|
オーストリア グラーツ「カイザー・ヨーゼフマルクト」
![]() ■グラーツの旧市街の中心地で、一番の繁華街ハウプト広場 ヨーロッパのほぼ中央に位置するオーストリア共和国。首都はウィーン。北海道ほどの国土で、西側はリヒテンシュタイン、スイス、南はイタリアとスロベニア、東はハンガリーとスロバキア、北はドイツとチェコと、8つの国に囲まれています。かつて中欧に600年以上君臨したハプスブルク家の帝国であり、第一次大戦までは英独仏露と並び欧州五大国の一角を占めていました。現在は、多民族国家であった旧帝国のうち支配民族であったドイツ人地域に版図を絞っています。音楽を中心に文化大国としての歴史をも有しています。成田空港からウィーンへの直行便があり、所要時間は12時間ほど。通貨はユーロ、1ユーロが約154円です(2006年9月現在)。 グラーツは、オーストリア南西部、緑豊かなシュタイアマルク州の州都で、首都ウィーンに次ぐ第二の都市です(人口は約23万人)。現代都市の機能を持ちながらも、街並みは中世の旧市街をそのまま残し、世界遺産にふさわしく、歴史の重みを漂わせます。グラーツの旧市街の中心地で、一番の繁華街がハウプト広場。この広場から繋がるヘレン通りには、高級店や観光客向けの店が並びます。 ![]() ■州庁舎の中庭回廊 そのヘレン通沿いには、国そのものが建築物の博物館と評されるオーストリアでも、とりわけ貴重な建物があります。それが16世紀半ばイタリアの建築家ドメニコ・デラリオによって設計された州庁舎です。ルネサンス建築の傑作といわれており、アーチがイタリアデザインの美しさを主張しています。夏の期間は、中庭で映画祭やコンサートが開催されます。 ![]() ■城跡のあるシュロスベルクの丘 シュロスベルクの丘に登れば、滔々と流れるムーア川東岸に広がる旧市街の美しさが一望できます。丘全体が城跡の公園となっていて、城跡に残る時計台は中世以来の街のシンボルになっています。この時計、ちょっと変なんです。長針が「時」、短針が「分」を指す、面白い時計です。グラーツは小さな街ですから、近くなら徒歩で、ちょっと遠くへ行くときにはトラムと呼ばれる路面電車が使われます。 ![]() ■1890年から続くカイザー・ヨーゼフマルクト この15世紀から続く要塞都市の中央に、箱庭のような青空市場があります。それがカイザー・ヨーゼフマルクト。帝国を築いたハプスブルク家のなかでも、名君の誉れ高いヨーゼフ1世の名前が付いた由緒正しき市場です。その歴史は古く、1890年から続き、小さな教会前の広場におよそ200のお店が軒を連ねます。市場のなかは近隣の生産者が持ち込む新鮮な食べ物でいっぱいで、朝6時から午後1時まで、ひとの流れが絶えることはありません。日曜日は定休日。 売り場を見ていてよく目にするのが「BIO」の文字。無農薬有機栽培の作物が多いんです。「有機栽培のものは他とはまったく違う味なのよ。時間をかけて大切に育てている野菜だと実感できるわ」とお客さん。パプリカ1kgが2.5ユーロ(約385円)から、ナス1kgが6ユーロ(約924円)から、トマト1kgが3ユーロ(約462円)からと、変動するユーロのせいか、けっこう高め。どうして有機栽培がこんなに多いのかというと、オーストリアでは、小さな子供のいる若い主婦を中心に、食品の安全に対する関心が高まっているのだそうです。秋の初め、リンゴも旬を迎えて品揃えも豊富。これもやはり有機栽培でした。1kgが1ユーロ(約154円)から。 ヨーロッパの国々の食卓には欠かせないチーズも豊富です。市場に並ぶのは、すべてオーストリア産。チーズにはお国柄が出ます。シュタイアマルク州は小さな農家が多く、チーズ農家も小規模です。しかし、有機で作っているところが多く、添加物の入っていない健康的なチーズなのだそうです。