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オーストリア ウィーン「ブルンネンマルクト」
![]() ■1147年に建てられた、シュテファン寺院 オーストリア共和国。雄大な自然と、中世ヨーロッパの輝かしき歴史を誇る国です。国土の大半がアルプス山系に属し、スイスと並ぶ典型的な山国です。1270年 にハプスブルク家ルドルフ公がオーストリア王権確立、第一次世界大戦敗北によりハプスブルク帝国崩壊(1918年 ) 、ナチス・ドイツによる併合(1938〜45年 )、1955年に独立回復、1995年にEU加盟、という歴史を持ちます。成田空港からウィーンへの直行便があり、所要時間は12時間ほど。この国の通貨はユーロ、1ユーロが約154円(2006年9月現在)。このところ、ユーロは高く、正直、ヨーロッパへの旅行者には辛い状況です。 オーストリアの首都ウィーン。ドナウのほとりに広がる森の都。東京都と同じように、23の区からなる、ヨーロッパを代表する国際都市のひとつです。人口は約160万人。空高くそびえる、ゴシック様式のシュテファン寺院。かつてこの街に、世界の中心があったことを今に伝える建物です。ハプスブルク家の繁栄とともに栄えたこの街は、ヨーロッパの建築、音楽、芸術の最先端の街でした。シュテファン寺院から続くグラーベン通り。ブティックやカフェが建ち並ぶ人気の通りです。世界中からやってくる観光客の様々なことばが交わされます。 この街を訪れた人が必ず向かうのが、王宮。600年以上に渡りヨーロッパを統治し、「日没なき大帝国」と呼ばれた、ハプスブルク家の皇帝が住んだ宮殿。栄華のときを築いた、女帝マリア・テレジアの像。マリー・アントワネットの母としても有名。ウィーンの市庁舎。この街では公共の建物でさえ、歴史を感じさせます。そして、音楽の都を代表するのが、ウィーン国立オペラ座です。 ![]() ■6区から17区につながるブルンネンマルクト めざした市場は、このウィーンの下町にありました。6区から17区につながる大きな市場、ブルンネンマルクト。3ブロックを貫く通り約500メートルにスタンド形式の店舗が約170。1830年代からこの通りで売り買いがはじまり、1973年に正式に市場として認められました。昔から各国と交流が深かったこの街らしく、いろんな国の人たちが集い、はじまった市場は、今ではトルコ系の人たちが多くみられ、トルコ人市場とも呼ばれています。売り場にはトルコの食材やオーストリアの食材が混在し、それらの商品を求めて多くの地域住民が訪れます。 ![]() ■トルコメロン 歩いていて、美味しそうなパンに目が止まりました。フルーツが載っているものや、クリームたっぷりなもの、どれも甘くて美味しそうです。「オーストリア人は小麦粉を使ったものが好きよ。ケーキやタルトなどの甘いものは皆よく食べるわ。ここでもたくさん売っているけれど、本店にはもっとあるわ」とお店のひと。他の店でもいろんなケーキを見かけました。菓子パン1.1ユーロ(約169円)から、ケーキ1ユーロ(約154)から。味見をしたいところですが、市場を回りきれないといけません。先を急ぎましょう。 店先に並んでいる色あざやかな野菜。世界中から集められたものです。国土が狭いオーストリアではそれが一般的。ハンガリーからパプリカ(1kg1.79ユーロ=約275円から)。中国からは白菜(1kg1.6ユーロ=約246円)。そしてイタリアのトマト(1kg1ユーロ=約154円)など、各地の名産の野菜が並んでいました。そんな世界中の農作物のなかに並んでいるのは「ケレック」と呼ばれる、トルコ特産の若いメロン(1kg3ユーロ=約462円)。