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建国の父イシュトヴァーン 荘厳な国会議事堂 土産物店が並ぶ中心街
中部ヨーロッパのカルパチア盆地に位置するハンガリー共和国。北にスロバキア、東にウクライナ、南にルーマニア、セルビア・モンテネグロ、西にオーストリア、スロベニア、クロアチアと四方を陸続きで隣国に囲まれながら、他のヨーロッパ諸国と源を異にしたアジア系民族「マジャル人」を先祖とし、この国でしか話されない「マジャル語(ハンガリー語)」を言語に持つなど、独自の文化を育んだ国です。

国の総人口は約1,017万人(2002年3月3日現在)で、国土は約93,030平方キロメートルと日本の約4分の1ほどの大きさ。温帯大陸性気候で日本と同じように四季もあります。通貨単位はフォリントで、1フォリントは約0.55円(2003年8月11日現在)。日本からハンガリーを訪れる場合、飛行機の定期直行便は現在運行されていないため、少なくともどこか他の国で一回は乗り換えが必要です。日本との時差は8時間遅れ(日本が正午12時の場合は、ハンガリーは午前4時)。3月末から10月末まではサマータイムを導入していて7時間遅れとなります。公用語はマジャル語(ハンガリー語)ですが観光地やホテル、有名レストラン、お土産店では英語が通じるところもあります。

マジャル人の内部の闘争に勝ち、聖イシュトヴァーンがハンガリーの初代国王になってから1000年あまり。様々な歴史に翻弄されながらも有形無形の貴重な文化財が数多く残るハンガリー。その美しさを一目見ようと遠くから訪れる旅人が後を絶ちません。

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左岸がブダ・右岸がペスト 王宮の丘は中世の町並み セーチェニ温泉
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有名な風呂チェス
そのハンガリーの首都ブダペスト。1873年にブダペストと呼ばれるまでペスト、ブダ、オーブダ(旧ブダ)と3つの都市に分かれていました。現在のブダペストは町の中央を走るドナウ川を境に西岸をブダ、東岸をペストと大まかに分けることができます。

ブダは起伏に富んで緑が多く、700年に渡ってハンガリー国王の居城となった王宮がそびえる「王宮の丘」や、町が一望できる「ゲッレールトの丘」などがある丘陵地帯。歴史的建造物も多く、中世の面影を残す一帯は観光の中心とも言えます。逆にペストは平坦な地形で、商店やオフィス、官庁や劇場が並ぶ商業地区。賑やかな町並みにも観光客の足は絶えません。「ドナウの真珠」と呼ばれるブダペスト、ドナウ河岸とブダ王宮地区はその美しさからユネスコの世界遺産にも登録されています。

また、ハンガリーはアイスランドに次いで温泉水量を保有している温泉大国。ブダペストにも80を越す源泉と50近い浴場があります。約2000年前のローマ時代からあったといわれるブダペストの温泉浴場。現在も市民の社交場として、また観光の楽しみの一つとして様々な人々に利用されています。

中でも最も有名な温泉の一つがセーチェニ温泉です。室内に12の湯舟、屋外に温度の違う3つプールを持ち、ヨーロッパでも最大規模の温泉センターといわれています。室内の温泉は運動障害のリハビリや血行障害などに効能があるとされ、常駐する医師の指導の下、飲用治療なども行われているそうです。屋外のプールにはセーチェニ温泉名物「風呂チェス」を楽しむ人々がたくさんいました。水着姿で普通の帽子をかぶりながら湯舟につかってチェスを指している姿は、日本人から見ると「露天風呂に帽子をかぶって将棋を指す」というような妙な違和感を覚えなくもない光景ですが、1900年初頭に建てられたこの温泉にはとても似合っていました。

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中央市場の美しい正面 広々とした市場内部 白ニンジンを買った親子

ドナウ川に架かる自由橋のペスト側たもとすぐに、カラフルなモザイク模様の屋根でひときわ目を引く煉瓦作りの建物があります。100年以上の歴史を持つハンガリーで最も有名な市場、中央市場です。営業開始は1897年。当時、首都にふさわしく衛生的で天候に左右されない屋内市場の設立が提唱され、現実化されたのがこの市場です。第二次世界大戦の際、大きな被害を被りましたが1990年代の修復により建設当時の景観がよみがえり、今では重要文化財に指定され、ブダペストの顔のひとつとなっています。

