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あっという間だったような、やっぱり長かったような、6年間の在タイ生活も、8月末で終了、東京へ帰って来てもうすぐ1ヶ月。しばらくは「一時帰国中」の気分が抜けなかったけれど、徐々に実感が湧いてきている。タイ暮らしの感覚を残しつつ、「ああ、タイってこうだったんだなあ」と感じられる今こそお届けする最終稿は、今のタイと、これからどうなっていくのかな、というちょっとした予測も含めて、すこーしマジメにお届けします!
□タイ人気質
十把ひとからげに「タイ人気質」とくくるのは難しいけれど、一般的な傾向として日本人と比較してみて「ここは見習いたいなぁ」と改めて思うところは、まずなんといっても「子供やお年寄りを大事にするところ」。バスや電車で小さな子供やお年寄り、妊婦さんを見かけようものなら、遠くの席から走ってきてでも席を譲るその根性は本当に頭が下がる。
以前取り上げたように、タイのバスは乗り降りが終わる前に発進する超乱暴運転だが、その車内では子供やお年寄りに非常に優しい世界が広がっている。こんだけ気を使えるなら、発車や車のメンテも乗客にやさしく、、、と思ってしまうのだが、「バス=走れればよい、着けばよい」というタイ人ならではの感覚でここは改善されないらしい。
タイ人の子供好きは筋金入りで、仕事中の一流ホテルのホテルマンだろうが、デパートの店員、レストランのウェイトレス、電車で隣に座ったおじさん等々、近くに子供がいようものなら目を細めてあやし始める。子連れだと、なんだか街中の人気者の気分になれるからすごい。「子供が熱を出したから」という理由なら、男女問わず「あら、それは大変。今日は仕事を休みなさい」といった具合だし、「子供を送り迎えするから」ということなら、これまた男女問わずに残業をパスできちゃう。これだけ子供に優しいと、高級レストランやデパートなどに行くのも気が楽だと思うし、こういう世の中の雰囲気があれば、変な政策をいっぱい打ち立てるよりよっぽど出生率があがるんじゃないかと思ってしまう。
こんなタイだからか、職場での男女雇用機会均等も進んでいる。女性で子持ちでもバリバリのキャリアはいっぱいいる。役所の高官や大学教授の男女比も、どちらが多いといったことは感じない。
それから、功罪両方あるのは「著しい柔軟性と絶妙なバランス感覚」。日本人は、一度約束したこと、一度決めたことは守り通さなくてはいけないようなところがあるけれど、タイ人は「一度決めたことを守り通す」よりも、「今この場で一番よいと思える選択をその都度していく」ことを美徳とするところがあるように思える。
例えば議会などで電車の運賃の値上げを決めたとしても、住民の大反対にあえば数週間で決定を覆したり、「期間限定で値引き」にしてみたり。まさに朝令暮改。日本人の感覚からすると、「話が違う」とか「約束を破られた」と思ってしまうが、よーく見ていると、過去の決定に縛られるよりも、今一番いい選択肢に変えたほうがいいじゃないの、といった感覚のようだ。
また、その変化についても「あちらを立てればこちらが立たず」といった状況でも結局誰も文句が言えないような絶妙なバランスに落とし所を見つけて、段々結論を変えていくといった策士なんである。この辺は、伊達にこんな欧米列強に植民地化された中で1人生き残っていないよな、と感心することしきり。
□政治情勢〜これが一番心配!