まだ熟してないから甘くなく、酸っぱいそうです。種の感じが確かにメロンです。甘いのはトルコメロン(1kg1.5ユーロ=約231円)。色はメロンというよりも、むしろカボチャみたい。「店によっていろいろな品質のものが並ぶけれど、うちの店は一番いい品質のものを仕入れているよ。他の店では二級品もあるけどね」というご主人の言葉通り、店は繁盛しており、味は本物のようです。 ![]() ■チーズを売る店 オーストリアの食卓に欠かせないのがチーズ。店にはいろんな種類のチーズが並んでいますが、ひときわ大きいのが牛の生ミルクのチーズ。試食してみると、味は濃厚だけど臭みもありません。パンと一緒でも、そのまま食べても美味しいチーズです。見れば、1ヵ月、6ヵ月、9ヵ月と熟成度に分けて売っていました(100g0.8ユーロ=約123円から)。健康にもよく、チーズだけを食べても体に十分な栄養が摂取できるのだそうです。次は鶏肉屋さん。実はオーストリアでは、肉のなかでは鶏肉が一番高級品。自然に育てられてた鶏で、肉付きもしっかりしています。カリッとフライにしたり、丸ごと焼いたのも脂が乗ってて美味しそうです。鶏肉1kgが3.3ユーロ=約508円から 市場で、今すごく人気のパンがあると聞きました。どんなパンなんだろう?と、焼きたてのいい香りがするパン屋さんへ。そのパンの名前はフラーデンブロート。トルコ伝統のパンですが、最近はオーストリアでも人気だそうです。スープと一緒に朝食にしたり、サンドイッチにしたり、いろいろな食べ方をします。直径が30センチと大きくて、しかも安いのも人気の理由だそうです。安くても味はなかなかのもの。外はカリカリ、中はしっとり。軽い塩味が食欲を誘います。1枚0.6ユーロ(約92円)。明日、このパン作りを見せてもらうことになりました。 ![]() ■牛肉とラム肉のアダナ・ケバブ 午後1時。トルコ人市場とも呼ばれている市場だから、美味しいトルコ料理を食べることにしました。ご存知の通りトルコ料理は世界三大料理のひとつ。日本でも最近ケバブの店を見かけるぐらい、ポピュラーな味になってきています。トルコ系の人たちもその味を絶賛する店「レストラン・ケント」。店のオススメで注文したのは、アダナ・ケバブ。牛肉とラム肉のケバブ料理。スパイスで味付けした肉を、器用に鉄串にのせていきます。あとは鉄板の上でじっくり火を通すだけ。肉汁が垂れはじめたら食べ頃。ライスとサラダがついて、6ユーロ(約924円)。ユーロが高い今のヨーロッパでは、良心的な値段です。味はさすが世界三大料理。まろやかでスパイシーなこの味は、他の料理では味わえないテイストです。 ![]() ■宇田川雅人さん(33歳) 午後4時。市場を離れ、ブラブラしていたらいい時間に。このあと、ウィーンで焼き鳥屋を開き、繁盛させている日本人と会う予定です。その人は、宇田川雅人さん(33歳)。ウィーン在住8年。千葉県出身で、大手焼肉店々長としてウィーンに派遣され、3年前に独立。居酒屋「火鶏」は、地元新聞にも取りあげられる人気店となっています。オーストリア産の鶏肉は甘味があり、脂身が多く美味しい。皮や軟骨、内臓など日本と同じものを出したい。客の80%以上がオーストリア人。焼き鳥は気楽に食べることができ、安いのが受け入れられている。串盛り5本が8ユーロ(約1,236円)、寿司盛りが15ユーロ(約2,317円)。「ウィーンは静かな街で日本と比べリラックスでき、自分の時間が持てる。今は仕事が楽しくてしょうがない!」と語る宇田川さんでした。 ![]() ■ベーカリー・グル 気持ちよく晴れ渡った翌朝。市場で人気のパン作りを見学に。日曜日の朝ということで、街は閑散としています。観光客でにぎやかな街もいいけど、こんなウィーンの景色もまた趣がある。