■混迷するタイの政治情勢 2006.3.27 update

1月23日にタクシン首相一族の持ち株会社の「シン・コーポレーション」の株がシンガポール政府系投資会社テマセク・ホールディングスなどに売却されたことに端を発する「首相退陣要求」が熱を増している。日本でも各紙で報道されているので、「タイへの観光は大丈夫?」等、気になっている人も多いかもしれない。「なんでそんな騒ぎになったの?」「現地の醸成は?」などについて最新事情をレポート!

さて、一連の騒動の発端は、タイ最大の財閥企業「シン・コーポレーション」のシンガポール企業への売却からはじまっている。このシン・コーポレーション、傘下には携帯電話最大手のAISや、通信衛星運営のシン・サテライト、テレビ局ITV、プロバイダー最大手CSロクスインフォ、シンガポールの金融最大手DBSグループと合弁の金融会社キャピタルOK、マレーシアの格安航空大手エアアジアと合弁の格安航空会社タイ・エアアジアなどが含まれるタイ最大の財閥企業。

首相はかねがね、自分の企業に有利なように法律改正などを行っていると批難されてきたのだけれど、売却直後、首相は「こうした批判を受けて、政治に集中できるよう、株主である子供たちが決めたこと」としたコメントを出している。もともと、現行憲法で携帯電話事業など公共性の高い事業に政府の閣僚が関わることを禁じているため、2001年の総選挙前にタクシン首相名義の株を家族名義に書き換えられており、今回はその株が売却されたのだ。

しかし、シン株の売却はタイ史上最大の企業売買だったにもかかわらず、タイ証券取引所を通じた個人取引の形を取り、シン一族は所得税の課税を免れたため、もともとくすぶっていたタクシン批判が一気に爆発! 2月の上旬からデモや反政府集会が活発に行われている。この規模の反政府運動は、流血の事態となった1992年の民主化運動以来最大規模のものとなっている。

1992年の運動は、軍部主導の政治に対する民主化勢力によるもの。この民主化運動に当時参加していた某大学の先生に聞くと、「当時の仲間がデモに一緒に行こうって誘ってくるのよ。でも、私は当時、反民主的な政府に対する戦いをしたのだけれど、今回は正当な選挙で選ばれた政権なのだから、引きずりおろすようなことは非民主的だと思う。反対するなら選挙を通して反対すべき」とのこと。彼女曰く、参加者の大半はタクシン財閥の一人勝ちを面白くないと思っている富裕層やインテリ層だとか。今回はきっと流血の事態などにはならないだろうということ。

首相も負けてはおらず、下院を解散して選挙を行い、一部のデモ勢力に屈するのではなく、国民の声を聞く、という手に出た。4月2日に選挙が予定されているが、これを反対勢力はボイコット。候補者を立てず、与党勢力のみが選挙に立候補することになった。オール与党の下院は正当性を問われることになるかもしれない。そもそも選挙資格を満たしていないとして失格になった候補者などもいて、定員に満たないことが確実視されている。

支持率は下がっているとはいえ、タクシン首相は「勝利は間違いない」と強気の姿勢を崩していない。最近は、選挙結果で50%の得票が得られないときは首相を辞任すると表明しているが、これも「そんなことはないだろう」という自信の表れなのかもしれない。

私の同僚に聞いてみると、「選挙には行くわよ。でもタイ愛国党のためじゃない。支持政党はこの中にはいない、と投票するのよ」とのこと。最近地方から続々と農民が集まってきてタクシン支持を訴える集会を開いているが、これは彼女曰く「参加すると1人500バーツもらえることになっているみたい。乾季で仕事がない農地にいるより、500バーツもらったほうがいいからきているのよ」とのこと。

多分ほんとなのだろうけど、そうはいっても、農村部はタクシン応援団が比較的多い。もともと、タクシン首相はお金持ちなので企業献金などを熱心に受ける必要もないことから、人気取り政策として貧困対策や農村開発に力を入れてきた(ばら撒きと批判されるような政策も多かったけど、これまで本腰で取り組んだ人はいなかったのでそれなりに評価されていいと思う)。農村・貧困層=タクシン派、都市・インテリ層・富裕層=反タクシン派、といったところか。選挙結果を受けてまたひと悶着ありそうな雰囲気。前回の選挙の圧勝を受け、これまで好き放題やってきたタクシン首相だけど、さてどうなることやら。

気になる治安情勢は、今のところ、反政府集会は首相府や王宮近くの広場など、デパートなどが立ち並ぶ中心部とはちょっとはなれたところで行われることが多く、あまり市内中心部で目にすることはない。とはいえ、中心部のルンピニ公園などの近くでもデモ行進が行われて、大渋滞になることも時折ある。住んでいる私の感覚では、確かにこれまでにないくらい反政府の機運はヒートアップしているけど、職場の同僚が「私達も参加する」というのは聞いたことがないし、実際に反政府集会の現場を見たわけでもないのでイマイチ現実感に乏しい。流血となった92年当時とは違って、タイもずいぶん成熟した社会になっているし、反政府勢力とタクシン派勢力の大規模な衝突による流血、バンコクが混乱、といった事態にまでは至らないんじゃないか?というのが個人的な感触。というわけで、デモ情報には注意が必要だけれど、そういったものを避けて普通に観光している分には何の影響もないのが現状。

でも、タイに限らず、色々な情勢は流動的なもの。タイ事情が良く分かるニュースサイトなども色々あるので、お出かけ前には最新情報の入手をお忘れなく!

□海外安全情報でデモ情報などについて見られるほか、主要ニュースは無料で見られる「バンコク週報」や、日本語無料情報誌の代表格「Daco」が最近はじめたニュースサイト(無料)「News Clip」などがオススメ。

画像上・中:4月2日の選挙に向けたポスター。候補者は全て与党関係者。
画像下:連日、反政府集会、タクシン支持者集会の動きを伝える紙面が続いている。


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