■格調高き本屋さん 2002.10.7 update

イタリア語を勉強するならマンガを買って読むのが最適だと、昔NHKのイタリア語講座できいたことがあった。言語の取得というのは、なるほど言葉だけに頼るものではない。目の前で母親が怒った顔で「うるさい」と怒鳴れば、その顔つきとともに「うるさい」の意を子どもは習得していく。それと同じでマンガのキャラたちの表情、アクションが図示されて、吹き出しにイタリア語があれば類推がきく。確かに覚えやすいはず。その話を聞いてしまったのでローマに行った折、本屋さんに入ってマンガを探し求めることとなった。

店内を歩き回った。しかしマンガはどこにもない。いや、それどころか雑誌さえも見当たらなかった。そうこうするうちに店員が近づいてきて「サルベ!(こんにちは)」と挨拶してくる。しかし特に何のマンガを探している訳でもなかったし、説明するにもうまく喋れないので、日本人の悪い癖でつい笑ってごまかしてしまった。

帰国後、友人からきいたところによると、イタリアでは本屋は本を扱うところで、雑誌やマンガは街中でよく見かけるイタリア版キオスクの「エディーコラ」で買うのが普通らしい。翌年、リベンジの意味でエディーコラをのぞくと、あれほど本屋では探してなかったマンガ、雑誌が山のようにある。マンガという言葉はイタリアでは立派に外来語として生きているので、私がドナルドダックを主人公にしたマンガを買い求めると、エディーコラのおにいさんは「マンガ」、「ジャポネーゼ(日本の)」となんか言ってポケモンのマンガをごそごそと出してきてくれた。非常にうれしかった。
売らんがためにマンガ、雑誌中心の品揃えをしている日本の本屋と違って、「本は本 屋」と明確に位置づけているイタリアは何とも理念のある国だ。

イタリアでは大手出版社、たとえばガルザンティ、リッツォーリ、モンダドーリなどの直営書店を多数存在するが、日本には見られないそうした流通形態にもまた、文化を送り出す出版社が読み手に渡すところまで責任を持つという、本への愛情、ひいては誇りさえ感じてしまうのである。今思い出すに、あの時ローマの本屋の店員がチャオ、ブォン・ジョルノといったごく一般的な挨拶をするのでなく、めったと聞かれない、ちょっとハイカラな「サルベ」で声掛けしてきたのも同じ根っこのものかもしれない。そう、イタリアでは、本屋は格調高き「場」なのである。

とは言え、かたいだけがイタリアの書店ではない。今でこそ日本でも一部の大手書店が導入しはじめたことだが、イタリアの書店は昔から椅子に座ってゆっくりと売り物である本を紐解ける椅子やソファが顧客に提供されていることが多い。また最近では、パソコンの普及から各種ソフトウェアを店頭に並べ始める書店も増えてきている。

イタリア人は日本人ほどには本を読まないと言われる。が、図書の刊行数は1996年の統計で日本が約5万6000冊のところ、イタリアは約3万5000冊。人口の差を考えれば決して引け目をとらない数値である。

画像上:街中のエディーコラ(イタリア版キオスク)
画像下:イタリアのマンガ本(右端はポケモン)


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