教えてもらったベーカリー「グル」は、市場の程近くにありました。店名の「グル」はトルコ語で「バラ」という意味です。 ![]() ■作業中のジサレットさん(右) 店は開店したばかり。でも、もうお客が並んでいました。地元でも人気のパン屋です。トルコ伝統のパン、フラーデンブロート作りを見せてもらいます。店は一階が店舗で、パン工房は地下にありました。ここで一日何百個というパンが焼きあげられるのです。フラーデンブロートの材料は、生イースト、塩、ふくらし粉、小麦。シンプルなだけに、味はごまかせません。まずはパン生地作り。先ほどの材料に水を加え、30分ほど機械で練りあげていきます。練りあげた生地は、次の機械へ。粘りのあるパン生地の塊が投げ込まれ、フラーデンブロート一枚分の大きさに切り分けられて出てきます。その重さ500グラム。 パン作りを見せてくれているジサレット・トルガスさん(35歳)はトルコでパン作りを学び、その技術を買われ、17年前にオーストリアに移住。1993年に結婚、子供は2人です。パン工房をきりもりしながら、若い職人たちにトルコのパン作りの技を教えています。朝7時から夜7時迄の12時間労働。職人のチーフとしてオーナーの期待も大きい。 ![]() ■外はカリカリ、中はしっとりのフラーデンブロート 切り分けられたパン生地を、いよいよフラーデンブロートの平たい形にします。そして、生地に独特のデザインを施していきます。一枚ずつ手で模様を入れるのが決まり。生地は薄すぎても厚すぎても、焼き上がりや味が変わってしまいます。そして焼きあげる前に、もうひと手間。白ゴマと黒ゴマを振るのがトルコ流。そのまま15分ほど置き、あとは250℃で13分焼きあげるだけです。オーブンでは一度に144枚焼けます。そんなに焼いて大丈夫か?との心配は、まったくの杞憂。その理由はあとでわかりました。 「食べ物として必要不可欠なものを作る仕事だよ。皆が食べるものを作るということは楽しいよ。仕事のこだわりは、このパン職人という職業を選んだことがすべてだよ。他の仕事を選ぶこともできたけど、自分はパンを作ることが好きなんだ。その好きという気持ちを大事にすることだよ」とジサレット・トルガスさん。 ![]() ■他の職人たちと一緒に昼食をとるジサレットさん(中央) 仕事が落ち着いたのは、午前11時。パンを焼き上がるまで短い時間、他の職人さんたちと一緒に昼食タイムです。忙しい合間を縫ってのランチは、パンとチャイで軽くお腹を満たすのが精一杯。庭を見ながらくつろぎのひとときです。「トルコから来ているんだ。何年も一緒だよ。皆、楽しく働いているんだ」とジサレットさん。しかし、パンが焼ける香りがしてきたら、すぐさま工房に戻ります。 焼きあがったパンはすぐさま店先へ。そこには焼きたてのフラーデンブロートを待っているお客さんがいっぱい並んでおり、ひとりで何枚も買い込んでいくひとがほとんどです。これなら一度に144枚焼いても、まったく問題なし。人気のほどを見せ付けられました。伝統のケバブや他のトルコ料理に合うフラーデンブロート。見た目はシンプルですが、外はカリカリ、でも中はしっとり。絶対日本でも流行ると思います。それぐらいおいしいパンです。ジサレットさんの夢は、パン作りの学校などで勉強して、本当の意味でのパン職人になることです。ジサレットさんは、このあともほとんど休みなくパンを焼き続けていました。 ウィーンの下町で出会った市場、ブルンネンマルクト。海外からウィーンに移住した人たちが集う市場は、旅人を心よく迎えてくれる温かい市場でした。ウィーンで聞くトルコ語の響きと、ケバブの香り。自分がどこにいるのかわからなくなる、ちょっと異邦人な気分が味わえた旅でした。 |