店では、有機栽培のエサで育てた乳牛のミルクを使ったチーズしか扱わないといいます。パルメザンチーズが1kgで19ユーロ(約2,926円)。 ![]() ■朝6時から午後1時まで、ひとの流れが絶えることはない 市場が最も混雑する、午前10時になりました。野菜売り場で、なじみのある名前に出会いました。どういう名前かというと…、シイタケ。オーストリアでもこう呼ぶのですね。日本のものとはちょっと形は違いますが、炒めたり、ころもを付けて揚げたり、サラダの具にしたりするそうです。100gが3ユーロ(約462円)。もうひとつ、魚売り場でもなじみの深いものがありました。お寿司です。寿司の本を読んだり、寿司屋さんに聞いて作り方を覚えたそうで、ネタにはマスが使われています。値段は一貫1ユーロ、廻る寿司よりちょっとお高いですね。ワサビもついています。醤油はなぜか薄め。味の評判を聞いたところ、「とてもいい味だよ。寿司は何度も食べているし、いろいろな種類を食べたことがあるよ。日本の寿司と変わらないくらいの味だと思うよ」とのことでした。 これだけではありません。オーストラリアの伝統ある市場で、またまた日本と出会えました。この州で取れたカボチャ、日本では見かけない外見です。この赤いカボチャのどこが日本かというと…、袋に北海道と印字してあります。「詳しく知らないけど、遠くの国の品種だと聞いたよ。もしかしたら日本なのかもね」と店のご主人。もしかしなくても北海道は日本ですよ。このカボチャ、日本のものとは違って水分が少ないためパサパサしていて煮物には向きませんが、クリームスープにすれば最高だそうです。 そして、市場で見かけた東シュタイアマルク州の特産品が、カボチャの名産地ならではの種油。有機栽培のカボチャを使って丁寧に作られた、この地方に伝わる昔ながらの健康食品。抗酸化物質が豊富で、心臓病の予防に効くとのことです。種をどうやって油にするのでしょうか…、フリードホスへ行くとカボチャの種油の作り方が見られるということで、明日、見学に行ってみようと思います。 ![]() ■オーストリア最大の、武器博物館 市場が閉まった午後2時。グラーツのちょっと変わった観光名所に行ってみました。スラブ語のグラデツ(小さな城)に由来する街の名グラーツが示すとおり、15世紀にはハプスブルグ家の居城が置かれ、今も街の中心に世界最大級の武器庫が残っています。1642年に建設された5階建ての博物館で、32,000点の武器が展示されています。2階は鉄砲を展示、3階、4階には、25,000の針金で作られた鎧かたびらをはじめ、さまざまな鎧・甲冑が展示されています。これらは映画撮影にも貸し出されるとのことです。さらに、5階には剣や槍が展示されています。入場料は6ユーロ(約927円)、ちょっと異次元に迷い込んだ気分になりました。 ![]() ■5種類のハム、パン、チーズ、そして主役は白ワイン 午後4時。秋の風を感じる頃、オーストリアに行ったのなら、必ず顔を出したい場所がホイリゲ。これは店の名前ではなく、ワインの生産者がこの季節に開く、居酒屋のような場所のことです。今年のワインと、それに合うちょっとした料理が売り物。オーストリアでは、スッキリと爽やかな味わいの白ワインが主流。クセがなく、ハムや肉のゼリー寄せなどによくあいます。私が頼んだのは5種類のハムに、手作りのパンとチーズ、そして主役は今年の白ワイン(これで14.64ユーロ=約2,254円)。グラスの向こうの、美しい山々と一緒に飲み干しました。 ![]() ■小さくてもちゃんとお手伝い 翌日、午前10時。オーストリアの都市、グラーツにしかない特産品、カボチャの種油がどのように作られるのかを見に行きます。車でほんのわずか走れば、窓の外は名画の世界。美しい田園風景が広がります。