後14日目
画像下:水槽を横から眺めると小さな水族館が広がります。生後23日目
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