■シンドローム 〜巨大さにいざなわれて〜 2004.6.7 update

イタリアでの旅で美術品を観賞中、突如ショック状態に陥り、病院に担ぎこまれる人が毎年、後を絶たない。フィレンツェを発祥とする原因不明のこの症候群は、1817年、仏の文豪・スタンダールが突然の眩暈から失神したことから、スタンダール・シンドロームと命名された。スタンダールはこの時、フィレンツェの教会で壮麗なるフレスコ画の前にいたと言う。

この症候群、原因はいまだに明確に解明されていない。今もフィレンツェを訪れる観光客の一部が、突然の呼吸困難、眩暈、失神などに襲われている。一説に、フィレンツェには美しいが巨大な建造物、美術品が多いために、それらに魅了された旅行者が長時間顔を上げて見続け、その姿勢が災いして首の血管が圧迫され、眩暈や吐き気、失神を起こすとも言われている。そうしたシンドロームはとりわけフィレンツェが有名なのだが、イタリアでは巨大で人を圧倒する美術品が様々な都市において横溢しているので、ローマやミラノ、その他の都市でも同様のことが発生している。

ただ観光都市であるフィレンツェには、見上げ続けてしまうほどの新鮮味を各種のオブジェに抱いてしまうツーリストが多く訪れるので、病院行きの人数もぐっと増すのかもしれない(このことから察せられると思うが、生粋のイタリア人は生まれたときから美術品に囲まれていて、それらは空気のような存在なので、シンドロームには罹患することはまずないようだ)。

フィレンツェを訪れる観光客の3割近くは西ヨーロッパからの人々で、そのうち6割以上がこの症候群を自覚しているとの統計結果も出されている。その割合は他の地域からのツーリストの場合に比べて断然高いとのことだ。西ヨーロッパ人に限って発症率が高いとなると、美術鑑賞の際の姿勢というのは果たして関係するのかどうか少々怪しくはある。

いずれにしろイタリアには、見上げるほどの美術品がおびただしいまでにあることは確か。古代からの遺物には、いい加減にしたらと思うほどの大きさのものもある。足だけで、顔だけでなんでこんなに大きいの?と問いかけたくなる。そしてその量も半端でない。

私自身、スタンダール・シンドロームとはいかないまでも、はじめて訪れたフィレンツェのサンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂、ミラノのドゥオーモ、ローマのコロッセオを眼前にして鼻血が出てしまった。その圧倒的なまでの大きさに幻惑され、時に視界が白くかすみ、意識が遠のく気持ちもわからなくもない。

アジアの人間はあまりこのシンドロームには襲われないようだが、美術ファンの皆さんは油断禁物。イタリアには美の魔物、フィレンツェにはルネッサンスの魔物が潜んでいるので。呆然と巨大建造物、美術品を仰ぐ時、ふとスタンダール氏のことを思い起こしていただければ。

画像上:足の小指もかくのごとくデカイ・・・(ローマ)
画像中:街中のディスプレイの大きさに驚くのは、旅行者ばかり(ローマ)
画像下:人型の柱はなぜこんなにも大きいの?(シチリア) 足下の人間と、その大きさを比べてみてください。


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