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“春茶上市”(春茶入りました、とでも訳すべきか)」の文字に誘われて、今年もお茶を買いに路線バスに揺られやって来たのは南投県鹿谷(ルーグー)郷。台湾烏龍茶の産地としてはあまりにも有名な所である。それはここ鹿谷に台湾茶の最高峰とうたわれる「凍頂烏龍茶」(最近日本では花粉症に効果があるといわれているそうだが)の名前の由来にもなっている凍頂山があるからなのだ。
鹿谷のメインストリート沿いにはお茶屋さんがずらりと並んでいるが、“凍頂”の文字を掲げている看板も多い。実は春茶を買うなら4月中がベストなのだが、今年はすっかり出遅れてしまい、心なしか通りを歩く人もまばら・・・しかし気を取り直して、今年もまた凍頂山に登ってみることにする。
“凍頂”という名前の響きからすると恐ろしく険しい山を想像してしまうが、実際は鹿谷のメインストリートの信号の所にでている「凍頂山」の小さな看板を目印にセブンイレブンの角を曲がって、てくてく歩いて登れる程度の気軽な山なのだ。なんてったって海抜743m、全然高くないのだが、この山にはよく霧がかかり、気温が常に25℃程度に保たれているという。そのような気候の条件に加え、この山の赤く粘り気のある土がお茶の木の栽培に適しており、極上の烏龍茶を作り上げるのだそうだ。
しかし、気温25℃はお茶にとって最適でも、私のようなぐうたら日本人の山登りにとってはキツイ。しかも山頂まで歩くと1時間ぐらいはかかるし、あっという間に汗まみれ。とはいっても南国のギラギラした太陽の下、斜面に果てしなく広がる茶畑と熱帯の樹木の眺めはすばらしい。
凍頂山の山頂には、茶畑の他にお茶農家やお茶問屋が軒を連ねるちょっとした集落がある。中には昔ながらの三合院造りの家もあり、歴史を感じさせる。その集落の中にある「山記茶舎」を訪ねてみた。もちろん今年の春茶を試飲させていただくため! 老板(ラオパン=店のご主人のこと)の林富山さんはお茶作りの他、この店と向かいのガラス張りのおしゃれな茶藝館「凍頂山居」(中国風のインテリアが素敵!民宿もある)も同時に経営している。
林老板の話では、ここ凍頂山には“林”と“蘇”の二つの姓の家しかないらしい。かつて林鳳池さんという人が福建省から持ち帰った青心烏龍茶の苗をここに植えたのが「凍頂烏龍茶」の始まりであり、その後、林さんや蘇さん達が代々ここでお茶を作り続けているわけだ。さて、ここで老板自ら入れてくださる今年の春茶をいただきながら「凍頂烏龍茶」のお話を聞く・・・なんとも贅沢。
「凍頂烏龍茶」の特徴はなんと言っても“回甘”この一言に尽きると老板は言う。最初の一口を口に含んだときは一瞬苦味を感じるが、お茶が喉を通って胃にたどり着くと甘い香りとなって体内を巡り、もと来た道(食道から喉)を駆け上る。そして最後にフウッと鼻から抜ける甘さ、これが“回甘”。またその香りが長く続くたとえとして、「山頂で飲んだこのお茶の香りは、山のふもとまで下りて行ってもまだ鼻に残っている」と表現することもあるらしい。まるで詩人のような語り口の老板・・・この林氏、やっぱりタダモノではなかった!
話の途中で老板はふと立ち上がると、おもむろに店先に置かれている古ぼけた大きな壷から黒っぽいものを取り出した。「これが黒金茶です。これを作っているのはうちだけなんですよ」といって茶皿に取り、さっきの春茶の皿の横に並べた。そのつややかな光沢のある黒い茶葉は甘く香ばしいかおりがする。この「黒金茶」はいわゆる15年ものの陳年烏龍茶。この店オリジナルのこのお茶は、老板が15年間毎年一回ずつ独自の方法でていねいに焙煎を繰り返してできた貴重品で、この製法で作った陳年烏龍茶は台湾唯一で、新聞や雑誌に取り上げられたこともあるそうだ。
すごいお茶に出会ってしまった(ちなみに30年ものの「烏金茶」もあるそう。しかしこれにはお目にかかれず)。水色はかなり濃く、一口目も炭焼きコーヒーのような味。なのに、口に含んでから体全体に広がるような深い味わいはまるで熟成したワインのよう! でも後味は烏龍茶らしくスッキリしている。老板いわく、いくら飲んでも胃がもたれず、茶壷(きゅうす)の中にお湯を注いでしばらく置いても味が変化しないのは、上質の茶葉である証拠らしい・・・参りました! このお茶、やみつきになりそう。
午後の強い日差しの中、黒金茶でほろ酔い気分になりながら山を下りる。来年の春茶の季節が楽しみだ。
-文中の画像-
画像右上:“春茶上市”の幟(のぼり)
画像左上:凍頂山入り口の看板
画像左下:凍頂山からの眺め
画像右下:カメラ目線の老板・林富山さん
画像左:山頂に広がる茶畑
画像中:今年の春茶(左)と黒金茶(右)
画像右:老板に入れてもらった黒金茶
【短信】台湾の今年の春茶はとっても高いです。というのも去年の冬、台湾では100年に一度といわれるほどの寒波にみまわれ、台湾各地の茶畑が雪や霜の被害に遭い、新芽がずいぶんやられてしまい、この春お茶があまりとれなかったからだそうです。(5/31)
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