到着したのは、人口80人のフリードホス・イムスルタール村。ここがヴァルトラウト・ミムリッヒさん(45歳)のお宅。グーテン・モルゲン(おはようございます)と、ミムリッヒさんが妻ミミさん(38歳)と一緒に出迎えてくれました。現在、家のなかを自分でコツコツと改装中だそうです。この村ではそれが当たり前。それでは、畑に案内していただきましょう。 家から15分、22ヘクタールののカボチャ畑が広がっています。有機栽培にこだわって、種を取るためのカボチャを育てています。さっそく収穫開始。畑ですぐにカボチャを割ってしまうのです。中味をみると意外に美味しそうですが、まったく実は食べられないそうです。あくまで、この種が主役。「有機栽培農家としてのポリシーは自然の力で作物をつくっていることだよ。そして作物が健康的で美味しいものでないといけない。そうなるように努力しているよ」とミムリッヒさん。 農業をはじめたのはミムリッヒさんのお母さんで、子供の頃から母親と農業を行ってきました。本格的に有機栽培をはじめたのは17年前。代々の家業ではなかったので、思い切って有機栽培や、カボチャの種作りなど、新しいことにチャレンジしてきました。2003年に結婚、現在、長女ベリーナちゃん(2歳)と長男パトリックちゃん(10ヵ月)がいます。何よりの喜びは、収穫した作物ががよい出来であることだそうです。叔母のドロテアさん(67歳)も加わり、種取り作業です。長女ベリーナちゃんも小さくてもちゃんとお手伝い。月に数回、こうしてみんなで収穫します。多い日は一日100kgの種が集まります。こうして取った種を一昼夜乾燥させます。 ![]() ■カボチャの種油 乾燥させた種を隣町の圧搾所に運びます。この地方には、カボチャの種油を作るたくさんの農家があります。そこでお金を出し合い、この圧搾所を運営しているのです。ミムリッヒさんのような、有機栽培の種を持ち込む農家は、日が決められているそうです。まずは50℃で1時間ほど種を焙煎します。そうしておいて、吸い上げて粉々に砕くのです。この砕いた粉に塩を加え、水を加えて練り合わせます。水は蒸気を与えてふっくら仕上げるため、塩は味付けのためです。さらに1時間ほど高温でかき混ぜ続けると、香ばしいにおいが漂ってきました。 あとは絞るだけ。ぐぅぅぅっと圧縮すると…出てきました、出てきました。添加物をまったく使わず、素材の持つ力を凝縮した健康食品です。医学的にも心臓病の予防によいと言われています。家に戻って、絞り出した200リットルほどの油を瓶に詰めます。1リットルで13.5ユーロ(約2,079円)、作られた場所と日付がラベルに書かれています。パンに付けるのが、一番一般的な食べ方。クセがあるのがクセになる味です。自然に体によいものを食べているということが大事です。 ![]() ■義母マリア/叔母ドロテア/長男パトリック/妻ミミ/長女ベリーナ/ミムリッヒ 午前中の作業が終わり、ランチタイムです。この日は、ハムやサラダと、もちろん作りたてのケシの実ケーキもいただきます。一日の仕事を終えた午後5時、まだ明るいうちに夕食がはじまります。オーストリアの田舎の家庭料理。牛肉、じゃがいも、スープ、そしてカボチャの煮物、こちらは食用に別に育てたものです。この料理は奥さんのお母さんマリアさん(71歳)が作ってくれました。「子供たちは仕事を受け継がせる対象でもあり、成長させていく楽しみもあるよ」とミムリッヒさん、今の仕事にとても満足しており、辞めようと考えたことは一度もないそうです。 小さな村の農場で、昔ながらの、身体によい安全な食べ物を作る。なんでもないことのようですが、それは、子供たちに、そして、子供たちの未来のために、とても大きなこと。小さな油のボトルは、その街にある、美しい世界遺産と同じように伝え残していきたいもの。 |