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今年の中秋節は9月25日。既に食傷気味の中秋恒例バーベキューの誘いを断り、清朝時代の面影を残す古い街並みが残る鹿港(ルーガン)を訪れた。日本人にも人気の観光地ということもありもう何度も訪れたことがあるこの街の“夜のそぞろ歩きがいい”との噂を聞きつけて、中秋の名月を見ながら夜の“老街”(ラオジエ・古い町並みのこと)を歩いてみたくなった。
しかし、9月の鹿港はまだまだ暑かった。ひとまずこの町の中心ともいえる天后宮(ティエンホウゴン)=航海の女神「媽祖」がまつられる廟=から街歩きを始めようかと思ったが、午後の日差しは強く汗が噴出してくる。天后宮脇に軒を連ねるオアジェン(牡蠣入りオムレツ)のお店が「ウチはクーラーが効いてるよ〜」と呼び込みをしているのにつられて吸い込まれるように店の中へ。
画像右:鹿港一の名刹、龍山寺の上に浮かぶ月。
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以前は、旅行に行けばひっきりなしにもぐもぐやっている台湾人の食欲にヒキ気味だったが、歩く前から食べるはめになるとは・・・。とはいえオアジェン(牡蠣入りオムレツ)はここ鹿港の名物料理。台湾特有の小ぶりの牡蠣を使ったこの料理は夜市の定番メニューだが、海辺の街では特に美味しいといわれている。
鹿港という地名からも分かるとおり、ここはかつて貿易港として栄えた港町であった。街で配布されているパンフレットなどを見ると1684年には史書の中に初めて「鹿仔港」という地名が確認されており、鹿港としての正式開放は1731年となっている。しかし200年ぐらい前には土砂の堆積が進み廃れてしまったという。地図を見ると鹿港は海岸にあるのかと思いきや、海からは少し内側に入ったところの福鹿渓という川のほとりに位置している。
鹿港を一歩出ると海側には養殖池が水田のように並んでおり、その向こうに埋立地の上に建てられた彰濱工業区が広がっている。こんなところで獲れる牡蠣が果たして安全かどうかは不明だが、このオアジェン以外にも蝦猴(シャーホウ・小粒のシャコ)の揚げ物や一口蟹、花枝丸(イカの揚げボール)など海産物の屋台は大人気である。
画像左:文開書院と月。
画像中:文開書院の中には提灯の明かりが。
画像右:小さな夜市の上にも中秋の名月。
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さて、少し涼んだところで街歩きを再開することにする。天后宮から伸びる中山路の路地を入るとレンガ造りの建物が軒を連らねる古市街(グースージエ)がある。20年ぐらい前から景観保護区として修復工事が進められてきたこの通りには、レトロなお土産や駄菓子を売るお店が並んでいる。
観光客向けの三輪車も大人気だ。相変わらず食べ歩きの台湾人であふれかえっている。レトロムードを出そうと頑張ってはいるものの、やはり“造りもの”感は否めない。むしろ一本脇に入った路地裏にこそ鹿港のよさがあるように感じられる。
崩れかかったレンガ造りの家の屋根には雑草が生え、ツル科の植物が花を咲かせている。レンガの壁はそのままに内装だけリフォームをして住んでいる家も多い。レンガの壁をくりぬいた中に換気扇が回っていたり、さりげなくエアコンの室外機を取り付けてあったり、不器用ながら歴史との共存を感じさせてくれる。細い路地を猛スピードで走り抜けるスクーター、遠くで聞こえる携帯電話の音、今と昔が混在する路地裏散策には時間の感覚を麻痺させてしまうような不思議な雰囲気がある。
画像左:月夜の龍山寺には参拝客が絶えない。
画像中:新祖宮の廟の前で花火で遊ぶ子ども達。
画像右:メインストリート中山路の古い街並みの上にも月が。
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さて、ここ鹿港で最も有名な路地裏といえば九曲巷(ジウジューシャン)。その名の通り蛇のようにくねくねと民家の間を縫うように走る狭い路地である。これは秋から冬にかけて海から吹きつける強風を避けるためのつくりだという。ところどころに旧式の手押しポンプが残っていて、キュッキュッと押してみると勢い良く水が噴き出す。その路地の中に歴史的な建造物が点在しているのだが、すっかりまわりに溶け込んでいてうっかりしていると見落としてしまう。
日も暮れ、ぽつりぽつりと外灯にあかりがともり始めた。街のあちこちにある小さな廟やお寺の赤い提灯にもあかりがともる。この街のあかりは決して明るくない、緑がかったおだやかな光がぼんやりとレンガ造りの路地を照らす。
やがて鹿港一の名刹として名高い木造建築の龍山寺にたどり着いた。その門の上にはまんまるい中秋の名月が浮かんでいる。月明かりの下、迷路のような路地裏を歩いていると、ここが21世紀の台湾であることをすっかり忘れてしまう。軒先でバーベキューをしている家族の姿までが、その路地の風景の一つになっている。遠くで爆竹の音が聞こえる。気が付くと、300年以上もこの街を照らし続けている月は天高く上っていた。
画像:夜の路地裏の様子。美しい壁画(画像左)や、民家(画像中・右上)、旧式の手押しポンプ(画像右下)もおだやかな外灯のあかりに照らし出されている。
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