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子供の頃に読んだヨーロッパの物語で、寒い冬を戸外で震えながら過ごしているかわいそうな女の子の話が頭に残っていませんか。貧しい家の女の子は凍えながら、窓越しに暖かい部屋の中で鵞鳥の丸焼きを家族で食べているのを垣間見るというシーンで、絵本だったので挿絵もついており、大きなお皿の上に丸焼きが美しく飾り付けられていました。ヨーロッパで暮らすと、身を突き刺すような冬の厳しい寒さや、闇の中に灯るあかりの暖かさがしみじみと実感出来ます。
ドイツでは、家族や友人が集まるクリスマスや新年では、鵞鳥の丸焼きがご馳走の主役を張ります。昨今、ドイツでは料理を自宅で作る人が減って来ており、このように手間の掛かる料理を作る家も少なくなりましたが、子供や孫が久し振りに帰って来るクリスマスには、自宅で手造りをするおばあちゃまもまだ健在です。作り方はそれほど複雑ではありませんが、手間と愛情がスパイスです。オーブンで2〜3時間ほど掛けてじっくり焼き上げます。付け合わせは、紫キャベツを煮込んだものとジャガイモ団子です。栗のピュレを添えるとちょっと豪華な感じもします。沢山の人数で頂く時には、鵞鳥のお腹にパン粉、内臓や干しぶどう等の詰めものをしたり、丸のままの焼きリンゴを添えるとボリュームたっぷりになります。
このような伝統食ですが、自然の理に叶った料理でもあります。冬の寒さを乗り切るには、人間も体に脂肪を蓄える必要があります。その点,秋の実りをしっかり体に蓄えた鵞鳥は脂も乗って食べ頃になっています。冬になると家畜用の飼料も乏しくなるので本格的な冬が来る前に屠殺するのは、牧畜民族にとっては至極当然のことです。
聖マルティンは鵞鳥飼いの守護聖人とされており、これにまつわる伝説が残されています。4世紀ローマ属州パンノニア生まれのローマ軍兵士だったマルティンが、半裸の物乞いに自分の着ていたマントの半分を切って与えた行為により神から祝福されました(声は言った『おまえは私の身内のいちばん末の者に慈悲深かった』)。聖人としての名が高く司教になって欲しいと乞われたものの、時のローマ皇帝の使いを拒んで鵞鳥小屋に隠れていたのを鵞鳥が騒ぎ立てたため見つかり、とうとうツール司教になる羽目となりました。以来聖マルティンの日には、こらしめに鵞鳥をつかまえて食べるようになったのです。11月11日は鵞鳥にとって受難の日です。
さて、私も冬になると大好きな鵞鳥の料理を食べに行きます。焼き汁から作ったソースがとろっと掛かっていて、大きなジャガイモ団子もついているので、お腹いっぱいになります。ドイツ語でdeftigというと重くてしっかりしていてお腹にたまるという意味ですが、この言葉は元来ドイツ人にとっては美味しいと同意義でした。生活様式とともに食に対する嗜好も少しずつ変わってきて、このような伝統的な重たい料理がだんだん街のレストランから消えてきて、ヌーベルクイジーヌがドイツ料理にも進出してきましたが,ドイツ料理の本領はやっぱりなんといってもどっしりと重たい料理です。さて、満腹したあとは完全防備して腹ごなしに冬の森を散歩に出掛けましょう。
画像右上:ベルリンのグルーネヴァルトにあるレストラン「ヴァルトハウス(森の家)」
画像左上:ヴァルトハウスの“ペット”の鵞鳥。生後4年も経つので、食べても美味しくありません。
画像右下:鵞鳥のもも焼き
画像左下:冬の情景:氷の張ったベルリンのシュラハテン湖と水鳥
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