地下一階・地上二階で構成された市場の店舗数は約230店。売られているのは、肉、魚、野菜などの生鮮食品から日用品・お土産物と、その商品揃えから地元客から観光客まで幅広い人々が買い物にきます。まず入って印象的なのが、高い天井とガラス張りの大きな窓から入ってくる自然の採光です。幾多もの鉄柱が大きな市場の建物を支え、吹き抜けの2階建て構造は実際よりもさらに広がり感を見せています。大きな照明施設がなくても外から入ってくる十分な光がさらに室内の圧迫感をなくし、まるで大きな屋根がかけられた屋外市場といった雰囲気です。

一階の売り場は主に肉、野菜、パンやお菓子、乳製品などが売られています。商品の多くはキロ単位で表示されて、例えばキャベツ やナスは1キロ98フォリント(約54円)豚肉ショルダー1キロ769フォリント(約423円)、おししそうなケーキも1つ110フォリント(約61円)と庶民的な価格です。市場で出会った、この近くに住むと言う親子は白いニンジンをたくさん買っていました。「白ニンジンと普通のニンジンと鶏肉を煮込んでスープを作るのよ。もちろんパプリカも入れるわ。この市場は安くて良いわよ」

ハンガリーは食事が美味しいことでも有名ですが、その料理に良く利用される食材がそのパプリカ。パプリカ抜きにはハンガリー料理は語れないといいます。形はピーマンのような物から唐辛子のような細長い物、味も甘い物から辛い物と様々。市場では生のパプリカも多くの種類を扱っているのですが、中には乾燥パプリカやチューブ入りのパプリカペーストも見られました。ハンガリーの代表料理、パプリカと牛肉を煮込んだスープ「グヤーシュ」が簡単にできるというグヤーシュ味のパプリカペースト280フォリント(約154円)は日本へのお土産にも喜ばれそうです。

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様々なパプリカペースト

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海の魚は輸入物 とにかく美味、グヤーシュ 商品は通路にまでせり出す
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マチョーのブラウス
地下一階は肉、魚、日用品などを扱っています。ハンガリーは海に面した国土がないため、売られている魚類も海の魚より、ドナウ川やティサ川などで捕れた川魚の方が圧倒的に多く見られます。コイなどと共に売られていたブシャという川魚。やはり生臭いらしく調味料を多く使ったり、ニンニクや牛乳と煮て臭みを取っていただくそうです。

二階に軒を連ねるのは軽食スタンドや土産物店。食事も美味しく安いうえ、土産物店の方も町中のお店より安いとあって、食事を楽しむ地元客、お土産を買いに来た観光客でごった返しています。お昼時、最も人気のあった食堂が「ブルミ・ブフェ」。一番人気はやはりハンガリーの国民食、グヤーシュです。牛肉やパプリカ、トマトやジャガイモをふんだんに使った具だくさんのグヤーシュ(一杯600フォリント・約330円)は、濃厚な牛肉のダシと数種のパプリカの甘みや辛みが絶妙で一度食べたらやみつきの味。ちなみに今回のハンガリーロケ、スタッフのナンバーワン・ハンガリー料理はブルミ・ブフェのグヤーシュに満場一致で決定しました。

ひとまとまりになった軽食スタンドエリアを抜けると華やかな土産物売り場です。民族衣装を着た人形や手作りの木工製品、カラフルなペイントが施された小物入れなど、ハンガリーの伝統的なお土産が一通り揃っています。

中でも一番多いのが、白い木綿地にカラフルな刺繍が施されたハンガリー刺繍の商品です。華やかな刺繍製品は世界中に愛好者がいるといわれるほど。マチョー地方で作られる赤や緑の色使いが印象的なマチョー刺繍や、カロチャ地方で作られるパプリカ模様などをあしらった、ソフトな色合いが特徴のカロチャ刺繍の二つが最も有名で、小さなコースター1200フォリント(約660円)や大判のテーブルクロス24000フォリント(約13,200円)、伝統的な刺繍ブラウス10000フォリント(約5,500円)など、その美しい絵柄一つ一つを見ていると時間が経つのも忘れてしまう程です。私たちはお店の方にお願いし、マチョー地方で伝統的な刺繍製作をしているというガーシュパールネー・マリアンさん(40歳)を紹介してもらい、作業を拝見させていただくことにしました。

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マリアンさんとご主人 皆さんで作業中 紙に下絵通りの穴を開ける
マリアンさんのお宅はブダペスト中心部から車で東へ2時間、マチョー地方のメズークヴェシュットという町にありました。メズークヴェシュットはマチョー刺繍の代表的生産地のひとつだそうです。住宅街の中にある自宅兼作業場で、マリアンさんはご主人のラースローさん(45歳)と一緒に私たちの到着を歓迎してくれました。

