■鬼月と中元節〜旧暦7月・鬼の門が開く時〜 2007.9.18 update

台湾では旧暦の7月は“鬼月”(グイユエ)と呼ばれ、この月だけあの世に通じる門が開かれ、この世とあの世の境がなくなり“鬼”(直訳すれば幽霊)がこの世に帰ってきてさまようと言われている。

幽霊といってもこの“鬼”の中に自分達の先祖の霊は含まれず、台湾人の説明によれば浮遊霊とか、無縁仏とか、地獄に落ちて鬼になった亡くなった人の霊に相当するようで、一般的に“好兄弟”(ハオションディー)、いい兄弟、ヘイ・ブラザーと親しみをこめた名前で呼ばれている。

台湾に来てからは毎年この時期になると、周りの人たち(特に年配の人たち)がさかんに「鬼の門が開いた」、「鬼月が来た」と口々に言うので、外国人の私でさえ何となくそこら中に好兄弟がウロウロしているような気がしてちょっと気味が悪い。ちなみに今年の鬼月7月1日(鬼門開)は新暦の8月13日にあたり、デパートの開店の時みたいに、開かれた門からワーッと好兄弟が押し寄せてくるわけだ。

とにかく一歩外に出れば、久しぶりにこの世に帰ってきた兄弟達が 1ヶ月もの間徘徊しているわけだから、この世の人はおとなしく家にいた方がいいと考えるのは当然のことである。ちょうど夏休みで日本なら旅行のハイシーズンになるこの時期も、台湾では鬼月に入ったとたん国内・海外旅行料金が一気に値下がる。旅行会社の倒産が相次ぐのもこの時期の特徴である。

また、お祝い事や新しいことを始めるのも鬼月は避けたほうがいいとされ、さきほど挙げた旅行の他、結婚式、開業、開店、転職、家の購入、引越しなどもタブーというわけだ。さらに鬼は水辺に集まるといわれることから海や川へ出かけてはいけないとか、夜遊びして深夜に帰宅するとか、山に登るのもよくないという話も良く聞く。

先日、日本人のお客様をお墓参りのために墓地に案内することになった。日本ならお盆の墓地はにぎやかになるが、台湾の墓地はというと、草ぼうぼうですっかり荒れ果て、見事にひとっ子一人いない。鬼月の墓地には兄弟達が多いとかで台湾人は怖がってお墓へ近づかないのだ。

しかし鬼を避けてばかりというわけではない。台湾では基隆や新竹などの廟で“中元祭”とよばれるお祭りが行われる。また帰ってくる好兄弟たちを迎え、もてなし、慰めるために台湾人みんなが総出で“拝拝”(拝むこと)を行う。それは旧暦7月1日と15日に行われる。

特に大規模な“拝拝”が行われるのは15日の中元節である。この日、ファーストフードやコンビニなどのチェーン店以外の一般的なお店はほとんど休みになるので注意しなければならない。この中元節のために休みになる会社もあるほどだ。

中元節の一週間ぐらい前からスーパーや市場ではお供え物コーナーが設けられ中元節セールとなる。“金紙”と呼ばれるあの世で使えるお金を模した紙やお線香などのセットも売り出される。

先祖と神様を拝むのは午前、好兄弟を拝むのは午後と決まっており、中元節の午後になると台湾人の家の軒先がにぎわってくる。 “拝拝”用の四角いテーブルが出され、その上に大量のお供え物(カップラーメン、スナック菓子、缶詰、ジュースなど)や家庭料理(ご飯、肉、魚、卵、スープなど)、果物などが次々に並べられる。

果物には中元節用に適さないものがあり、以前にも紹介した幸運やお客を呼ぶとよばれるパイナップルやお釈迦様の頭に似たシャカトウは×。“招?来”(相手を招き入れる)という言い方の発音と同音の果物、“招”と同じ香“蕉”(バナナ) 、“?”(台湾語でリー)と同じ“梨”(なし)や“李”子(すもも)もダメらしいが、最近はそういったタブーもあまり気にしなくなったという。

またテーブルの前には金紙を焼くためのバケツ大の小型ドラム缶が用意される。他に水をはった洗面器やバケツまで置いてあるので消火用かと思いきや、よく見るとタオルや歯ブラシまである。これも兄弟が顔を洗ったり歯を磨いたりするためらしい。なんとも気が利いている。

この“拝拝”は店先でも市場でもマンションや会社の玄関前でも行われる(但し、キリスト教など他宗教の関連施設やクリスチャンの家庭を除く)。だいたい午後2時ごろから、住宅街の各家や、商店街の店舗前にお供え物を山盛りにしたテーブルがずらりと並び “拝拝”が始まる。みんなテーブルに向かい長いお香を持ち拝み始め、そのお香をすべてのお供え物にブスッブスッと刺していく。それが終わると金紙を焼き始める。

一番のピークは3時から5時ごろである。燃やされた金紙の燃えカスが風に舞い、町中が煙で白くなり、お線香の匂いに包まれる。鬼月はあと半月。たらふく食べて、少しお小遣いをもらって、身だしなみを整えた兄弟たちは、あと半月この世を元気にさまよい続けるに違いない。台湾の“鬼”は幸せかも!?

画像1段目右:一般的な住宅の軒先に用意された“拝拝”テーブルと洗面器&タオル。
画像1段目左 :お供え物にはひとつひとつ長いお香を刺します。
画像2段目右:住宅街の中元節の様子。どこの家の前にもテーブルがだされています。
画像2段目左:商店街の中元節の様子。お店の前にもテーブルが。
画像3段目右 :家の前で金紙を焼く様子(中元節)
画像3段目左 :マンションや集合住宅の前では合同で“拝拝”が行われる。焼く金紙も大量だ。
画像4段目右 :マンションの前では金紙をバサーッ。焼き方も大胆です。
画像4段目左 :市場の中元節の様子。ここでも合同で“拝拝”が行われる。
画像5段目右 :マンションの前に並べられたテーブルの上にはお供え物がいっぱい。

【短信】8月20日に沖縄那覇空港で起きた中華航空機炎上。日本では「またか」という声も大きかったと思います。幸いにして死傷者はでなかったものの、それをいいことに乗組員らは台湾に帰国すると“英雄”として迎えられました。記者会見では乗組員たちが満面の笑顔で互いに抱き合い、おしゃべりするなど日本では考えられない光景が・・・・。台湾でも日本の「不二家」のお菓子や、“白い恋人(石屋製菓)”の賞味期限改ざんのニュースが流れましたが、台湾人に言わせれば「こんなの台湾ではたいしたことない」のだそうです(苦笑)。台湾の“企業の倫理”っていったい・・・・。(9/3)


<<もどる