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5年間居ついてしまった台湾をとうとう離れることになった。縁あって原住民の方たちに日本語を教える機会があり、そこで知り合った学生さんたちにさまざまな原住民の部落を案内してもらった。2008年現在、台湾で正式に認定されているのは13民族(タイヤル・ブヌン・アミ・パイワン・ルカイ・ツォウ・サイシャット・サオ・サキザヤ・タロコ・タオ・プユマ・クヴァラン)である。
残念ながらすべての民族の部落を回ることはできなかったが、それでもかなり多くの村々を訪れることができた。一般的な台湾人の居住区域となんら変わらない部落もあれば、すっかり観光地化されてしまった部落、また山奥にあって独自の文化を色濃く残している部落もある。そういった部落に一歩足を踏み入れると、ここが台湾であることを忘れてしまうほどである。まさに”裏台湾”と呼ぶにふさわしい、中国人よりも、オランダ人よりも、日本人よりもずっと前からこの島に住んでいた先住民たちの素朴で美しい村々の風景をここに紹介して、私の台湾最後のレポートとしたいと思う。
一番印象に残っているのは、以前「ルカイ族の結婚式のレポート」でも紹介した”霧台(ウータイ)”の部落である。そのファッションからもわかるように芸術的センスがあるルカイ族の村は、部落そのものが芸術村のような美しさであった。伝統的な黒っぽい石板石といううすく平らな石を重ねて作った家や石畳の通りが独特の雰囲気をかもし出している。
特筆すべきは教会である。キリスト教長老教会と、天主教(カソリック)の教会が本来のそれとは全く異なる独特の外観・内装を持ち、ヨーロッパの童話ではなく、原住民の神話の中に出てきそうな不思議な建物である。高台に立つ長老教会へとつづく道の両側にはルカイ族伝統のトンボ玉に描かれているカラフルなデザイン(それぞれ意味がある)がペイントされた柵のようなものがあり、その道をたどっていくとその先に突如として独特な石造りのキリスト教長老教会が出現する。
天使と民族の英雄をモチーフにした彫刻が同居し、英雄が空に向かって天を指差していた。内部はちょうど改装中であったが、原木や石をふんだんに使い自然の荒々しさを感じさせるような、山深い村にふさわしい教会であった。
-文中の画像-
画像上右:霧台の石板石の村の風景
画像上左:長老教会へと続く道
画像下右:霧台の高台に立つ石造りの長老教会
画像下左:教会に立つ原住民の英雄像のシルエット
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一方、山道の途中にある天主教の教会はこぢんまりとしており、本来のカソリック教会に見られるような華美な感じは見受けられない。しかし、中をのぞいてみると、一瞬ぎょっとしてしまった。なんとルカイ族の人の形をした椅子がずらりと並んでおり、背中に荷物を背負っているのだ。その荷物袋の中には聖書が入っていた。ここまで大胆に民族色を前面に出した教会は他の国を探してもそうそう見当たらないのではないかと思った。
もう間もなく日が暮れようという頃、石板石の村にもぽつりぽつりと明かりが灯り始める。夕飯の支度であろうか水仕事をしている音が外まで聞こえてくる。庭に出てわらを編んだり、干した野菜を取り込んだりしながらのんびりおしゃべりしている村人たちがいる。
私たちが日本人だとわかると、あるルカイ族のおじいさんが出てきて「私は日本の兵隊さんと南方へ行って戦った。こんな山の中で日本人を見ることができて、あまりのうれしさに涙を流します」と言った。「漢人(中国人)は怖がって山へ入ってこようともしなかったが、日本人は強いからどんどん山の中へ入ってきて私たちを見つけて、ここに神社と警察と学校をつくった」と、案内してくれたルカイ族のおじさんが説明してくれた。
画像左:霧台の天主教教会の内部。独特の椅子がずらりと並ぶ。
画像中、右:ルカイ族を模したこの椅子、背負った袋には聖書が入っている。
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これはどこの原住民の部落へ行っても聞かされる話である。鶏や犬の鳴き声で自分たちの居場所がばれてしまったから、それからここの村では鶏や犬を飼わなくなったという。言われて見れば、この村に来てから犬を一匹も見ていない。
やがて日が落ち、石板石の村を夜の闇が包み始める。ここ台湾で、こんな静かで美しい村を発見できたことは、まるで宝物をみつけた時のような驚きと感動を与えてくれた。
現在、台湾の原住民の部落では、漢人との同化が進むことで民族の言葉や文化が急激に失われつつあることを恐れ、自分達の伝統を守り、伝えていこうという活動が盛んに行われている。家の壁に絵を描いたり、それぞれの家の表札にその家の歴史を刻んだり、特色ある部落造りに前向きな姿勢を示している。なかには伝統的に芸術を重視していない民族もあり、そのかわり祭りや年中行事などを復活させたりしている。
部落を散歩していると、子供たちが元気に走り回ったり、お年寄りたちが陽だまりでおしゃべりしていたり、酔っ払いが道で寝ていたり、それがみんな一つの部落の風景となって私たち外国人の目に映ってくる。台湾には古くからの住民のもう一つの異なる文化があることを忘れてはならないと思う。
画像左:地利の部落の壁に描かれたブヌン族の伝統や習慣
画像中:地利の小学校の壁に描かれたブヌン族伝統の絵文字
画像右上:交通事故ではありません。酔っ払って寝ているだけなんです。ツォウ族の村にて。
画像右下:結婚式の後はもう泥酔状態です。ルカイ族の村にて。
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