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私がその場所を訪れたのは、長年連れ添った猫が突然、逝ってしまったからでした。昨年暮れから体調を崩し、病院で「癌の可能性もあるから手術をした方がいい」と言われていました。しかし、人間で言えば75歳を過ぎたおばあちゃん猫。私は手術を拒否して、家で余生をゆっくりと過ごしてもらおうと決めていました。だから、覚悟ができていなかったわけではないのです。
それでも突然、その日はやってきました。ベッドから落ちて動けなくなっている彼女を病院につれていくと、容体はあまりにも悪く、安楽死まで迫られました。が、一晩がんばった彼女は翌朝、自分の力で立ち上がり、食事も摂っていました。これには先生も驚いて、「この調子なら退院できるかもしれない」と言っていた矢先、力尽きました。14歳と半年でした。
マンハッタンから車で北に1時間弱。ハーツデイルという街にThe Hartsdale Pet Cemeteryはあります。私の目的はここで彼女を火葬し、お骨を家に持って帰ることでした。でも、慌ててネットで調べて見つけた場所。いまいちシステムが理解できません。しかも、電話をかけたときの私は完全なパニック状態です。担当の女性は、「お悔やみ申し上げます」と言ってから、混乱した私が次々と繰り出す質問に丁寧に応えてくれました。これで少し落ち着きを取り戻しました。
自宅でお通夜を済ませ、翌朝9時半にThe Hartsdale Pet Cemeteryに着きました。その古めかしい門に「1896」とあります。ここで初めて気付きました。この墓地はなんと1896年からこの地にあるのです。門をくぐって、今度は驚きました。変な話ですが、その風景があまりにも美しかったからです。小高い丘。年輪を重ねた木々。手入れの行き届いた真っ青な芝生。無数の小さな墓石の前に、職員の人たちがせっせとベコニアの花を植えています。
火葬場はその丘を少し上ったところにありました。ドアを開けると一人の女性が笑顔で迎えてくれました。「私が電話でお話をしたロレインです。お待ちしていましたよ」。火葬に1時間ほどかかるとのことで、最期のお別れをした後、私は墓地のなかを歩きました。1907年に亡くなった猫ちゃんの墓石、何匹ものペットと共に眠る飼い主の墓石のほか、犬小屋の形をしたもの、驚くほど大きなもの、写真入りのもの、日本語が刻まれたものなど、そのひとつひとつから飼い主の想いがじわじわと伝わってきます。墓石に少しスペースを残しているものもかなりありました。必ずや来るその日のために準備をしているのです。ひととき、それらに刻まれたペットたちの名前や亡くなった年月、飼い主が贈った言葉や詩に、私はまちがいなく癒されていました。こんなにもたくさんの、愛して、愛された飼い主とペットたちがいたんだなと想像するだけで安らぐのです。
そもそもここはニューヨーク市の獣医、ドクター・ジョンソンのリンゴ園だったそうです。1896年のある日、亡くなった犬の埋葬場所がなくて困っているという女性からの電話を受けたドクターが、ここに彼女の犬を埋葬したことから始まりました。第一次世界大戦後に墓石数もかなり増え、以来このアメリカ初のペット墓地は、最もクオリティの高いサービスを提供する場所として知られているそうです。
ペットの死は家族を亡くすのと同じこと。だからこそ最期はきちんと見送りたいと思うのは当然のことです。そんななか、心から感動したのはここアメリカにはこんなに温かくて素敵な場所がすでに100年以上も前に完成していて、いまもきちんと管理され、さらには、歴史に裏付けられた繊細なケアで少しでも飼い主の悲しみを和らげようとしていることです。確かにお骨は最後のひとつまできれいに缶に入れてくれ、思い出話をし、ここで火葬をしたという証明書ももらった私は、本当にいいところに来た、いや、連れてきてもらったと感じていました。
現在、The Hartsdale Pet Cemeteryには犬や猫のほか、鳥、ウサギ、ライオンなど約7万のペットたちが眠っています。みんな天国で幸せに暮らしていて、きっと新入りの私の猫も楽しくやっているはずです。そんな気持ちになれたのもここを訪れたから。感謝の気持ちで一杯です。合掌。
The Hartsdale Pet Cemetery:http://www.petcem.com
画像上:歴史を感じさせる門がまえ。広大な敷地がこの奥に広がります。
画像下:第一次世界大戦を戦った犬たちの勇気を讃えて建立されたこの記念碑は、この墓地の象徴です。
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