タイの行く末を考えたとき、これが一番心配。ご存知の通り、盤石と思えたタクシン政権も、陸軍のクーデターによりあえなく崩壊。その後、軍事政権下で憲法が停止され、軍政が選んだ憲法委員会(いろんな大学の学長など学識者が多い)が新憲法草案を作ったのがつい先日。その憲法の国民投票が8月19日にあり、投票率約6割、賛成が58%、反対が42%とほぼ拮抗。事実上のクーデターおよび現軍事政権への信任投票ともいえただけに、この結果はかなりショックだった模様。それでも、投票率50%、賛成50%以上を勝敗ラインにしていたので一応「信任された」ということになったようだけど、そもそも憲法をこんな賛成率でアッサリ変えてしまうことができるのもかなりタイっぽい。
そしてこの絶妙な反対の割合も、軍部に衝撃を与えつつ、政情の混乱は長引かせないタイのバランス感覚のなせる業か(本当に否決されたらそれはそれで混乱が長引きそう。新憲法のもと、選挙をして新政権を選ぶことになっていたし…)。
この新憲法の内容は、「現在の王様の次の世代の頃に大統領制でも狙ってるのか?」と思えたほどの飛ぶ鳥落とす勢いだったタクシンのような、民意に支えられた大きな権力を1人の政治家が握ることを抑える、いわば復古的なもの。上院の半数を任命制にしたり、官僚主導に戻したり、所謂「エリート政治」への復帰を促すような制度になっている。
個人的には、これまで随分都市部の中高所得層が増えて、また恩恵を蒙ってきただけに、ずーっと解決されずにいる(むしろ酷くなってきた)都市と農村の所得格差やスラム問題など、貧困対策をそろそろタイはやったらどうなのよ、と思っていたので、ばら撒きという批判はあれど、一村一品や低料金の医療制度など、所得分配的な政策は「始めたこと」に意義があると思っていた。それだけに、バンコクの同僚たち(=エリート層に近い)が、「私達の税金を、貧しい人にばら撒いてるのよ、私達にはなんの恩恵もないじゃない」とタクシン反対になびいたのを見るのは複雑な心境だった。
それでも、さすがに時代錯誤な「クーデター」での政権交代であったり、軍事政権下でのなんだか息苦しい生活であったりは、段々とこのエリート層の支持も失ってきているように思える。たいした政策もうたないまま、やれ「タイ人のニックネームはタイ語にすべきだ」と表明してみたり、「あんたら、他にやることが一杯あるだろうよ、、、」といぶかってしまうことばかり。「古きよき美しき国」だけでは国は伸びてきませんよ、と忠告してあげたくなってしまう(タイ人はみな本名以外にニックネームがあり、しばしば親しい友人間でもニックネームしか知らない場合も多い、「ノック(鳥)」とか、「ノイ(小さい)」などのタイ語のニックネームもあるが、「A」「B」「Big」などの英語のニックネームも多い)。
これから行われる選挙では、タクシンは亡命中とはいえ、旧タクシン政権下の人たちが返り咲きすると思われているし、しばらく混乱は続きそう。なんといっても、順調なタイ経済や、増加の一途だった観光業を支えてきたのは政治的安定だったと思うと、この混迷は少々不安材料。そんななかでも反対派も賛成派も、誰もが愛してやまない、プミポン国王がいるから、どうにか持っている今のタイ。その国王も今年の12月で御年80歳。人間誰しも寿命があると思うと、今後のタイの行く末を案じずにはいられなくなってしまう。
□バブル経済終焉?経済情勢
最近のタイは、昔の日本のバブル経済末期の様相を帯びている感じがする。去年の年末に開催された、一晩で100万バーツ(300万円)のディナーしかり、「ハァ?」と思ってしまう「ヘンな高級志向」が多いのだ。
一晩100万バーツのディナーでは、ミシュランスターシェフが何人もやってきて、1人のシェフが一皿を担当、一皿ごとに5大シャトーやブルゴーニュの入手困難なドメーヌのワインなどの高価なワインがあわされるとかいうもの。なんぼなんでも300万円あれば、ファーストクラスでフランスまで飛んで、3つ星レストランで食事して戻ってきたってお釣りが来るわけで、そういうのにお金を払う人がいる時点で(というか企画がある自体)、かなり末期的ではある。
