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ドイツで日本文化、特に食文化の紹介をしていると、今、追い風がそよ風ほどに吹いていると感じる時があります。今ドイツでは、寿司がブームとなっています。健康食、ロー・カロリー食として人気を得ており、街中にある回転寿司は、おしゃれなスポットとして、インテリがちょっと構えた食事をする場所になっています。
20年前なら、生の魚をそのまま食べるなどという恐ろしいことは、よっぽどの変わり者でない限りとびついてくるものではなく、日本料理でドイツ人や外人をもてなす時は、日本通や異国の文化に順応性のある人の場合を除いては、刺身や寿司はせいぜい彼らに馴染みのある鮭ぐらいにとどめて置いたものです。
だいたい、刺身にできるような新鮮な魚は、ドイツの内陸部ではおよそ手に入りませんでしたし、日本から冷凍でドイツまで送られてくるマグロはびっくりするような値段で、若かった私達がそうふんだんに使えるような食材でもありませんでした。そう、あの頃は納豆も冷凍で送られてきており、一パックが1000円ぐらいに相当し、子供が風邪を引いた時とか特別な時でないと食卓にのぼらない貴重品でした。
話は元に戻りますが、日本の文化は世界に誇ることのできる奥深さや説得力を持っており、食文化はその根っこにあります。誇りを持って外国の人に紹介できる歴史と文化を有する日本に生まれてよかったとつくづく感じます。
料理教室の対象は、大学生や高校生の若い人たちです。和食や寿司がいかにブームをよんでいるといっても、実際はインテリや金持ちが支えているのが現状です。ちなみに、料理教室で参加者のギムナジウムの学生に聞いてみると、50人中和食を食べたことがあるというのは、3〜4人で、そのうち何人かによくよく聞いてみると酢豚だったり炒飯だったりということもあります。国際婦人協会などのようなその土地の名士夫人が対象のこともありますが、そういう人たちの間では、料理という形を通じて、美と美味の追及に真摯である日本人としての姿、食文化を支えてきた歴史を見てもらおうとしています。
講習会で披露するのは、刺身、寿司、味噌汁などです。寿司飯、鯛一尾、寿司のネタ、海苔や醤油、昆布、鰹節、飾りの笹の葉、大ぶりのまな板皿などを持参します。フランクフルトの空港が近いという地の利、ドイツの食生活の多様化、流通機構の発達などのお蔭で、前夜に獲れたと思われる活きのいい鯛、スズキ、鮭、鰯などが地中海、大西洋、北海などからも集まって来ています。
料理講習会は、ピカピカに研ぎ澄まされて刀のような日本包丁で、魚を丸一匹おろすところから始めます。焼き締めの大きな俎板皿に、大根のつまの上に鯛のおかしらがあり、刺身で飾られるのを見つめる高校性ははっと息をのんでいます。大根をかつらむきにしてトントンと繊細なつまに仕立てたり、人参でワサビ舟を作ったりして和包丁の切れ味や日本人料理人の腕の冴えを見せるのも楽しいです。
刺身ができあがったら、それを使って巻寿司や握りを作ります。手巻き寿司も披露して、ドイツ人も簡単に自宅で楽しめるように、その場で何人かに前に出て来てもらって自分で巻いてもらいます。もちろんその場での試食付きです。実際に生の魚を初めて食べるという人が殆どなのですが、寿司がこれだけ受け入れられているのは、エキゾティズムだけではなく、彼らにとって全く異質の寿司の美味しさに目覚めたということです。
15才の少年少女がある日学校にやってきた日本人の作った寿司を食べたその記憶が、30年後には、どんな思い出として残るでしょう。味の記憶というものは、脳の一番奥に沁みついて残り、そして簡単には忘れ得ないものだとおもいます。その時の人や空気までも一緒に。
画像上:ギムナジウムで行われた料理教室の様子です。テレビの取材が入りました。
画像中:はっと息をのんで見つめている女子学生です。
画像下:黒塗りのお盆に刺身を飾り付けました。
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