■パニエーレ(籠) 2004.10.4 update

古いイタリア映画の中で、建物の上階から吊らされて降りてくる籠(かご)を見たことはないでしょうか? 私が20年近く前に観た映画のワンシーンは以下のようなものでした……

リヤカーを引いた流しの魚屋さんが住宅街の中で止まって、「今日も来たよ〜!、新鮮な魚〜!、どうだい〜奥さん方〜!」と喉をならして叫び歌うと、周辺の住宅からいくつも籠が降りてくる。籠の中には魚の名前を書いた紙とお金が入っているようで、流しの魚屋さんは、次々と籠の中を調べ、指定された魚を入れてはお金を取って…の繰り返し。魚を入れてもらった籠はスルスルと登っていって、それが全部なくなると、魚屋さんはまた他の場所へ移動する……。映画のストーリーには関係ないシーンだったのですが、その面白い籠利用法に驚いた記憶があります。でも、それから10年近くたって、実際に私も同じ籠を持つことになるとは、その時は想像もしていませんでした。

イタリア全土で籠の風習が残っているわけではありません。私は一番はじめにミラノに住み、それからナポリに移り、最終的にはナポリ市外の小さな町に居を定めましたが、郊外の小さな町に来て、初めて『籠』との対面をしました。今の夫と婚約をした時に、この町に移り住んだのですが、その時に今の義母が「ここで暮らしていくには、役に立つ物だから」と、私にプレゼントしてくれたのです。

そして籠に結びつける紐を一緒に買いに行きました。義母が「彼女は5階に住んでいるから、その分の紐をちょうだいね」と店主に言うと、「はいよ〜!」ってな感じですぐに長さを測ってくれました。階数を聞いただけで長さも分かるんですね。そして籠に結びつけ、私のナポリ郊外生活のための紐付き籠が誕生しました。

さすがに現代社会では、いくらナポリ郊外の小さな町とはいえ、流しの魚屋さんが籠方式の商売をしに町を徘徊することはなくなりましたが、それでも籠を持っている家庭は多いです。先ほども義母が「アキ、パニエーレ(籠)下ろしてくれる?、産みたて卵を分けてもらったから、あなたにもあげるわ!」と我が家のインターフォンを押して言いました。籠がなければ、義母はわざわざ5階の我が家に来なくてはならなかったのですが、籠があれば下で待っているだけでOK!

忘れ物をした時も活躍します。お客様が階下に降りていって、その時に忘れ物に気付く…でも籠があれば下ろすだけで、すぐに渡せます。私の主人は忘れ物が多いのですが、忙しい朝に忘れ物を取りにわざわざ再度二重のマンションロックをはずして、5階の我が家に戻る必要もありません。2階に住む一家はゴミ出し用の籠も持っています。臭いの出る生ゴミを持って階段を下りるのではなく、籠に入れておき、外でゴミ袋を取って捨てるという利用法です。

そうそう、一人暮らしのお年寄りには昔の活用法も生きています。足腰の弱ったお婆ちゃんやお爺ちゃんには、たった1階でも階段の上り下りはたいへんなこと。それにナポリのお年寄りには、エレベーターが恐くて乗れないという人が多いので(私の義母もそうです)、外出がなかなか出来ないのですが、そんな時、懇意にしている近所のお店に電話して、商品を持ってきてもらい、籠に入れてもらって……という使い方もちゃんと健在なんですよ。

籠なんて、なくてもいい物かもしれません。でもちょっとした時に、その便利さをしみじみ感じますし、何しろ、ここに住む人たちの知恵で生まれ、ずっと受け継がれてきた籠の利用法……大切に使って、毎日の生活に活用し、異国人の私も、この小さな風習を残していくようにしたいと思っています。

画像右上:これが我が家のパニエーレ(籠)。もう10年以上経っているので年期が入っていますが、まだまだ使います!
画像左上、右下:籠を下ろす私の義母。彼女の籠は、2-30年は経っている物です。
画像左下:我が家は5階なので籠の上下もたいへんですが、慣れれば楽しい! 私もすっかり紐さばきが上手くなりました。画像は主人が下げている所です。


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