どう見ても飽和状態なのに、次々と作られているコンドミニアム(中には全館ベランダにプールつきなんてのも…)もやっぱり供給過剰になってきたようで、じわじわ賃貸価格も値崩れしているらしい。ちょっといいもの、ちょっと贅沢、といった次元を超えたものがどんどん出てきていて、それでいてタイ経済を引っ張ってきた日本他の外資はクーデター以降引け気味で、ベトナムやインドなどに投資の先を移そうとしてきていたり、急激なバーツ高で縫製工場が急な廃業を余儀なくされたりと、不安な影が忍び寄っている感じがひたひたと。
昔のバーツ危機のときのようなショックがなければいいけれど。それでも、やっぱり好調だった経済のなかで、本当に質のいいものも生まれつつあるのも事実。「タイのものは安いからいい」、「品質は少々難アリだけど、かわいくて安いからいいや」だったのが、海外ブランドもビックリのものも最近巷に溢れてきた。この新しいパワーに、タイならではの柔軟性が加わって、これから来るかもしれない辛い時代を何とか乗り切ってほしいもの。
□それでもやっぱり、、、愛すべきタイ
そうこう小難しいことを書いてしまったけれど、いいところも悪いところもひっくるめて、やっぱりタイ人が、タイの街が大好き。どんなに遠い国の人たちだって何だって、ふんわり、むにゃむにゃしながら取り込んで、それでいて自分らしさをしなやかに保ち続けている限り、やっぱりこの国は人をひきつけ続けるのかもしれないなあと改めて思ってしまう。
これからもそんな場所であってほしいと思いながら、綺麗な朝日を感慨深く見つめながらの出国。「バイバイ・バンコク!元気でね!」と、きっとまた近いうちに戻ってくるであろう愛すべき街を後にした。
画像上右:高層ホテル最上階のワインバーででてくるおつまみのツリー。高所恐怖症の人には辛いくらいの絶景が広がる。こんなレストランは序の口で、タイには最近高級志向のレストランが増え続けているが、賑わっているのはどうやら一握り。
画像上左:バンコク中心部。高架鉄道BTSが走るこのカーブを取り囲むように、大型ショッピングセンターが立ち並んでいる。そのカーブの内側に見えるのはロイヤルスポーツクラブ。エリート様だけが会員になれ、会員になるには会員2名以上の推薦と会員による面接が必要という由緒正しき王立クラブ。実はこの周辺一体も王様の持つ土地らしい。
画像下右:高層ビルからの風景。右手にある建物がタイで一番高い建物。昔のバーツ危機のとき、突然冷え込んだ経済情勢で止まってしまったコンドミニアムやショッピングセンターの工事跡が最近突然工事再開となり、沢山の新しい建物が建っている。昔と同じことにならなければいいけれど。。。
画像下左:帰国の日の朝焼け。感慨深く見つめてしまいました。
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さて、そんなこんなでタイを後にするまでの6年間のうち、2003年7月からの4年と2ヶ月の間担当させていただいた、タイのエッセイも今回で終了となります。ときどき住んでいる気分になりながら読んでくださった方、「これからタイに旅行へ」「ちょっと出張へ」というときの事前予習などでたまたま読んでくださった方。少しでも旅気分や、現地の状況がわかったり、といったことにつながっていたとしたら嬉しいです。ご愛読、ありがとうございました!
毎月1回いうのは、間が空いているようでいて意外とネタに困ったこともしばしば(で、〆切破りの担当者の方泣かせ)でしたが、今、過去のエッセイをあらためて読んで見ると、タイの「イマドキ」の積み重ね、要はここ数年の「プチ歴史」であったり、自分がタイについて持っていた目線の変化などを懐かしく思いながら振り返ることができる、意外な効用も?! そんな機会に恵まれたことに感謝です。私の後任はタイで楽しみながら奮闘する頑張り屋さんの友人です。引き続きご愛読の程、よろしくお願いいたします! |