マリアンさんの案内で早速作業を拝見させていただくことに。作業場には5名の女性スタッフの方が働いていました。皆親戚関係にあるそうで、和気あいあいとした雰囲気です。マリアンさん達が手がけるのはブラウスやテーブルクロス、コースターや人形など様々な製品です。作業場のスタッフだけでは到底まかなえないので外注で内職をお願いしているそうですが、その数なんと90人。でもマリアンさんは工場などにはせず、各自自宅で仕事をしてもらい、すべて手作り商品として製作しています。

今日の作業は主にブラウスの製作。まずは伝統的な絵柄の上に半透明なトレーシングペーパーをしいて、ボールペンでその絵を上書きします。上書きした絵にもう一枚トレーシングペーパーをしき、絵の通りにパンチャーで小さな穴を開けていきます。この絵柄ですが1910年頃からすでに決まっているとのことで、大体600種類のデザインがあるそうです。次に裁断した生地に穴を開けたトレーシングペーパーを乗せ、上から青色のビアースと呼ばれる蝋のような塗料を塗ります。そしてトレーシングペーパーをはずすと下に刺繍を施すための下絵が写るというわけです。その後生地を縫い合わせブラウスの形を作ります。

実際の刺繍の作業は、刺繍したい部分に木枠をはめ込んでひと針ずつ縫っていくという昔ながらのスタイルです。この時に重要なのが針の質だそうです。質の悪い針は糸も生地もダメにしてしまうからなのだとか。また配色なども間違えないよう気をつかいながら、他の糸と引っかからないよう、また裏もばらつかないように縫っていくのが大変だそうです。確かにひと針ひと針の積み重ねである刺繍のような細かな作業は神経を使うのだろうな、と思うのですが、皆さん手際よいスピードでどんどん縫っていきます。黙々と刺繍に打ち込む姿を見てハンガリー人の勤勉さを見たような気もしました。
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一針一針縫っていく

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ギャサー刺繍は高度な技術 全員が手作りで取りかかる 皆との食事も大切な時間
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インタビュー風景
最後に首の部分にギャザーを寄せて、そこに刺繍を施します。首のギャザー刺繍は、他ではあまり見られないマチョー的なスタイルだそうです。値段もこの首の刺繍があるかないか、どの程度の刺繍が施されているかで決まってくるそうです。このようにして作られるマリアンさん達の刺繍製品は中央市場やブダペストのお土産店に卸したり、日本やドイツ、オランダなど世界各国の顧客からのオーダー注文にも対応しています。

もともと彼女のお母さんも刺繍をしていて、その影響で幼い頃から趣味として刺繍をやっていたというマリアンさん。刺繍の技術のほとんどはお母さんから教えてもらったそうです。経済大学を卒業して金融関係の仕事に従事していましたが、幼い頃から親しんだ刺繍の仕事に転身、実際やってみると以前より収入が良く、仕事はすぐに軌道に乗ったのだとか。

マリアンさんのスタッフは彼女のことを口々に「彼女はとても良い指導者。細かなところにも気を配って指示してくれているわよ」といいます。マリアンさんもそんなスタッフを、「選ばれた人たち」といい、信頼して仕事を任せ外での営業活動に力を入れています。マリアンさんのポリシーの一つに「スタッフと経営者の関係がうまくいけば、仕事はすべうまくいく」というのがあるそうです。実際、スタッフと良い関係を持ち、仕事で成功している彼女を見るとそれが実行されているなと感じます。

そしてもう一つのポリシーが「民芸品の良さを伝える」ということ。現在、ハンガリー刺繍も色々なスタイルがミックスされ、オリジナルのマチョースタイルというのが少なくなってきているそうです。でもマリアンさんは、新しいことにも挑戦しつつ、伝統的なスタイルもずっと維持していきたいと考えています。今後はハイパーマーケットや大企業などに売り込んで市場を広げたいという彼女。それは経済的な目的だけでなく、広く国内外の人にマチョー刺繍の良さを知ってもらいたいからなのだそうです。

一針一針の積み重ねである刺繍製作は地味な作業ですが、出来上がったマチョー刺繍の鮮やかな色合いは、ハンガリー人が持つ心の豊かさ、華やかさを映し出しているかのようでした。マリアンさんの心の中にもこの先ずっと、この華やかな気持ちがあり続けるのでしょう。

 

ハンガリー「中央市場」
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